第33話 仲介と面談
ダンジョン管理省には実働部隊が存在している。
その名も特攻野郎Dチーム。
勿論、DはダンジョンのDだ。
正式名称は別にあるのだが、長くて覚え難いのと、何故か彼ら自身が特攻野郎Dチームという名称を気に入っているので、省内でもそう呼ばれている。
そして、9人居るメンバーの全員がレベル90オーバーの強者揃いだ。
そんな彼らの業務は多岐に渡る。
ダンジョンの生態調査、モンスターパニックの鎮圧、ダンジョンクローズ関連対応、災害級ボスモンスターの討伐、緊急を要するアイテムの収集などなど。
さて、なぜそんな話題を出したのかというと、本日は彼らと面談があるからだ。
なお、オレの面談では無い。どちらかというとオレは仲介者の方だ。
「お、お待たせしました……」
息を切らせながら現れたのは
「大丈夫。それにまだ待ち合わせ時間より前」
「え? あれ? あ、本当だ」
「私が早く着てのんびりしてただけ」
初めて来る場所というのはちょっと早めに来て散策とかしたくなるのだ。
ま、だいぶ早めに着いてしまって暇してたのだがな。
「それじゃ、行こうか」
「は、はい」
オレとBP少女はゲートで受付を済ませ、国立競技場のダンジョンエリアへ入場した。
ダンジョンエリアとは、ダンジョンの外であってもレベルによる恩恵が得られる場所のことだ。
そのためステータスによる身体強化も適用されるし、魔法もダンジョン内と同じように扱う事が出来る。
また、脱出アイテムの出現場所となるポータルエリアもダンジョンエリアに設けられている。
通常、ダンジョンエリアはダンジョン入口を中心にして円形の範囲となっていることが多い。
しかし、国立競技場ダンジョンは中央門にあるダンジョン入口からグランドを繋ぐ通路およびグランド全域がダンジョンエリアという変則的な形だ。
そのため、グランドにはプレイヤーの身体能力を確認する設備や、模擬戦が行えるリングなどが整備されている。
また、スタンドは非ダンジョンエリアなので、非プレイヤーがグランドを観覧出来るようになっている。
「あ、あの。りのさん。面談って聞いてたんですけど。ど、どうして此処に?」
「到着すればわかるよ」
笑顔で答えるオレ。
BP少女の頬が引き攣っているような気がするが気にしない。
「ええと、リングの場所はC―2? って、ど真ん中じゃないですか……」
事前に指示されていたエリアを確認して該当リングへ歩みを進める。
またなんとも目立つ場所をと思ったが、周囲のリングにプレイヤーの姿は無かった。
あれ? もしかして貸し切り?
指定されたエリアには、既に数名の人影があった。
よく見ると、見覚えのある顔ばかりだ。
というか、隊長と副長が居る。
あれ? もしかして全員集合じゃないかな。これ……。
「おう。りのの嬢ちゃん。久しぶりだな!」
手を振ってオレの名を呼んだのは隊長さんだ。
「久しぶりね」
「こんちわ!」
「お、主賓の登場かい」
「りのたん。おひさ」
「元気にしていたかね?」
「待ちくたびれたぜ」
「相変わらず、小さくて可愛いわね!」
「よぉ」
と、次々に挨拶が飛んでくる。合計9人の特攻野郎Dチーム。
なお、9人の内3人は女性で、内1人は副長だ。だが、特攻野郎だ。
「皆さんこんにちは。お久しぶりです」
「虎の眼の一件以来かしら?」
「はい。あの節はお世話になりました」
「むしろ助かったのは俺達だ。おかげで誰も欠けずに今もこうして居られるからな」
虎の眼は大規模なダンジョンクローズを引き起こそうとしたクランの名前だ。
勿論、上記の件で今は取り潰しになった。
で、その事件の時にオレと彼らは共闘したのだ。
ま、実際は、ダンジョン管理省の命令を受けた特攻野郎Dチームと、内通者を通じて状況を把握していた虎の眼が、ついでだからとDチームを排除しようと主力部隊で罠を張っていた処へ、師匠からの依頼でお仕事に出向いたオレが鉢合わせしたのだ。
「あの後も、ちょくちょくサポートしてはいたんだけど、顔を合わせるのは久しぶりね」
そう言うと、副長さんはオレを軽々と抱き上げる。
「相変わらず軽いわね。ちゃんと食べてお肉付けないと駄目よ」
「食べても太らないんですよ」
「ああ。もう、ずるいわ! でも、可愛い!!」
ギューッとされるオレ。
「あッー。副長ずるーい!」
「あたしもー触るー」
「また始まっちまったか……」
「フフ。百合、良い……」
「全く、あまり嬢ちゃんを困らせるなよ?」
オレをもみくちゃにする女性陣を嗜める隊長。
後、誰か変なこと言ってなかったか? おい。
「で、りのの嬢ちゃん。俺達にアポを取ったってのはその娘さんの件か?」
「ひ、ひぅ……」
隊長がBP少女へと視線を向ける。
その所作にビクッと一歩下がるBP少女。
「はい。少々訳ありでして、このまま野に放っておくのは問題があるので10人目の候補にでもと」
だってさ、オレの正体を知っている以上、他のクランかパーティに取り込まれるくらいなら囲い込んでしまった方が良いと思ったんだよね。
ほら、BP少女だって特攻野郎のメンバー入りをすれば、歴とした公務員になるわけで収入も安定して仕送りも出来るし、ウィンウィンの関係というヤツだ。たぶん?
「ほう。俺達に比肩するほどの実力者ってか?」
「へぇ。こんなに若いのに?」
「君。レベルは?」
「は、はい。は、83です」
オドオドしつつもしっかりと答えるBP少女。
「90未満か。りのの嬢ちゃん。ちぃとばかり荷が重いんじゃねーか?」
「いえいえ。前に言ってたじゃないですか。自力でついて来れるBPが欲しいって」
「そりゃ。確かに言った事はあるがな?」
「だからアポを取ったんですよ。物は試しです。――それに此処なら存分に面談できるでしょう?」
オレは隊長へ、悪戯な笑みを向けた。
「ハッハッハッ! 違いねぇ。りのの嬢ちゃんの推薦ってことなら、それはつまりレベル不相応の実力者ってことだ。おいッ。まずは誰がやる?」
隊長の言葉に1人の男がスッと手を挙げた。
その隊員は、プレイヤーというには余りにも似つかわしくない黒のスーツをビシッと着こなし、モノクルを掛けた中年の男性だった。
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