第34話 PvP

PvPとはプレイヤー同士の対戦だ。

ダンジョン内であれば死闘になる場合もあるが、ダンジョンエリアのリング上では各種ルールを用いて合意の下に行われる。

主なルールは、武器防具を非殺傷モードで使用することとか、頭部への攻撃は不可と言ったところだ。

非殺傷モードは2段階あり、1段目と2段目では保護の度合いが変わる。

1段目は斬撃性能の無効化――つまり全てが鈍器になる。

2段目は干渉シールドの展開――これは、もっとも強い保護で全ての攻撃がピコピコハンマー並みの威力になる。通称ピコハンモードだ。なお、ダンジョンエリア外では全ての武器防具がピコハンモードになる。

後、魔法に関しては魔盾マナシールドの付与されたマジックアイテムを使用したりする。


で、今現在、BPバックパッカー少女と黒スーツにモノクルの紳士は武器を非殺傷モード1段目に設定して対戦中だ。


モノクル紳士の短剣二刀流による連撃をBP少女はタワーシールドでガードしていた。

タワーシールドの分類は大盾なので、BP少女の全身をすっぽり覆ってしまうくらいには大きい。

それをBP少女は軽々と取り回しながら攻撃をガードする。

今のところ100%ガード中。

臆病で引っ込み思案のような振る舞いだが、実のところしっかりと見ているのだ。

モノクル紳士も直ぐにそれを悟ってステップワークで翻弄しようとするが常に対面を維持されてしまい盾を抜けない。


「へえ。やるじゃない」

「確かに盾使としての基本はしっかりしてるな」

「そこは、ダンジョン下層での特訓が活かされてますから」


副長と隊長がBP少女の動きを評価する。

その評価にオレも鼻が高い。

なお、オレは何故か副長の膝の上に座らせられている。


「だがな。それは中堅以上の盾使なら誰でも出来る事だ」


隊長がニヤリと口端を上げた。


「――穿て! 重撃チャージ

「――え??」


短剣による連撃から、不意にBP少女の死角へ入ったモノクル紳士は、左手の短剣を収納すると掌底から重撃を放った。

それを真っ向から大盾で防御したBP少女。

直後、重撃によって発生した衝撃波が大盾を貫通しBP少女を襲う。


「――わわッ!?」


バランスを崩して大盾ごと大きく後退するBP少女。

そこへ追撃をかけるモノクル紳士。


「決まったな」

「さぁ。どうでしょうか?」

「流石にあの態勢じゃ無理で――ええ?」


目の前の状況に、副長が驚きの声を上げていた。

BP少女は大盾をリングに突き立てブレーキ代わりにすると、そのまま前に跳んだのだ。


「なんとッ!?」


追撃姿勢だったモノクル紳士は逆に迫ってくる盾を前に、咄嗟に両手の短剣で受け止める。

短剣と盾が激しくぶつかり合い。

結果、お互いに弾かれて2人の距離が開いた。


仕切り直しだ。


「よーし。そこまでッ!」


隊長の号令で、モノクル紳士は短剣を、BP少女は大盾を下ろす。


「あいつの攻撃をあそこまで凌げれば及第点ってところだな。それに判断力も問題無い」

「そうね。正直驚いたわ」

「そうでしょう? なんでしたら他に試したい人いますか? たぶん複数人でも行けるかも?」


「え? り、りのさん。そ、それは、流石に――」


「それじゃあ。次は私―」

「ふむ。なら俺も行こうか」

「なら、あたしも!」

「俺も俺もーッ!」

「ふひ(手を挙げる」

「試させてもらうぜ!」


謙遜するBP少女を他所に、結局、隊長、副長、モノクル紳士以外の6人が名乗り出る。

そのため、BP少女の3分間防衛戦と言う形式になった。

防衛戦とは言え6対1。

結果は、火を見るより明らかだろう。

3分耐えられたら褒めてあげるとしよう。


「皆さん元気ですね」


雨霰と降り注ぐバレット系魔法。

その中にこっそりランス系魔法も混ざっているのは高レベル魔法使の常套手段だ。


「りのちゃんからのアポだったでしょう? だから、皆やる気満々なのよ」

「そうだ。この日のためにスケジュール調整してきたくらいだからな」


魔法の切れ目にミドル組から銃と魔銃による砲火が飛ぶ。

それに呼応して一気にBP少女との間合いを詰めるフロント組。


「ひッ、ひぇぇぇッ!?」


「――ん? それどういう意味ですか?」


BP少女の情けない悲鳴を聞き流しながら隊長へ問いかけるオレ。


「そのままの意味よ。虎の眼の一件で私達も実力不足を思い知らされたの」

「そうだ。故に四聖すら一目置く君の力をしっかりと把握しておきたい」


巨大な戦斧から繰り出される連撃を大盾で必死にガードするBP少女。

というか、その巨大な戦斧の使用者って女性なんだよな。

しかも片手である。筋力どうなってるんだろうね?

更に槍使による突きが横槍ですと言わんばかりにBP少女へ躊躇無く突き入れられる。

それらを大盾と回避だけでいなしていくBP少女。

動物園ダンジョンで、パンダとかパンダとかパンダにリンチされた教訓をしっかり活かしているようだ。


「まさか……。全員揃っていたのって私と対戦するためですか?」

「ハッハッハッ! ――そのまさかだよ」

「そうよ。りのちゃんと――いいえ、純白の妖精バンシーに対して私達が何処まで通用するのか。それをしっかり確認しないといけないの」

「そ、そういうことですか……」


だから、他のプレイヤーも非プレイヤーも誰も此処に居なかったわけだ。


「そらそらッ! 足元が覚束なくなってきたんじゃない!?」

「うッ。くぬぅ……」

「そろそろ限界だろ? ギブアップしても良いんだぜッ!!」


フロント組の攻撃の切れ目にはキッチリとミドル組とバック組から支援射撃と魔法が挟まれBP少女に息つく暇を与えない。

態勢が少しでも崩れれば、すかさずフロント組からの攻撃が差し込まれる。

それでも懸命に耐えるBP少女。


「わ、私は、絶対に就職するんだからーッ!!」


ズガンッ!


BP少女が盾を地面に突き立てるのと同時に右足で床を強く踏んだ。


「え? なッ!?」

「のわッ!!」


直後、発生した衝撃波でバランスを崩すフロント組。

――地ならしグランドワークだ。

BP少女自身の物理力と魔法力は大した事が無いので地ならしではレベル90台のプレイヤーへダメージを与える事は出来ない。しかし、意表を突く事は出来る。


「はぁッ!」


BP少女は踏み込んだ右足を軸にして駆けた。

フロント組が態勢を戻す前にミドル組かバック組に張り付いて攻勢を削ぐという魂胆だろう。


「はい。そこまで」


丁度3分経過していたので、オレはリングに立つと右手でBP少女の大盾を、左手に発生させた魔盾で飛翔した魔法を防ぐ。


「最初から全開でする? それとも段階を踏んでみる?」


オレは隊長へ問い掛けた。

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