第7話 大団円
長門は、自分の人生が少なからず、
「理不尽だった」
と思っている。
就職の際も、
「自分よりも、成績の悪いやつが、自分よりもいい会社に入社して、自分は、何とか百貨店に入社できたが、それも、コネがあるかないかというだけのことで、特に、家族のコネであったり、お金の力で生きてきたような人間に、憎しみを感じていた」
のだった。
だから、この母子のように、
「本来なら、何不自由することもなく生活できているにも関わらず、結局、それに甘んじた生活をすることで、自分たちが、万引きをしてこのようなことになる」
ということを、許せなかった。
最初は、
「脅迫」
とまでは思っていなかったが、
「どうしても、家族に知られたくない」
ということで、身体を預けることで、その罪を許してもらおうとした。
それを見た時、
「無性に腹が立つ」
と同時に、
「立場さえよければ、世の中どうにでもなるんだ」
という思いから、
「この女利用してやろう」
と思った。
娘の方も、
「女の性」
ということから、一度関係ができると、そこは、すでに言いなりだった。
ひょっとすると、
「長門の身体におぼれたのかも知れない」
だから、脅迫をして、金のために風俗に身を落としたというのも、
「金のためだったのか?」
それとも、
「男のひもになってもいい」
という気持ちがあったのか分からない。
それだけ、
「世間知らずの娘だった」
といってもいいだろう。
母親にしても、そうだった。
結局、長門は母親も自分のものにして、母子ともに、
「完全な操り人形にした」
のだった。
お互いに脅されているということは知っていても、それぞれ、
「この男は自分のもの」
という女としての、ライバル心が親子で芽生えたことも、長門の計算通りだったといえるだろう。
そうやって、身体も心もしばりつけることで、二人とも、
「これが、自分の本性であり、運命だ」
と思うようになった。
母子で、相手に対して、言葉では言い表せない状況を作り出したことで、想像もつかないことが起こるのではないかということを、長門は、想像できていたのだろうか?
あくまでも、皆、
「自分さえよければ」
と思っていたのだ。
ある意味、それぞれに、
「三すくみの関係だった」
といえるだろう。
その後、事件が起こった。
「娘が母親を殺して、自分も自殺をした」
ということが、ニュースとなった。
これにより、長門はハッキリと、
「自分が、今回のことで、
「三すくみの関係だった」
ということに、この時に気が付いたのだ。
いや、
「分かってはいることであったが、まさか、本当に三すくみだったとは」
と考えていたのだろう。
三すくみの関係ということで、自分が、
「どうしてうまくいっていたのか」
あるいは、
「うまくいっていたと思っていたことが、こんなにも簡単に砕け散ってしまうというようなことになるのか?」
ということを分かったのかということであった。
「母親と娘の関係」
そして、
「自分と、娘、あるいは母親との関係」
後者は、自分の中で、
「平等な関係」
というように思っていたが、そうではなかった。
三すくみというのは、三人がそれぞれに、
「輪を描くように、一方向に向かって進んでいる」
というような関係で、それぞれが相対的な関係になることで、お互いに、抑止力のようなものが働くことで、結局、それが悲惨な関係に導かれるということであった。
それを考えると、
「その相対的な関係性の中に。それぞれに欲が絡んでいて、その優越性が、うまく、三すくみを描いていた」
ということで、その中で、立場的に優位だったというだけで、まるで、
「長門の一人勝ち」
の様相を呈してきたのだが、どこでどう間違えたのか、その、
「天秤という均衡」
が崩れてしまったのだろう。
そうなることで、出てきた結果が、
「娘が母親を殺す」
ということで、その結果、今まで一人勝ちだった長門の方に、その比重が重くなってくる。
それまで、
「俺が操っている」
と思っていて、このような事態を想像もできていなかったことで、長門は、次第に、
「自分から崩れていく」
ということになるのであった。
そこで、長門は、やっと自分の立場であったり、その先の事実に、目を向けるようになってきた。
「これって三すくみなんだ」
と考えると、いろいろ見えてくる。
というのも、
「三すくみで、どうすれば生き残れることができたのか?」
と、いまさらながら考えてもしょうがないことを想像する。
「三すくみというのは、先に動いた方が、必ず負けで、自分に対して優位性を持っている者が、生き残る」
という法則であった。
結局、警察に捕まりはしたが、一番得をしたのは、娘であった。
確かに母親を殺しはしたが、まだ未成年。しかも、
「自分を脅迫している男と、母親との関係から犯したやむを得ない犯罪」
ということで。情状酌量があった。
だが、もう長門は終わりである。
そうなると、
「どちらが、中の下なのか?」
ということは、おのずと分かるというものだ。
「五十歩百歩」
まさに、その言葉通りの、三すくみの関係だったといえるであろう。
そして、必要悪が、最後に残った娘だったということも、分かるということではないだろうか?
( 完 )
欲による三すくみ 森本 晃次 @kakku
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