第16話 料理教室
翌日、目が覚めると朝の7時。普段休日は10時ぐらいまで寝ているので早すぎる目覚めだ。床で寝ていたせいで体がバッキバキ。立つのも一苦労だった。
本当は2度寝したかった。なんなら昨日は全然眠れなかったのだ。同級生の女の子が家に泊まっているという状況が徐々にやばいという事に気がつき、あらぬ妄想を夜な夜な繰り広げていた。あと普通に寒すぎた。
適当にテレビを付けると休日の早朝によくやってる番組が流れていた。普段家族旅行などで早起きする時にいつも流れているので、見るだけで自然と特別な気分になる。
そして眠りと起床の狭間を彷徨っていると、2階から足音がしてきてリビングの扉が開く。
「あ、起きてたんだ」
莉々菜が若干爆発している髪を抑えながらリビングに入ってきた。そう言えば普段は髪を結んでいるからこのなんとも言えないオフ感が堪らない。
「これ、あんたの携帯でしょ?めっちゃ鳴ってて目が覚めた」
そういえば、昨日帰ってから自室に携帯を放り投げたのをすっかり忘れていた。通知を見ると新太から
会長
死んでないですか?
本当に大丈夫ですか?
とメッセージが来ていた。さらに振り返ると昨日、結愛とのデートに成功したと書いてあり、2日前には結愛をデートに誘えたとメッセージが来ていた。
そういえば元カノと3日前の木曜ぐらいから不穏な空気になり始めて、携帯の通知が来るのが嫌でおやすみモードにしており、元カノのラインしか返していなかった。
「ちょっと連絡返すわ」
他にも何人かから連絡が来ていたので少し時間をもらう事にした。すると
「りょ〜かい。朝ごはん、食べる?」
「え、手作りですか?」
「当然!で、居るの?」
「下さい」
なんと朝から莉々菜の手作り料理が食べれるとは。寝起きで寝不足で頭が働いていなかったが、元気が出てきそうだ。
そして、何件か返信を返し終わった時、焦げ臭い匂いがしている事に気がつく。
その瞬間、俺の頭の中に昨日の出来事が走馬灯の様に流れてくる。寝起き、そして莉々菜と深く関わったのは初めてだったのですっかり忘れていた。
そうだこいつ料理出来ないんだった
「莉々菜、とても料理とは思えない匂いと音がするんだけど」
そう言いながらキッチンに様子を見に行くと、恐らく目玉焼きを作ろうとしていたであろうフライパンの上に並べられた2個の卵は、焦げており、卵を割るのを失敗したのか形が崩れていた。それだけではなく油を引いていなかったようでフライパンにこびりついていた。
稼働中の電子レンジの中を見ると・・・パンが2枚重ねて焼かれていた。まあ、これは何とか食べれそうだけど普通縦に重ねるかな。
「昨日あの後、料理頑張ろうって思って動画見てたのに」
「まあ実際やると難しいよな。一緒に作ってみるか。教えるぞ」
「お願いします」
そう言って俺も手を洗って料理教室を開催した。
「いいですか莉々菜さん。まずフライパンを使って焼くときは油を引きます」
「あ、これが油なんですね。こっちの油はダメなんですか?」
そういって莉々菜がラー油を指差す。
「そっちは調味料」
「でも油って書いてある。何が違うの?」
「確かに油だけど最初に使う油はこっち。何が違うかって・・・ん〜大体こんなでっかい見た目してて・・・ほら!ここにフライパンに敷くって書いてある」
「なるほど」
この油の下りを終えてふと気がつく。もしかしてコイツめんどくさいんじゃ無いかと。
思い返して欲しい。小学校の時にこんな児童は居なかっただろうか。
「先生、スマホ禁止って事はタブレットなら良いですか?」
このダメだと分かりきった質問をすることでクラスの笑いを誘おうとするお調子者だ。ここまでならまだ良い。だがもし
「なんでスマホ禁止なのにタブレットもダメなんですか?お菓子の方のタブレットなら良いですか?」
ここまで聞かれてしっかり明確な理由を答えられる大人は少ないし、何より第一めんどくさいと思うだろう。そう今の俺と同じ状況だ。莉々菜はこれを悪意なしにやってくるのだ。
その後も莉々菜の度肝を抜く料理テクニックと度肝を抜く知識を指導して行く。
キャベツは最初何枚か剥かないと行けないのは幼少期に母の買い物について行った時に教えてもらったが、確かに明確に何枚剥くかという基準は無いし、なんでキャベツは剥くのにレタスは剥かないかは自分でも考えたことがなかった。
後キャベツの千切りでめちゃくちゃミクロ単位で切ろうとするのやめてね。抑える方の手の指切るかと何度もヒヤヒヤした。
「出来た〜!」
そう言って食卓にはパン、目玉焼き、ベーコン、サラダ、コーンスープ(インスタント)というThe普通の朝食が並んだ。
席に着くなり、やっと解放されたという事で、今はもう夕方と言われても納得できるぐらいの疲労でグッタリと座っていた。
「いただきます」
2人で手を合わせて朝食を頂く。
「自分で作った朝ごはんは美味しい!」
そう言って莉々菜は美味しそうに朝食を食べている。その顔を見ていたらこれまでの疲労が全部飛んで行った。やっぱり可愛いは正義だ。
「片付け、手伝うから手伝って」
「それを言うなら片付けを教えてくださいだろ。何だその日本語は」
「確かに」
そう言ってお皿を割らないかヒヤヒヤしながらお皿を洗い終えた。
「初めて自分で料理を作って片付けたけど、意外と大変なのね」
「そうだぞ。これからはちゃんと両親の事、手伝えよ」
そう言った瞬間、一瞬本能的にマズイと感じた。そういえばコイツ、昨日許嫁やら何やらで昨日泣いてたんだった。両親の話題を出したのがマズかったかも。しかしその心配の必要はなかった。
「普段料理はシェフが作ってくれているから」
めちゃくちゃ笑顔で冗談を言ってきた。シェフが料理を作るなんてドラマの世界でしか見た事ない。まあ東京とかならありえるかもだけどここ鳥取だぞ。
だが、裏を返せば両親なんて存在しない。普段私の食べている料理はシェフが作っているという、両親をシェフに置き換えたブラックジョークなのだと”頭の回転が早い俺は“瞬時に察した。
「そう言う事にしといてやる」
「何それ」
そしてその後、莉々菜はよく一緒に居たアリサちゃんと連絡が取れたらしく、そっちに居候する事にしたらしい。
本当は何日でも居て欲しかったけど、ちょうど今日両親帰ってくるし良いタイミングだったのかも。
そして身支度を整えた後
「その、色々ありがとう。正直南高の生徒って馬鹿しかいないって思っていたけどそうじゃないみたいね」
「あっったり前だろ」
「次会うときは来週の体育祭かもね」
「そう言えばそうだったな。徹底的に潰してやるからな」
「ふふっ。じゃ、勝負ね」
そう言って最後はお互いグーパンチをして莉々菜は家を出て行った。
この嘘みたいな出来事、北高の生徒会長 國崎莉々菜が家に泊まりにくるという一大事を何とか乗り切った。正直めちゃくちゃ楽しかったし、同じ南高なら付き合えてたかもな。
そうありもしない”たられば”の妄想を繰り広げる。ついさっきまで莉々菜が居て騒がしかったリビングはシーンと静まってとても寂しい。
ベットで少し寝不足を補おうとしたら、朝まで寝ていた莉々菜の良い匂いが香ってきて寝付けなかったのは言うまでもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます