第4話 潮の満ち引き

ヨリコはどうしたんだろう。

ノゾミちゃんが内視鏡で癌がとれるくらいだって言っても。

まだ助けてあげなきゃなんないのに。

何故?治るのに治療を受けなかったの?

おかしくない? 

話してる内容がめちゃくちゃな気がした。

薬の副作用なんだろうか。


「ヨリコ、何故、治療しなかったの?

ノゾミちゃんや双子ちゃんは、ヨリコの事が必要だよ。わかってるでしょう。

なのに、どうして自暴自棄みたいな事をしたの?

私にはさっぱりわからない。

どうしちゃったのよ!」


「アズ。

そう思うわよね、、。

これから話すからね。

信じてくれなくてもいいわ、、。」


ヨリコの話はこうだった。


ノゾミちゃんの肺がんは肺内転移を起こしていた。

医師からは抗がん剤の副作用が酷くて、正常の血液細胞がやられてしまっていること。

それで最新の抗がん剤は使えないこと。

分子標的治療薬も使ってはいるが効果が見られないこと。

古い抗がん剤に変えてみるが、それも結果はわからない。

それをノゾミちゃんは聞いて、さすがに

「もう、頑張れないなぁ、、。」と

漏らしたこと。

それからは、自分の無力さに苛まれる毎日だったこと。

私達のことを羨ましいと思う気持ちや嫉妬さえ生まれてきたこと。

そんな自分が嫌でたまらなくなった。

そんな時にネットで、新月の時間に願いを

ピンク色の紙に書いて大切に持ち歩くと

願いが叶うという情報を見つけた。

何でもやってみるしかないと決めた。

新月の夜、願いを書いたこと。

そんな話をしてくれた。


「わかったわ。その願いが叶ったってことよね?ノゾミちゃんは薬が効いて癌が取れるまでになったんだから。

それは、わかったわ。

それとヨリコが治療しないことの関係はなんなの?」


「アズ、、。

願いは簡単には叶わないのよ。

何か大切なモノと交換しなきゃならないの。」


「え?

まさか、それが、、、。」


「そう。私の命。」


「、、、。

ヨリコ、、。」

私は絶句した。


「信じてくれなくてもいいのよ。

でもね、私に肺癌が見つかった時にね、

これは願いを叶えてくれると信じたのよ。

だから、治療はしないと決めたの。

そしたら、ノゾミの体の癌は小さくなっていったわ。それを知ればね。私の事はどうなってもいいと思った。

アズ、私ね、後悔してないよ。

ノゾミは私にとってかけがえのない宝物なの。」


「ヨリコ、、。」

私はヨリコを抱きしめた。


「アズ、アサコやポンにはこの話はしないでね。何かの拍子にノゾミが知ったらと

思うとね、、。

私が新月の時に逝ったらね。

ノゾミの事をお願いします。」

ヨリコは頭を下げた。


「うん、うん。

任せとけ!みんなで、絶対に守るからね。

心配するな!ヨリコ!」



この日からしばらくして個室に移ったヨリコ。新月の日までヨリコは、アサコやポンや私と小さな頃に食べた駄菓子とかこっそり、ピー缶タバコを吸ったり、お酒も隠れて飲んだりした。

昔の彼氏の話やら色んな話も沢山できた。


新月の夜11月1日夜、ヨリコは旅立った。

満足そうに微笑んでた。


ノゾミちゃんはすっかり元気になった。

私達はお節介おばちゃんで、あれこれと

世話をやいた。


月を見ると思う。

潮の満ち引きで人は生まれ

亡くなると言う。

ヨリコは自分の命をノゾミちゃんに

渡したのだと思う。

誰が信じなくても、私は信じるわ。

ね、ヨリコ。






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新月 潮の満ち引き 菜の花のおしたし @kumi4920

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