第5話
昔見た映画では、力のコツを教わっていた気がする。闇雲に指先に力を込めるのでは文を読むのに適さない。男は今日もいくらか書き込み、遡ってミスを修正する。書くこと、はなぜ発散たりうるか。読むことは、なぜ愉悦たりうるか。後方にもやがかった過去は蒸発しそうだ。
この男はなぜ書くのだろう。顔をのぞき込んで見る。真顔だ。だが、目には光がある。排泄ではなく昇華。文字は置かれたそのままに鎮座している。漢字とひらがなとカタカナ。そうだった、図書館に読みきれぬとわかっても本があれば満足なように、文字がそこにあることが、昔の私にとって、すでに安寧であった。
指を所定の位置に重ねてみる。この形で明日、また拝借しよう。
事故物件とロマンチスト 磐長怜(いわなが れい) @syouhenya
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