第36話【闘技】予選【大会】

ダンジョン管理省主催のプレイヤー闘技大会は予選、本戦、決勝の計3日間行われる。

開催場所は先日BPバックパッカー少女と一緒に訪れた国立競技場ダンジョンのダンジョンエリアだ。

おっさんだった時は、仕事に追われていたのもあって闘技大会にはそこまで興味はなく1度も視聴したことはなかったが、TVやネットでも放送されるくらいの人気イベントだそうだ。

なお、メインは決勝とその後に行われる四聖とのエキシビジョンマッチらしい。

どちらもオレにとっては関係無いことだが、イベント自体では関係が出来てしまった。

何故なら本日の予選から、オレは医療従事ボランティアとして参加するからだ。


「おう。りのの嬢ちゃん。ホントに来たんだな?」

「おはようございます。断るにも拒否権が無かったんですよ。もう……」

「ハッハッハッ。まぁ、今日からよろしく頼む」

「はい。よろしくお願いします」


そう言うと、特攻野郎Dチームの隊長は手を振りながら歩いて行った。

なんでもこれから開催前の責任者打ち合わせだとか。

ちなみに、隊長は支援バフの光属性と弱体化デバフの闇属性魔法を扱う治癒使だ。

今回は医療従事者のリーダーを務めている。

言うなれば大会期間中はオレの上司だな。

先日、散々叩きのめしたのを根に持ってなければ良いんだけど。

でも、まぁ、あれはお仕事だろうし公私混同は流石に無いだろう。

ん? そういえば今回も仕事だな? もしかして公しかないのでは? いや、でも流石にそれは無いか……。


それから、ダンジョン管理省の偉い人の開会の挨拶を経てプレイヤー闘技大会が始まった


予選は、午前中が16歳から18歳までがエントリー可能なU18の部、午後が19歳以上がエントリー可能な成人の部だ。

1つのリングに20人程度のプレイヤーが集まり最後に残った1人が本戦へ進む。


「若人たちは気合入ってるなぁ」


会場であるグランドの隅に設置された救護所で、パイプ椅子に座りながらリングの様子を眺めるオレ。

U18のプレイヤーは開始の合図を今か今かと待ち望んでいるのか緊張と高揚に包まれている。

それが空気を伝播してヒシヒシとオレの処まで伝わってくるのが分かるほどに。


『開始ッ!!』


司会者によって会場全体へ開始の合図が流れた。

直後、プレイヤーたちが一斉に動き出し剣戟の音が会場全体に響き渡る。

なお、武具は全て非殺傷モードの1段目に設定されているので切断は無いが打撲はある。

と、さっそく何人かリングアウトしたようだ。

軽傷なら自力で救護所ここまで来るが、折れてたり昏倒している場合はスタッフに担架で運ばれてくる。


「痛ててて……。お願いします」


脇腹を抑えたプレイヤーがオレに話掛けてくる。


「はい。ケガは脇腹だけですか?」


コクリ。と頷くプレイヤーくん。


「――彼の者を癒せよ。治癒ヒール


光属性魔法特有の淡い黄色の魔力光がプレイヤーくんの患部を覆っていく。


「はい。お終いです。他に痛むところはありませんか?」

「えッ? あっ。だ、大丈夫です! ありがとうございました」


ビシッとお辞儀をして去っていくプレイヤーくん。

なんだか反応が初々しくて良いな。

見た感じエントリーできるギリギリのレベルだったのだろうか?

U18の部は最低レベルが設けられている以外は年齢さえ満足していれば後は抽選だそうで、実力差が結構出てしまうそうだ。なお、成人の部のエントリーはもっと厳格らしい。


その後も、ゾロゾロとやって来る敗退したプレイヤーを治癒していく。

何名か骨折しているプレイヤーが居たがそれはオレより高レベルの治癒使へ回した。

正直、午前の予選会程度なら本気を出す必要も無い。

それなら他の治癒使へ花を持たせた方が良い。

実際、予選をしているリングより救護所をじっと観察している観客も居るのだ。


彼らの目的は有能なプレイヤーのスカウトだ。


なので、本日の予選会は一般客よりクラン関係者の割合の方が多いらしい。

スカウトは勝敗よりもその戦い方を見ているのだ。とは、隊長さんの言葉だ。


「おや?」


不意に一際大きな歓声がCリングの方から上がった。

全4か所に分かれているリングの内Cリングは既に3人を残すところになっていた。

そして、現在1対2の構図だ。

これはあれだな。攻められている側の1人が強くて、攻めてる側2人が協力体制になった感じか。

しかし、それでも1人の方は十分捌けている。

それは、ハンドアックスを二刀流した小柄な青年だった。

ん? あれ? 何処かで見たことあるような? だが、正直な話、人の顔を覚えるのが苦手なので思い出せない。

おっさんになると若い人の顔って覚えられないんだよね。

そんな事を考えていたら勝負がついていた。

結果は斧使が数の不利をものともせずに圧勝。

共闘していた2人のプレイヤーはリング上で昏倒していた。

というか、大丈夫かあの2人。打撃とは言え、良い感じのところに決まっていた気がするが……。


「おう。りのの嬢ちゃんちょっと一緒に来てくれ」

「あ、はい。わかりました」


隊長に手招きされてCリングへ。


「嬢ちゃんはそっちを頼む。ちぃとばかり良いところに入ってるな」

「そうですね。でもこの程度なら大治癒グレーターヒールするまでもないです」

「マジかよ……。俺は使うがな。――彼の者に大いなる癒しを。大治癒グレーターヒール


隊長が大治癒を使っている脇で、オレは治癒を行使する。

状態ステイタスの無属性魔法で患部の状況を確認し、治癒に指向性を持たせ尚且つ通常よりも魔力供給量を増やす。

これだけで通常の治癒よりも数倍高い効力を発揮するのだ。


「あれ? りの?」


不意に、勝者である斧使が声を掛けてきた。


「はい?」

「えと。久しぶり」

「んー。どちら様でしたっけ?」

「え……」


誰だか思い出せずに首を傾げたオレに、斧使は両手のハンドアックスを手から落としたのだった。

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