第18話 変わらない日々
「はぁ〜〜〜〜」
放課後、俺はため息を吐いて生徒会室の机に突っ伏していた。別に学校で何かがあった訳ではない。実にいつも通りだったのだが、
莉々菜に会いたい
その想いで今日1日、教室の扉から北高の方を見たり、昼休憩は珍しくグラウンド近くで弁当を食べたりしていたのだ。
失恋直後に出会って、あんな出会いをして一夜を過ごせば好きにならない方がおかしい。きっと向こうも同じ想いでグラウンド付近にくるかと若干期待していたのだが、そんなことは無かった。
「そういえば会長、梨亜さんの件、すいませんでした」
新太が突っ伏していた俺に耳打ちしてきた。先日、梨亜と別れたと知らずに結愛のことを色々連絡していたことについてだろう。別に気にしてないし、むしろ後輩の恋愛成功を心から祝っていたのに。まだ付き合えてる訳ではないが。
「新太、元カノの件は俺はまっっったく気にしていないし、結愛と成功したことをもっと喜べ」
口が裂けても北高の生徒会長とちょっと良い雰囲気になりかけてるなんて言えない。別れたその日に好きな人ができたとか言ったら恐らく新太に猿だと思われてしまう。
「やっぱり裏で会長に相談していたんだ」
生徒会室に入ってきた結愛に俺の声が聞こえていたらしい。別に聞かれてマズいことではないが、新太はマズいと言った顔をしている。
「結愛、そのゴメン」
「何謝ってるの?別に悪いことじゃ無いじゃん。私も友達に相談していたし」
「え?相談?俺のことを?」
「あ、いや、とにかく体育祭近いんだから生徒会がんばろ」
そう言って結愛はいつも座っている席に着いた。恐らく俺が出るまでもなく2人は両想いだったのだろう。きっと結愛も結愛でどうやって想いを伝えるべきか悩んでいたに違い無いが新太は気づいて無さそうだ。
「ユウト、彼女と別れたんだって?」
続いて雛が入ってくる。どうやらうちの生徒会メンバーは入室時に一言小言を言うらしい。
「誰から聞いたんだ?」
「普通に噂で聞いただけ」
「まあ、俺レベルになると噂になっちまうか。芸能人もこんな気分で恋愛してるんだろうな」
調子に乗った風に俺が言うと
「まあ、人の失敗話って誰の話でも面白いからすぐ広まるもんね」
と強烈なカウンターを返された。いいし。俺友達多いし。
「まあまあ喧嘩は辞めて、体育祭今週なんですから忙しくなりますよ」
その結愛の一言で皆んなが仕事モードになる。生徒会なんて、華の仕事として描かれがちだが現実はただの雑用雑務が主な仕事だ。公立高校特有の何年前か分からない年代もののノートパソコンを使ってちまちまと資料を作っていく。
その他にも予算関連や備品管理など雑務が大量に残っている。
「会長さん。この仕事終わったら放課後はカラオケ連れて行ってほしいな」
はぁ〜とため息を吐きながら雛が死んだような顔でそう言った。
「あ、賛成です!」
「会長ありがとうございます!」
続いて結愛と新太も続いた。因みに今日はまだ月曜だ。なんだこの金曜だと錯覚しそうな空気感は
「あのな、このままのペースだったら絶対本番迎える事には満身創痍になってるぞ。いくなら前日だ」
「じゃ、本番前日の金曜日に連れて行ってよ。奢りで」
クソッ!やられた
これは良く取引でも使われる行動心理学に基づいたドアインザフェイスと呼ばれる手法だ。
最初にあえて高い要求をして、相手に断られたら小さな要求をして相手に飲ませる。雛、こいつかなりのやり口だな。
そしてその後、適当にキリの良いところで仕事を終えて帰宅する事にした。
結愛と新太はクラスのダンスの練習が入っており、一足先にそっちに向かったので久しぶりに雛と2人での下校だ。
「なんか、久しぶりだね」
そういえば彼女が出来てから一緒に帰るのは辞めていたのだった。
なんだか懐かしく感じる雛との下校。別に学校でする様な他愛のない話をしながらいつもの道を歩く。
「え、妹中学生になったの!?」
「当たり前でしょ。私たちが高校入学したときに小学6年生になったって言ったでしょ」
そんな他愛の無い、いや他愛あるか。まあ普通の会話をしながら帰っているのに、頭の中には莉々菜がチラつく。
連絡先も、SNSも何一つ交換しなかったから連絡手段がないし、そもそも相手は北高なので会いたくても会えない。変な行動をすると向こうの連中に勘づかれて何されるか分からない。あのクソ野郎がいい例だ。
「ねえ、さっきから人の話聞いてるの?」
「あ、うん。えっと〜お母さんが大根で雛を殴った話だっけ」
「え、この話ユウトにした事あったっけ?」
「え、マジであったの?」
適当にありえない話をして、笑いに変えて話を聞いてなかったのを水で流そうとしたのだが、え?お母さんに大根で殴られたことあるの?あの温厚そうなお母さんに?
「雛、え、マジ?」
「マジはこっちのセリフ。やっぱり聞いてなかったじゃん」
「聞いてなかったのは謝る。だけど大根の話を聞かせてくれ。多分気になりすぎて夜も眠れない」
「夜も私のこと考えてくれるんだ」
「大根のことをな」
その後分かったことだが、どうやら雛が幼いときに大根を冷蔵庫から取り出したお母さんが、たまたまそばにいた雛に気が付かず大根を雛に振り下ろしてしまったらしい。
雛はかなりおっちょこちょいなところがあるのでこの親にしてこの子ありなエピソードだった。
恋の境界線 @LUXION2211
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