第35話 人間vs妖精

プレイヤーレベル3桁と2桁では富士山と高尾山ほどの差がある。

如何に努力しようと覆せない程の絶対的力量差。

であるにも関わらず、特攻野郎Dチーム隊長のオーダーは段階を踏まず最初から全開ということだった。

無謀ですよ? と窘めたものの何故か全員――ただし、仮入隊のBP少女を除く――が全力で来いとの事だったので、3分間はオレが防御に徹してDチームには好きに動いてもらうことにした。

なお、3分経過したら即全滅させますよ? とだけは注意しておいた。


そして、既に2分が経過。


「マーキングした1点を狙え!」


「言ってもよ。これクッソ硬ぇッ!?」

「ホント。こっちの得物が壊れそうッ!」


「がんばれ♪ がんばれ♪」


と、オレは聖封セイクリッドシールの中に引き籠って皆を応援する。


「チッ!? このまま舐められて終われるかッ!? ――貫け! 貫通ピアース


――バキャン!


槍先が聖封にぶつかり盛大な音を立てたが聖封はビクともしない。

むしろ、反動でダメージを受けたのは貫通を使った槍使の方だろう。


「よし! フロント下がれ」


「そっタレ! ――うおわッ」

「はいはい。一旦退くのよ」


悪態をついた槍使だったが、直ぐに斧使の女性に引っ張られて後退させられる。


「今だ!」


隊長の号令でミドルとバックから一斉攻撃が開始される。

と同時に聖封に紫の魔力が纏わりついた。

なるほど、考えたな。

闇属性魔法の腐食コロージョンによって聖封の強度を低下させ、そこへ魔力を溜めに溜めた魔法と貫通性を特化させた弾丸で聖封を抜こうという魂胆だろう。

戦略としては間違っていない。

これならレベル100台が展開した聖封程度は破壊出来る。


魔法の直撃によって生じた爆煙が聖封を包み双方の視界を遮った。


「やった?」

「気を抜くな! 臨戦態勢は維持。バックは再度魔法を準備。フロントは煙が晴れたら直ちに突貫だ!」

「了解!」

「おう! 今度こそブチ破ってやるぜ――んぉッ!?」


爆煙が晴れ、オレの姿を確認したフロントの槍使が変な声を上げた。

そりゃそうだ。聖封にはヒビすら入っていなかったのだから。


「はーい。3分経ったので攻勢に出ますよー。たぶん痛いと思うので気絶した方が楽です」


制限時間が過ぎたので警告する。


「はッ! いくらなん――ぼべッ!?」


槍使は最後の言葉を言う前にオレの撃った土弾アースバレットを受けて昏倒した。


「ぼ、防御陣形! 嬢ちゃん頼む!」

「は、は――ぃッ!?」


BP少女が先頭に出ようとしたところで土弾が大盾にヒット。

そのままリングの外まで吹っ飛んだ。


「くそッ。――魔より我らをし――ッアッ!?」


魔盾を展開しようと詠唱を開始した隊長は、しかし詠唱を終える前に昏倒する。


「か、各自散開ッ!? 動き続けていれば簡単には――ッ!?」


そこで副長の声が止まる。

何故ならリングの上で立っているのは既に副長1人しかいなかったのだから。


「これが……レベル3桁……」

「はい。おわかりいただけましたか?」

「参ったわね――ッ!?」


そう言った直後、副長は土弾の直撃を受けて意識を失った。


「とりあえず、全員を一か所に集めて。と――」


ぶっ倒れているメンバーをポイポイッと一か所に集めていく。

BP少女だけ盛大にぶっ飛んでしまったのでちょっと面倒だった。

盾があると威力の調整が難しいのだ。正直ちょっと加減を間違えた気すらするよ。折れてたし……。


「――ッ、聖域サンクチュアリ


全員を一か所に集めたところで聖域を発動する。

聖域はその中の対象へ一定時間治癒ヒールが発動する魔法だ。

光属性魔法の治癒さえ覚えてしまえば意外にも低レベルから取得可能なのだが、低レベルだと使用時の消費魔力に対して効果が低く有効的な魔法とは言えない。

時々、奇特な治癒使がダンジョン内の憩いの場で使う事もあるが気休め程度だ。


「痛たたた……」


最初に意識が戻ったのはBP少女だった。

流石、耐久力が3桁もあると自己回復力との相乗効果でケガの治りも早い。

まぁ、折れたところは先に大治癒グレーターヒールで治しておいたが。


「うう。りのさん。酷いですぅ……」

「あはは……。ちょっと加減を間違えました。ですが、あの瞬間で良く判断しましたね」


オレはBP少女を褒めてあげる。

何故ならBP少女は土弾が盾に直撃した瞬間踏ん張らずに体を浮かし衝撃を逃がしていたからだ。

もしあそこで踏ん張っていたらダメージはもっと大きかった筈だ。

やはりこの子は良く見ている。

天性の才というやつだ。

しかし、関わった人間によってこの才が埋もれ最悪消えてしまっていたかと思うと、何とも言えない気分になる。


「クソ。何がどうなって……」

「少しは通用すると思ってたのにぃ」

「ふひ。これが、りのたんの力……」

「ああ。もう! 悔しいぃッ!!」


意識が戻ったのか続々と起き上がる特攻野郎Dチーム。


「全く。詠唱もさせてくれないとはな」

「むしろ何も出来なかったんだが……」

「無念……」


「でも皆さん良い連携でした。これなら四聖の1人くらいはチームでかかれば十分勝利出来そうですね」


「りのちゃん。それお世辞かしら?」


副長さんが聞き返してくる。


「いえ。事実です。レベル3桁と2桁での実力差の良い埋め方だと思います」

「でも、そのレベル3桁に手も足も出なかったんだけど」


それはそうだ。四聖はまだレベル100台の半ば。

オレは3桁カンストなので差がありすぎる。

ちなみに、師匠はその上だ。というか師匠のレベルはおかしい。そもそも存在自体がバグというかチートなのだ。うちの師匠は……。


「ま、まぁ。私の場合は少々別格なので……」

「確かにな。そもそも、なんで走査スキャンだとレベル9で元の姿と変わらないままなんだ? まぁ、四聖も99のままなんだがよ」

「そこは表示を偽装してますから。そもそもレベル3桁が存在しないってことにしてるのはダンジョン管理省じゃないですか」

「う、それを言われると反論できないわね……」


苦笑いを浮かべる隊長と副長。


「よし。お前らまだやれるよな?」


暫しの雑談と休憩の後、隊長が隊員へ問いかけ。それに威勢の良い返事を返すDチームの面々。

こっそりBP少女も交じって居るのは気のせいだろうか?

君、まだ仮入隊だからね?


「え? まだやるつもりですか?」

「そうよ。今日は貸し切りだからね?」

「おう。次は四聖と同等レベルに抑えてくれ!」

「えぇ……」


この後、彼らが自分たちの実力をしっかりみっちり把握するまで対戦させられた。

凄く疲れた。

ただ、終わるころにはBP少女が仮入隊から正式入隊に変わっていた。

就職決まって良かったな!

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