第15話 再び、王都へ

「アルティ様ぁ!わっわたし、ずっーとアルティ様の帰りを待っていて、寂しくて、心細くて…………」


 俺が屋敷に入った瞬間、レインが涙目で飛びかかって来た。


「すまんな」


 やれやれ、どうやらレインは俺が居ないと心細いらしい。


 その後、俺がここにいない時のレインの様子をメイドに聞いてみると、どうやら奴隷商からの虐待を受けていたトラウマを思い出し、一日中泣きしゃぐって大変だったそうだ。


「レインを王都に連れて行くか?でも、レインは戦えないから危ない気がするが…………」


 戦えないと思ったが、一応鑑定をレインにかけてみる。



 レイン


 レベル2


 総合力 3万3328


 スキル 【使徒の寵愛】(全属性耐性・自動回復・成長能力B・使徒の加護)


 超級スキル 【凄腕の細工師】



「強さ自体はよく分からんが、細工師のスキルを持っているな。レイン、細工とかは出来るのか?」


「はい?サイクって何ですか?」


 細工の事も知らないらしい。しかし、レインにはモノづくりの才能は間違いなくありそうなので俺はレインに、紙に走り書きした”エアコン”の設計図を見せ、【アイテムボックス】から必要そうな素材を取り出した。


 ちなみに、【アイテムボックス】の存在はみんなにバラしている。みんな「世界を揺るがす!」とか、「1000年に一度の逸材!」とか騒いでるけど、俺の仲間のお家芸だと思ってスルーしている。


 実際、いくら俺が【主神の使徒】だからと言ってもスキル頼みの”ただの人”であり、俺ごときが世界を揺るがすほどの物をポンと作れる訳ないのだ。


 設計図を見たレインが、目を輝かせた。


「アルティ様、こ、これはっ世界に革命が起きます!」


「そんな訳ないよ。でも、作ってみたかった物ではある」


 実はこのオルマン王国は昼間が、日本の夏ほどではないが地味に暑い。


 しかし、弱い氷魔法と風魔法を付与した板を組み合わせて出来るエアコンがあれば、快適に過ごせるはずだ。


「わたし、今からこれを作って良いのですか?」


「ああ、頼んだよ」


「はい!絶対にアルティ様のお役に立てるように頑張ります!」


 レインが意気込んで、エアコンを作り始めた。


「さて、俺はダンカンの工房に行くか」


 自分の邸宅を出て、ダンカンの工房に向かった。


 そしてダンカンの工房に着くと、そこではダンカンが作業をしていた。


「あ、アルティ様!ちょうど良いところでしたよ!こちらでどうでしょうか?」


 俺はダンカンからほぼ完成した剣と、ミスリルのプレートが中に入っているギガントグリズリーの毛皮で出来たローブを受け取った。

 剣とローブには虹色に輝く魔法石が埋め込まれている。


「素晴らしいな。これに魔法を付与するのか?」


「はい、そうです!お願いします」


 俺はまず剣を手に取り、炎の力をありったけに込めようとした……が、剣が壊れそうな感じがしたので、ほどほどにしたら剣身がドス黒い炎で包まれた。


「こ、これは素晴らしい!伝説に出てくるレベルの剣かもしれません!」


 ダンカンは興奮している。


 でも、確かにカッコいい剣だ。愛着が湧いてきた。この剣に名前をつけてやろう。


「この剣の名前を”黒魔剣”とする!」


 すると、それに応えたかのように剣の炎が輝いた。


「剣がアルティ様を持ち主として認めたようです!流石はアルティ様ですな!」


「持ち主として認められたなら、嬉しい限りだ」


 次にローブを手に取り、回復の力を込めた。しかし何も起こった感じはしない。


 不思議に思い、身に纏ってみると、何かものすごいパワーが心の底から湧き上がってきた。


「凄い…………なんか纏っているだけで気力と体力が無限に湧いてくる」


「そ、それは!伝説のローブである”アストラルローブ”と同じ効果じゃないですか!」


「そうなのか。まあ、これも全てはダンカンのおかげだ。本当にありがとう」


「い、いえ、礼は要りませんぞ!アルティ様のおかげで装備品の革命的な製法を編み出し、伝説の装備を再現する事が出来たのですから!」


 俺はダンカンにもう一度礼をして、工房から出た。


 その後レインの様子を確認するため、もう一度自分の邸宅に向かった。



 ♢



 辺境伯デニス、平和教国の枢機卿ドミニクがいるブリットン帝国の宮殿の一室には、とてつもない悲壮感が漂っていた。


「まさか、モンゴメリーの小娘が倒されるとは…………」


「はい、ティナの体に同化したミスリルゴーレムの反応が消えてからだいぶ時間が経過しており、ティナはミスリルゴーレムごと倒されたと言って良いでしょう」


「クソっ!これでアルティ暗殺計画は白紙に戻っちまった!全く、『アルティは必ず討つからオルマンを潰すのに協力してくれ』と威勢よく言ったのは誰だい?」


 デニスはドミニクを睨みつける。


「は、はい!必ずやアルティを討ってみせますので、どうか協力関係の中断だけはおやめを…………」


「まあ良いだろう。オルマンが潰れる事はこちらにも利益がある。しかし、今度こそはアルティ討伐に失敗しないよう、徹底した計画を練るべきだ」


「具体的にはどういった計画を?」


「我が国が誇るブリットン剣士団2000名をオルマンの王都リュクサンブールに、明日送り込む」


「ど、どういう事ですか?!」


「実は、オルマンの王宮に潜り込んでいる諜報員から”アルティが明日、王都に行く”という情報を得た」


 デニスがニヤつく。


「そうですか!ならば明日、アルティの討伐とオルマン攻略を同時に行うと!」


「そうだ。アルティの方は所詮、強い装備持ってるだけで王都に呼ばれた、ただの冒険者だ。すぐに片付くだろうよ」


「そうですね、アルティは余裕として、このドミニクも一応Sランク。協力できるかと」


「そうだな、明日は私も行くが、実は皇帝も戦地に行くそうだ!」


「な、な、何と!まさかブリットンの皇帝が我が平和教会のためにそこまでしてくださるとは!」


「平和教会のためだけじゃない、我が国のためでもある。明日は絶対に負けられん!王都を陥落させ、平和教会とブリットンの発展をこの手に!」


「はい!」



 ♢



「レイン、調子はどうだ?」


 俺はレインの部屋に入った。するとそこには、前世で見たのとそっくりの”エアコン”が出来ていた。


「出来ましたぁ、アルティ様!」


 レインが俺の体に飛びかかり、ぎゅうっとハグしてきた。


「よく頑張ったな!」


 レインの頭を撫でてやる。


 レインは嬉しそうに顔を赤らめた。


「アルティ様のお役に立てて嬉しいです!」


 さて、試しにエアコンを使ってみよう。


 俺はエアコンを部屋に取り付け、スイッチをオンにする。


 すると涼しい風がエアコンから流れてきた。


「成功だな!」


「わぁ!気持ち良いですね!やっぱり、これを思いつくアルティ様は天才ですね!」


「いやいや、レインの頑張りによるものだよ。さて、そろそろ俺は王都に行かなければいけない」


「え…………アルティさまぁ、出ていっちゃ嫌です…………」


 レインは泣きそうな表情で、俺の腕にしがみついて来た。


 やれやれ、レインを一人にするのは出来ないかも知れないな。


 レインがついていっても危なくない強さかを、エリカに相談することにしよう。


「まだ出て行かないよ。ちょっとギルドに行ってくる」


 俺はエリカに会いに、ギルドへと向かった。


 その後しばらくして俺はギルドに着き、中に入って受付嬢の元に来た。


「あら、アルティ様!!!出会えて光栄極まります!!!」


 この受付嬢は反応が大袈裟すぎて病気かと思ったが、そういえばギルドに行く途中も俺に、神を見るかのような羨望の眼差しを向けていた人ばかりであった。


 この街の将来が心配だ。


「忙しいとこすまないが、ギルドマスターを呼んでくれ」


「は、はい!少々お待ちください」


 受付嬢はなぜか、ガチガチに緊張している。


 しばらくして、エリカが奥から出てきた。


「アルティ、何の用だよ?あたし、ギルマスなんだから忙しいんだよ?」


「ごめん。ところでエリカ、これってどれぐらいの強さなのか?」


 俺はレインのステータスが書かれた紙を見せた。


 さっき鑑定したばかりで、スキルが細工師から機械技師に変わって超級から伝説級に昇格していたり、前に鑑定した時より少し成長しているみたいだ。



 レイン


 レベル5


 総合力 5万2110


 スキル 【使徒の寵愛】(全属性耐性・自動回復・成長能力B・使徒の加護)


 伝説級スキル 【凄腕の機械技師】



 すると、これを見たエリカが驚きのあまり、飛び上がった。


「これって本当?!本当だとしたらレインはS Sランク下位はあるね!まさかだよ…………」


「そ、そんなに強いのか?!」


「うん、伝説級スキルを持っているだけで凄い。何より、レベルが5と低いのにこれは、かなり伸び代がある!でも、まさかレインがこんなに強いとは思わなかった」


「俺もだ。じゃあ、王都にレインを連れて行けそうだな」


「そうだね!あたしも準備しとくよ!」



 ♢



「よし、みんな集まったな。じゃあ、いざ王都リュクサンブールへ!」


 俺はリディア、エリカ、ナギ、レインの4人を集め、馬車に乗り込んだ。


【アイテムボックス】にはスペシャルボアの肉などの3つの特産品をはじめ、国王に寄贈するためのエアコンが入っている。


 しかし、さっきから馬車の運転手が緊張でガチガチである。


 確かに王都にリディアとエリカ、ナギという聖人だったりS Sランクだったりする高名な冒険者が一斉に3人も向かうとなると、何か国家を揺るがす事件が起こったのではと感じてもおかしくない。


 しかし実際は、ただ俺が国王に招待されただけ…………


「運転手さん、ただ遊びに行くだけだから気兼ねなく運転してほしい」


「へ、へい!分かりました!」


 馬車が動き出す。


 俺たちは再び、王都へ向かった。




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毒親に追放されたけど、実は”主神の使徒”でした。〜ただのFランク冒険者が辺境を開拓して、超大国を創るまで〜 緑井えりんぎ @kuromizawa

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