episode B-4 ロボットを襲う頭痛
『――驚いた、さっきも言ってたね』
ZTロボットがやっと口を開いて僕も「うん」と相槌をうち、
『ありゃあこれは頭痛だね、頭が痛い』
えっ、頭痛……?
「ロボットなのに、大丈夫なの?」
とっさに手を出した僕はもう一度触りそうになるのを迷惑だろうと止める。すると、頭痛を起こしている当のロボットがこんなことを言うのだ。
『俺は大丈夫だ。でも俺のためになりたいって言ったよね、それは恋なんだよね』
は? 恋?
「恋……えっ、僕が?」
ありえない展開にぽかんとさせられ、目の前が暗くなる僕。何だ恋だって?
『恋だよ恋。人に魅かれすぎて、自分のものにしてしまいたくなるやつね。そのせいで俺の頭が痛いんだねえ』
ZTロボットの中性的な顔が痛みをこらえてうれしそうに話す。僕は自分が「恋」なんてものに手を染めるとは夢にも思わなかった。自分用コンピューターで学びはしたけれど、実践は僕にはないと考えていた。しかも僕が〝惚れ〟たのはこのZTロボット、これが恋。こんなどうしようもない激情が〝好きになる〟だなんて、相手はロボットだよ? まさかの無茶すぎる構図、想像を超えた展開――機械、ロボットだよ!
「信じられない……」
地下室の孤独な少女は苦い吐息を捨てた。僕の初恋はロボットで、人間じゃない。でも謎の病気の悪さかこの星は自分と両親だけだから、恋ができるはずもなかった。もう残りの人生ZTロボットのために生きるしかない。背の高いロボットは僕を心配そうに、いや苦しがっている。頭痛、ひどくなった?
僕は自分のふらつきに耐えて「ちょっと、大丈夫なの?」と声を掛けた。
『うう、頭がずいぶん、痛い……ね』
ZTロボットは頭の痛みにいよいよ顔をゆがめる。僕はそれがどれくらいの苦しみか分からず、たとえ機械に構造的不具合があろうと対処法直し方を知るはずもない、一人立ち尽くしておろおろするばかり。
「どう、どうすれば――」
『頭が割れる、うゔぅ……、俺が恋心を持たれた、からだね。痛いね』
瞼が上がらなくなるほど苦しむロボットは前にも一度ふれた僕の恋を頭痛の原因に挙げ――馬鹿、そんなことありえない! 頭の中で一蹴する僕。
「ねえ、えっと、ロボット……さん?」
刹那迷って「ロボットさん」と呼んでみる。僕の問いかけを相手できない苦痛のうなり声は口とは離れたスピーカーから聞こえ続け、僕ははっとコンピューター本体の存在に気づいた。
「――こっち?」
もしかして、ZTコンピューターで直せる?
自分の理解の問題も含め期待は薄かったが、斜めを向いた椅子に乱暴に腰掛ける。左右のスピーカーからロボットの声がもれ続け、僕はデスクトップに残る「桜へ」フォルダーを無駄にもう一度開いた。中は当然空で何も起こらず、すぐにフォルダーを閉じる。
「早く、早く……」
デスクトップ全体を見回してつぶやく。
トゥーーーン、バチバチッ、
トゥーーンピューーーーン、ピシンッ、
お父さんと山で見た怖いくらいに紅い鳥、その叫びと羽ばたきに似た波動がZTコンピューター本体から放たれる。危ないことは何もしてない。慌てて箱の中をのぞき見ると、ロボットの顔は機械らしく固まり苦悶の表情が消失している。
「どうしたの――わっ」
視界の隅に外枠まで純白のウインドウが現れた。
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