第6話 脅迫と詐欺

 偽善というものが、

「悪の権化」

 であり、それが分かっているということから、

「確信犯ではないか?」

 ということを考えられるというのは、無理もないことではないだろうか?

 確かに、詐欺というのは、

「悪いことをしている」

 と分かっていてしているわけで、特に昭和の終わり頃にあった、

「卑劣な詐欺事件」

 と言われた、

「老人を狙った詐欺事件」

 というのが横行したことがあった。

 その事件では、会社ぐるみの詐欺事件であったことで、マスゴミがその情報を手に入れて、社長宅の、

「囲み取材」

 というものを試みた時、不審者が忍び込んできて、カメラの前で、

「社長殺害」

 ということが行われたという意味でも、大きな社会問題となったのだ。

 そのせいか、いまだに、

「老人を狙った詐欺事件が後を絶たない」

 何といっても、

「一番騙しやすい」

 といえるからであろう。

 しかも、

「お金を持っているのは、老人だ」

 ということが、まるで神話のごとく言われている時代から受け継がれた考えだった。

 しかし、実際に今はそんなことはない。

 特に、

「社長殺害事件」

 というものが起こった昭和の時代までとは、まったく時代が違うのだ。

 特に、当時は、

「55歳が定年退職で、退職すればそのまま年金がもらえる」

 という時代だったのだ。

 今のように、

「定年が60歳で、年金が65歳からしかもらえない」

 という時代ではない。

 まるで、今の時代が当たり前のように思われているかも知れないが、

「生活していくためのお金」

 ということで、国が支給するわけではなく、自分たちが積立ててきたお金を金が預かっているだけの年金制度というものが、崩壊したのだ。

 だから、

「今が当たり前ではなく、むしろ、昔が当たり前だった」

 ということである。

 昔であれば、55歳で定年を迎えれば、

「悠々自適で、奥さんと海外旅行にいそしむ」

 などということが当たり前のことであり、

「定年退職まで頑張って働く」

 という励みになったのだが、今の時代は、その大切な年金を、

「国が無駄遣いをして、食いつぶしたために、5年間という期間の空白期間を生むことになった」

 ということである。

 つまり、

「65歳まで働かないと暮らしていけない」

 ということである。

 しかも、65歳からもられるはずの年金も、

「それまでもらっていた額の半分以下」

 というひどいものである。

 もちろん、そこには、

「少子高齢化」

 ということで、納税者人数の減少と、老人人口の増加という、大きな問題が孕んでいるということは忘れてはいけないことであった。

 それこそ、

「国こそが大きな詐欺集団だ」

 と言われても仕方のない時代になってきたのだ。

 だから、本来であれば、

「老人を狙うのは、お門違いだ」

 ということだが、実際にはそうではない。

 なぜかというと、民主主義というのが大きな問題なのだ。

 民主主義というのは、

「自由を得るために、平等を犠牲にした」

 といってもいい。

 そもそも、

「人間は埋まれば柄に平等だ」

 などという、ありえない思想を騙っている連中がいるが、そんなバカなことがあるはがない。

 なぜなら、

「民主主義が、自由競争の時代なので、強いものは大きく儲けるが、弱いものは、強い者の踏み台という形で、何とか生きることができるくらいの悲惨さだったりする」

 といえるだろう。

 しかも、中には、

「生まれながらに病気を持っている」

 という最初からハンデのある人もいるし。親の貧富が、そのまま育っていくうえで影響されることになるのだ。

 確かに、

「裕福な家に生まれれば、それが幸福なのか?」

 と言われればなんともいえないが、

「お金があるに越したことはない」

 ということであり、しかも、

「お金というのは、どれだけあったとしても、多すぎるということはない」

 ということで、そこでも、

「何が平等なのか?」

 ということになるわけである。

 だから、老人の間でも、

「貧富の差」

 というものは、かなりのものがあり、その差によって、

「裕福な老人が狙われる」

 ということになるのであろう。

 ただ、政府は、

「これまで世の中を支えてきた老後の人たちを、まるで、姥捨て山であるかのように、老人を葬っている」

 といってもいい状況で、その中でも、老人を狙う犯罪が横行していて、それを取り締まることもできないという、

「政府」

 であったり、

「警察」

 というものを、

「税金泥棒」

 と揶揄して、何が悪いということなのか?

 そう思うと、

「今がどういう時代で、その中で生き続けるのが、欲望に満ちた世界だ」

 ということになるのであろう。

 そして、まず最初に、長門は、一人の奥さんを脅迫した。

 それは、そんなに難しいことではなかった。というのは、奥さんが、

「以前に万引きを試みた女性の母親だった」

 からであった。

 母親は、長門に脅されることで、完全に、

「長門の言いなりだった」

 長門に脅かされた母親が、どうして言いなりになったのか、それが、

「自分の保身のためなのか」

 それとも、

「娘のためだった:

 ということなのか、それとも、

「家族の名誉を守るだめだった」

 ということなのか、それは分からない。

 しかし、母親は言いなりになった。

 そして、それをいいことに、今度は娘への脅迫も進めた。娘にも母親の犯行を騙り、母親が自分に言いなりになっていることをいうと、娘も逃れられなくなった。

 娘は母親のような気持ちとは違い、完全に、長門という男に怯えていたということなのだろう。

 まだ高校生くらいの女の子なので、大人に抗うことができなかった。しかも、家では、口うるさいとはいえ、大人として恐怖すら感じている母親が、言いなりになっていると聞くと、どうすることもできなくなったのだ。

 それを考えると、

「娘が、どのようにしてお金を調達するか?」

 ということも、長門のいう通りにしないといけなかった。

 長門が、懲戒解雇となったのは、味を占めて他の人にも同じようなことをしようとしたのが、悪かったのだが、それは、別に長門にとって、別に構わなかった。

 この金持ち二人の母子から、搾り取るだけ搾り取るつもりだったので。

「警察に捕まりさえしなければそれでいい」

 ということであった。

 最初は、

「余罪を調べられればどうしよう」

 と思っていたが、案外警察は、通り一遍の捜査しかしなかったのか、この母子にまではたどり着かなかった。

 しかし、それが却って、今度は長門にとっての、

「鉄壁な計画」

 となったのだ。

 警察は、一度調べて、

「他に余罪がない」

 ということであれば、この事件を最初は起訴すべきかと考えたが、被害者側が、世間体を恐れてか、

「起訴しないでほしい」

 と言ったことで、不起訴になり、結局、初犯ということもあり、会社を懲戒解雇になるということもあって、それ以上踏み込むことはなかった。

 だから、ほとぼりが冷めた時から、今度は、また母子への脅迫を始める。

 その時には、

「もう俺には怖いものもなければ、警察が一度捜査しているので、警察が捜査をすることはない」

 といって、二人に迫れば、二人は、それを聞いて、震え上がった。

「一度、男の言いなりになった。そして、それぞれに、母も、娘も脅迫されているということが分かってしまうと、世間体というだけではなく、家族だからなのかどうか自分たちも分からないが、かばうという気持ちになっていたのだ」

 しかも、お互いに、

「自分のせいで、娘が」

 あるいは、

「母親がこの男の餌食になっている」

 と思い、自分がここで抗えば、すべてが崩壊してしまうと考え、

「自分さえ我慢すれば:

 と考えていたのだ。

 長門とすれば、そうなってくれるのが、一番のいいことであり、

「警察に疑われることもない」

 そして、

「二人をそれぞれ脅迫することが、お互いに抗うことのできない状態に落とし込むことができるのだ」

 ということで、保身にもつながると思ったのだ。

 それを考えると、

「長門が、懲戒解雇になった」

 ということも、別に困ることではなかった。

「俺は、この二人から、一生分の金をゆすり取ってしまえばいいんだ」

 ということだったからだ。

「しょせんは、向こうが勝手に感じた欲による天罰が下ったんだ」

 と考えたのだ。


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