第37話【闘技】腹が減っては【大会】

闘技大会のお昼はビュッフェ形式だった。

つまり、取り放題で食べ放題である。

おっさんの時であればたくさん食べられて大歓喜していただろうが、今となってはそうもいかない。

何故なら女の子になってしまったこの身体の受け入れ容量はそんなに無いからだ。

なので、小分けにして種類を食べるようにした。


うーん。流石はダンジョン管理省が主催するイベントだ。

お国が絡んでいるのもあって料理がとても美味しい。


「それで、再会したプレイヤーくんを塩対応したと?」


オレの前の席に座っている管理省秘匿部門の若手ホープの彼女はニヤニヤと笑いながら言う。


「仕方ないじゃないですか。人の顔を覚えるのが苦手なんですから」


頬を膨らませて反論するオレ。

決して、口の中に食べかけのモノが残っていてハムスターになっているわけでは無いと言うことは明記しておく。


流石にゴブリンダンジョン第1話の事を忘れていたわけでは無いが、臨時パーティ故に色々なプレイヤーと関りを持つ。故に顔と名前と職種が完全に一致するなんてどこぞの偉人みたいな芸当は不可能だ。

それにあの斧使くんが此処まで成長しているなんて思わなかったのだ。

滅茶苦茶へこんでいたので悪い事をしたと反省はしている。

本戦に響かなければ良いが……。

とりあえず、明日会ったらあざとくならない程度に応援はしてあげようと思う。


なお、彼女がなぜ此処に居るのかというと、いつも裏の仕事で強力関係にあるダンジョン管理省秘匿部門は、通常時はダンジョン管理省広報2課という隠れ蓑を被っているからだ。

プレイヤー闘技大会は広報1課が運営を担当しているが、同じ広報課ということで彼女たちも駆り出されたというわけだ。


「ふふ。りのさんらしいですね」


その彼女の隣でクスクスと笑う槍聖。

むしろ、オレとしては槍聖が居る事の方が気になるんだが?


「それより何故槍聖あなたが此処に? メインは明後日のエキシビジョンですよね?」

「え? えーと。そ、それはですねぇ……」


何故かオレから視線を逸らす槍聖。

何かやましい事でもあるのだろうか?


「はッ!? まさか予選会で将来有望そうな男を漁ろうと」

「ち、違いますッ!!」


即座に否定された。

ちょっと顔を赤くしている槍聖。

ふむふむ。武一辺倒かと思っていたがそういう女性らしい顔もするんだな。と感心するオレ。


「アハハ。無い無い。それは無いわよ。まぁ、たぶん私がりのを呼んだから、もしかしたらって打さ――」

「あーッ! 無いです。それは関係無いですからッ!!」


彼女が言い終える前に言葉を遮る槍聖。


――打算?


一体何の事……、ああ。そう言う事か。

察したオレはニヤリと口端を上げる。


「師匠も忙しい身ですからね。あ、でも最終日くらいは顔出すように言っておきましょうか? お願いすれば1日くらい表に出て来る事も――」

「い、いえ! ほ、本当にッ! 大丈夫ですから。大丈夫ですからッ!」


そう言って、槍聖は、会場の見回りに行ってきます。と言い残し、足早に食堂を後にしてしまった。


「まさかの図星……」

「そのまさかなのよね……」


彼女の言葉に、なるほどと相槌を打つ。


「最終日のチケット余ってませんか?」

「あるわよ」

「1枚貰っても?」

「あら。優しいじゃない?」

「お世話になっている人には優しくしてあげたいと思いません?」

「それ何かトゲを含んでいないかしら?」


笑顔が怖い。


「気心の置けない仲だと思ってたんですけど……」


しかし、彼女の眼は座っていた。

あれー? これは駄目な感じだったか。


「やだな。冗談ですよ? 親しき中にも礼儀ありです。よね」


弁明してみたもののその冷たい眼差しは解消へは至らなかった。

とは言え、チケットはゲットできたので後で師匠に連絡しておくか。

仕事が大変なのは分かるが、最近はオレのお仕事は落ち着いてきているし、たまにはこっちに出てきても良いと思うのだ。


そんなお節介を焼いてみたら、まさかあんな事になるなんて。

この時のオレは全く想像もしていなかったのだ……。


なんて、そんなフラグが立つわけも無い。


それから午後に行われる成人の部予選会のため救護所へ戻る。

午前中と同じ場所へ行こうとしたら、そっちじゃない。と、隊長に首根っこを掴まれ連行されてしまった。

午前中の救護所は2か所だったが、午後は4個あるリングの傍にそれぞれ救護所が設営される。

成人の部は参加者のレベルが上がるため、負傷度合いも一気に上がる。

リングアウトした選手はだいたいが行動不能だ。

回復するなら近くの方が良いという合理的な判断だな。

で、それぞれの救護所に高レベルの治癒使を配置し不測の事態に備える。


備えるのだ。が――


「隊長。此処は高レベルの治癒使さんが居ませんけど? 人選ミスりました?」

「ん? おいおい昼飯食べたからって寝ぼけてるのか?」


何故か呆れた顔をする隊長。

まぁ、お昼ご飯の後だから血糖値も上がって眠くなるのは分かるが、流石にそこまで寝惚けてはいないぞ?


「いやいや。他の救護所に比べたら明らかに平均レベルが低いですけど」

「高い技量の治癒使なら俺の目の前にいるじゃねーか?」

「目の前?」


隊長の視線を追って後ろへ振り向く。

しかし、そこには誰もいない。


「何やってんだ。俺が言ったのは嬢ちゃんのことだ。じゃ、三食と交通費分しっかり働いてくれよな」


ニカッと笑みを浮かべて自分の持ち場へ歩いていく隊長。


「え? あれ? あれれ? えぇッ!?」


そして、オレが混乱している間に午後の予選会が始まった。

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