お金がない!一円もない!

 数年前、僕は激しく絶望していた。死のう!と強く思ったものの、そんな強烈な決断を回避性の僕にできるはずもなく。

 もう翻訳家を続けられない、と苦しみ悶えていたのだ。

 これはこれで一つのテーマとして一章を設けたいので、詳しくは割愛。悪徳出版社に騙されて、長期間の翻訳料をそこで出した本で支払う、と宣言されたことが大きかった。

 てめーらみたいなマイナー出版社の本、売っても一冊十円にしかならねーよ。と啖呵を切れるような、精神的健康者では僕はない。

 実際、中国語の翻訳家などというものは、ほとんどが職業として成立しないくらい苦境にあえいでいる。状況は悪化するばかりで、光も見えない。全部習近平が悪い。

 終わった、死ぬしかない。他にもいろいろ、最悪な出来事が立て続けに起きたのだ。

 数か月血反吐を吐きながら悩んだ後、休職を選択。結局、十五年続けたのに。

 じゃあ、なにするよ?中国語の翻訳家なんか、世界一潰しがきかないぞ?

 当時、自分が回避性パーソナリテ障害だと知らなかった。なのですべて自己責任だ、と背負い込んでいた。世の中の人すべてが僕をさげすみ、ちゃんとやれ、まじめに働けと忠告しているみたいに感じていたのだ。

 オッケー、いいでしょう。働いてやるよ!ただし条件がある。人とは一切会わないからな!

 検索に次ぐ検索、によって世界の重要な仕組みが理解できた。そんなものねーよ、という。お金とはすなわち、社会に参加することによって得られるご褒美なのだ、と。それやらねえ横着野郎には一円もやらん。グーグル検索サイトがそういっている。

ちなみにそういうのが明らかになるたびに、僕は血の涙を流しているので、イメージに挿入してほしい。

 最初はなんだっけ、ああそうだ、僕は大金持ちになりたかったので、大金持ちが書いている無料メールマガジンを購読していた。アドレスを書き込むと自動で永遠に送られてくるやつ。

 その人が玉石混淆、と称しながら、さまざまなネットビジネスを紹介されていたのだ。そこに書いてあることを一つ一つ検索していった。本当にどうしようもない詐欺師による情報商材、みたいなのも普通にたどりついた。その時点であきらめればいいのに、僕は彼を信じ続け、情報を求め続けた。

 たくさん調べた結果、僕にもできそうで、かつ詐欺じゃなさそうなのが二つだけ見つかる。転売とユーチューブだ。

 いや、転売なんかできるかい!そもそも商品を購入する資金がまったくないんだよ!

 というわけで実質一択だった。

 ええ、いやだよ。ヒカキンさんのまねなんて恥ずかしくてできない。と思ってさっさとあきらめればよかった。でももう血の涙を流すのが辛かった。視力によくなさそうだし。

 福音があった。顔出しなしでオーケー。むしろ顔なんか出さない方が儲かるよ、だって。

 それなら、恥ずかしがり屋の僕にも可能性があるのではないか。もうこの道しか残っていないため、僕は錯乱していた。

 というわけで情報商材を買った。僕はしばしば人に騙される。

 つまりどうやったらユーチューバーになれるか、の指南書だ。もちろん本が送られてくるわけではない。ネットで動画集が送られてくる。

 調べてみたところ、別に彼(メールマガジンの人とは別ね)は詐欺師というわけではなさそう、と感じた。平成ノブシコブシの徳井さんにそっくりだと感じたけれど、すっげえ豪邸に住んでいるし、高級車をとっかえひっかえ、クルーザーも所持していて、独立リーグ野球チームのオーナーで、映画にも出資している。いけない、彼が悪いわけではないので、特定しようとしないでほしい。

 とにかくネットセミナーに参加すると、君たちもこうなれるぞ、と励ましてくださるのだ。ありがたいありがたい。

 その彼のああしろこうしろという指南によって、僕はユーチューバーデビューを果たしたのだ。

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回避性パーソナリティ障害性人生 祥一 @xiangyi

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