第17話 変態クソ野郎

週明け月曜日。いつも通りに学校に登校する。


「会長!おはよう」


後ろから変態クソや・・・ハルトが声を掛けてきた。因みにコイツは例の一件以降皆から変態クソ野郎やドMクソ野郎など散々なあだ名を付けられているが、俺は生徒会長として普通にハルトと呼んでいる。


そしていつも通りカバンを教室に置き、朝練に向かう。例のうんこボール事件のせいで一時期朝練を止められていたが、和解が成立したので今は再開している。


練習着に着替えてシューズを履き、グラウンドに向かう。俺は今は野球部をやめて生徒会に専念しているが、運動しないと体が鈍りそうなのでこうして朝練には毎回参加している。それと生徒会の業務として対北高部隊を野球部メンバーで発足しているのでその活動も兼ねている。かっこいい名前だが、要は向こうの生徒にも笑ってほしい、楽しんでほしいってだけなのでそんなに大した活動は行っていないが。


「おはようございます!」


先に来てネットやボールの準備などを行っていた1年が元気よく挨拶してくる。ここで少し先輩風を吹かしながら


「お疲れ様!ありがとう」


と若干格好つけて言い返す。朝から決まったな。


そしてその後もいつも通りにアップのランニングをする。何か、いつも通りじゃない感じもするが、実にいつも通りだ。


その後、ストレッチをしていると後輩が話しかけてきた。


「先輩、さっきから北高の方見てますけど、なんかあったんですか?」


「北高の方を?俺が見てた?」


「はい。さっきから5秒に1回は。体育祭も近いし何かあるのかと」


今日は莉々菜に会えないかと内心思いながら学校に登校していた。別に好きとかじゃないが。そして無意識のうちに莉々菜を探していたらしい。南高の生徒会長として気をつけなければ。


「お疲れ様で〜す」


聞き覚えのある声がすると思えば、珍しくマネージャーの2人が朝練に参加してきた。


「先輩、そういえば梨亜さんとはどうですか?」


梨亜?あーそういえば元カノの梨亜と別れてから、名前を思い出したくなくてずっと「元カノ」と呼称していたんだった。


後輩が、からかう様な細目でこちらを見ている。梨亜と別れたことはこの野球部の誰にも言ってないから惚気をイジるつもりで言ったのだろう。


「別れたよ」


深刻そうな顔ではなく、至って普通に日常会話をするようなトーンで俺はそれだけ話した。地雷を踏んだと気を使わせないように出来るだけ普通のトーンで言ったのだが


「あ・・・すいません」


と後輩は口篭って俯いてしまった。恐らく隣で何となく盗み聞きしていたであろう別の後輩も「え、マジか」と言った表情でこちらを見つめている。


梨亜も、こちらには一切目を合わせずにマネージャーの待機場所に向かったので全員で絶対何かあったのだという目線を向けられる。


「ユウト・・・もしかして・・・」


いつになく真剣な表情で変態クソじゃなくてハルトがこちらを見つめている。コイツ、こういう時だけは真面目な顔してくれるんだ。


「中折れでもしたか?」


前言撤回。コイツは正真正銘のクソ野郎だ。周りの部員も、恐らく別れたと察したのにクソ野郎のデリカシーのなさすぎる発言に「マジかコイツ」と言った表情をしている。


「よし、カズキとクソ野郎、お前ら境界線付近でコントしろ」


俺は器の大きく優しい先輩なので、地雷を踏んだ後輩、カズキとクソ野郎に赦しを得るチャンスを与えた。


2人は、文句を言いながらも周りの行け!と言った声に押されて渋々境界線付近に向かって行った。


対北高部隊の使命。それは北高の生徒に笑ってもらって南高に対する誤解を解き、その仏面のツラを笑顔にして一緒に楽しい学園生活を送れるようにすること。その為に2人には境界線付近でコントをしてもらわなければならない。これは致し方のない事だ。


2人はブツブツ打ち合わせしながら境界線付近に到着する。そして向こうに聞こえるぐらい大きな声で


「ショートコントッ」


と叫んだ。ダメだこれだけで面白すぎる。


「え〜昨日ね、スーパーに行ったんですよ」


「いやスーパーに行くの超サイヤ人だけだから」


辺りはシーンと静まった。うん。え?そもそもどういう意味なのこのコント。


「先輩、なんで今日に限ってコントなんですか?今日、体育祭前だから向こうの生徒居ませんよ」


あ、そうだった。不意に辺りを見回せば俺たち以外誰もいないシーンとしたグラウンドが広がっている。


北高の方を見れば、一応俺たちの練習を見張っていたであろうアリサが、この距離からでも分かるぐらい笑いを堪えてぶるぶる震えていた。あいつ、意外とゲラだったんだな。


序盤で感じていたいつも通りではない雰囲気は、普段行うノック用のネットとボールの準備が無かった事だった。体育祭前なので、引かれた白線を足跡で消さない様にノックは禁止されていたのだ。


「帰るか」


駄々滑りした2人を置いて、俺たちは同じ仲間だと思われないように校舎に帰って行った。


今週はいよいよ体育祭本番だ。




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