第5話

(これは・・・夢だろうか・・・)

自宅に帰ってから、手渡されたメモをリビングで広げる。

電話番号と、トークアプリのアカウントが書かれている。

「いやいやいやいや、落ち着け?」

そう、落ち着け。

たった一度、代わりに本を借りてあげただけだ。

彼の言葉に甘えて、過大なお礼を受けてしまう事もできる状況だったものの、それを辞退した。

他にも古くからのファンが居るだろうし、偶然会えただけなのに、なんだかフェアじゃないと感じるのだ。

なのに彼は私の手の中に、更に過大すぎるお礼を残していった。

わらしべ長者?アンデルセン童話??

とにかく身に余りすぎて、持て余してしまう。

(どうするのが正解か・・・)

そのまま、メモとにらめっこをしながら1時間を過ごした。


私は普段、駅の向こうの総合病院で経理課職員として、人間関係は決して良いとは言えない環境ながら、もう8年ほど勤めている。

公立の商業科の高校で「数学はからっきしなのに数字が好き」という特異なスタイルで、割と良い成績と資格試験の合格証を手に卒業し、商業系で有名な簿記専門学校に入学したものの。

周りと目指す物のベクトルが違いすぎて、所持していた資格の1級上だけを取得して無難に卒業。

卒業後は大手企業で仕事に就いたものの、とある事情で退職した。

今は低賃金ながらも、なんとなく、穏やかに生活している平凡な人間、平凡な人生。


そこに今日の出来事。

晴天の霹靂。

ひとまず気持ちを整理するには、借りてきた本を読みふけるしかない。

うん、そうしよう。

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いつか悠久の明日が香る @iggkj

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