第2話 呪は言葉
【
(神問)
呪とは何なり?
(神答)
呪は言葉なり
(神問)
祝とは何なり?
(神答)
(神問)
呪は何故生まれたり?
(神答)
言葉を作りしゆえ
とこのような問答形式で書かれている古文書で祝家の当主は三千二百枚に及ぶ全てを読み覚えなくてはならない。
その古文書を前にして
「はあ〜、これこそ呪いだよなぁ…… こんなの覚えろって呪った三代目を呪いたいよ」
日本が縄文時代中期の頃に大陸より
実はその
それでも覚えようと読んでいるのは先ほど長流自身も言っていたが、祝家における当主への呪となっているのもあるが、問答形式なので読みやすいというのもあった。
「けど漢語を誰も現代日本語に直そうとしなかった怠慢には俺は怒ってるぞ、俺の前の明治以降の当主たちよ!!」
などと愚痴を言いながらも長流は依頼のない日はこうして古文書を自分の後の代の当主が読みやすいようにと現代日本語に翻訳しているのだった。
今日も今日とて翻訳をしていた長流の元に園山と木高の二人がやって来た。
「おはよう、暇でしょ? ちょっと捜査に協力してよ」
「おはようっす、長流さん。富里町で変死体が見つかりまして、町長が一課の奴らに呪い殺されたんだって言ってるらしいんすよ。一緒に来て話を聞いて貰えるっすか?」
「うん、園山さんの言葉で行くのを止めようかと思ったけど、木高さんの丁寧な説明で行く気になったから行くよ」
「何でだよっ!! 可愛いお姉さんが誘ってあげてるのに!?」
「そんな篠原涼◯みたいに言われても、俺は園山さんの言葉に傷ついてますから」
「えっ? 私の言葉に祝を傷つける要素なんてあった?」
「先輩、捜査に協力して貰うのに、第一声が「暇でしょ?」って人としてどうかと僕は思うっす」
「えっ!? ダメなの? 私の上司の常套句なのに!?」
「あ〜…… 課長は昭和時代にドップリと浸かって育った人っすから…… でも先輩は平成産まれっすよね? 課長に毒されちゃダメっすよ」
木高の言葉にガーンッという感じで固まる園山。
「はいはい、まあ園山さんの言葉が挨拶代わりだった事は理解しました。それじゃ、行きますか」
長流はそう言って家の外に出た。玄関に鍵もかけない長流を見て園山が言う。
「ちょっと祝、鍵をかけないの? この辺も田舎とはいえ最近は変な奴も増えてきてるんだから留守にするなら鍵をかけた方が良いわよ」
刑事らしい忠告だったが、長流は
「いや、大丈夫だよ園山さん。鍵はかけなくても呪はかけてるからね」
そう言って覆面パトカーの後部座席に乗り込んだ。何故か助手席に座らずに長流の横に乗り込む園山。
「出して木高」
「はいっす!」
運転席に木高が座り全員がシートベルトをしたのを確認して覆面パトカーは出発した。車内で園山が長流に質問する。
「でね、祝。あなたこの前言ったでしょう、呪は言葉だって。もうちょっと詳しく教えてよ」
「アレ? 園山さん、呪を信じるようになった?」
これまでの園山は長流と共にいくつかの呪いにまつわる事件を解決(後始末)したが、最初の三件目ぐらいまでは、
「この世に呪いなんてあるわけないでしょー!」
が口癖であった。そう言えば気づけば言わなくなってたなと思い起こす長流。
「いくら、頭がダイヤモンドだと言われる私でも、八件も呪いについて関わってたら信じざるを得ないわよ……」
「ああ、そうなんだ。頭が固いっていう自覚はあったんだね、園山さん」
「そこっ! そこじゃないから、感心するのは!?」
長流の言葉に突っ込む園山。
「いや〜、僕と先輩よりいいコンビっすよね、ホント」
「木高さん、俺は木高さんと園山さんこそが最高の
などと質問に関係ない事を話してたら園山がキレた。
「もう、早く教えなさいよ、その為の捜査協力者なんでしょ、祝!」
「いや、そういう事は警察内で指導するって俺は聞いてたんですけどね? まあ良いか。呪は言葉であり、言葉は呪なんですよ園山さん。例えば俺が園山さんを園山という苗字で呼んでいるのはその方が呪が掛かりにくいからです。女性でも男性でも、未だ夫婦別姓が合法となってない日本だと苗字は変わる可能性があるでしょう。名前を変える人は少ないですから、名前の方には呪がかかりやすいんです。芸能人や作家の人たちは芸名やペンネームでも呪がかかりますね。その名の人だと周りが認識してますから」
「ぜんっぜんっ、例えになってないんだけど、祝。つまりどういう事なのよ?」
「う〜ん…… いざ人に説明するとなると難しいな…… 園山さんは休みの日でも【朝、起きる】んですよね? それも呪だと言えば分かりますか?」
長流の言葉にキョトンとする園山。
「えっ、祝は普通に朝起きるのが呪いだって言うの?」
「そうですよ、園山さん。朝に起きなさいっていう呪いをかけられてるんですよ、子供の頃からね。特に日本人は多いと思いますね。分かりやすく言うなら他には宿題をしなさいとか、寝る前に歯を磨きなさいとかですか。それらは全て呪なんですよ」
「ええーっ!! ウッソだぁー。親の小言が呪いなら教育の
園山の驚きながらの反論に長流はしてやったりの顔を浮かべる。
「だからそれを誤魔化す為に神様は俺の苗字でもある祝という言葉を作ったんですよ、園山さん。元を糺せば
長流の言葉にブツブツと何か呟きながら考え込む園山だが、運転しながら聞いていた木高は、理解したようで。
「なるほど、そういう事っすか。つまり、言葉が無ければ呪いは産まれなかったって事っすよね?」
「さすが木高さん! 頭が豆腐並に柔らかい! あ、褒めてるんですよ。そう、自分の感情を表現する言葉という物が神から与えられた事により、その時から呪い(祝い)が産まれたと我が家では伝えられてます。俺もこの伝えられている事は正しいと思いますね」
「なるほどっすねぇ。良く分かったっす!」
「キィーッ、木高に理解出来て私が理解出来てないなんてっ!!」
「ホントに園山さんはダイヤモンド並に頭が固いんだね……」
ちょっと呆れ顔の長流であった……
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