第4話

 男が心療内科に出かけたのを見届けると、私はそろそろとPCに近づいた。ロック画面にもなっていない。タッチパネルにふれてみる、が、幽霊というのは欲が出るとやはり不便だった。かなり力を入れて、指先に集中しなければならない。昔の映画さながらに先輩の幽霊でも現れて、缶の蹴り方でも教えてほしいものだ。

 画面が黒くなって、彼が帰ってくるまで、結局何もできずじまいだった。明日成仏したらどうしてくれよう。

 帰ってくるなり彼は茶封筒と紙を取り出し、スマホを見ながらなにか記入を始めた。

(傷病給付金か)

私は、そんな制度すら知らず堕ちていた気がする。私はこの部屋で死んだ。部屋の中が急に暗く感じる。思い出したくないのかもしれない。おそらく蛆がわき、溶けて、張替えになったであろう床を撫でる。今はパイプベッドの置かれたその下に、腐っていた私がいた。腐る前には、今苦痛の顔をした彼のように、生きて病んだ私がいた。

 いつ、成仏するのだろう。1人と1体の幽霊は、一方通行の目線でこの部屋をシェアしている。

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