第5夜 総合入隊試験(前編)

【週明け】


「第三グループ、中へ入れ」


 ギィィ...と開いた扉の中へ二人一組で組まれた訓練生たちが入っていく。その手には開始前に支給されたRBが握られていた。


 時間を少し遡ること三時間前、いつもより少し早くに起床したジック達訓練生は大型車に乗せられて総合入隊試験が行われる裏山へ向かった。その裏山はWB・Fが所有している私有地であり、総合入隊試験は以前からこの場所で行われ続けていた。

 総合入隊試験では第一試験〜第三試験の三部構成となっており、最後の第三試験を突破することで試験合格。WB・Fへ入隊できるのだが、この総合入隊試験を全て突破できた訓練生は過去の統計から十人中、四〜五人程度であった。


 その理由わけは試験の内容にあった―――


【第一試験開始前】


「ではこれより、WBホワイトバードフリーダムズ総合入隊試験…第一試験の説明を開始する」


 担当しているWB・Fの教官から第一試験について説明された。その内容は次のとおりである。


 ・あらかじめ振り分けられたグループごとに試験を行う

 ・試験会場内に入るのは一組ずつ

 ・第一試験の内容は試験会場内に潜むゾンビを鎮圧し、出口から脱出すること

 ・RBレクイエムブラスターは支給される

 ・合否の結果は受験前のグループには伝えられない

 ・第一試験突破者のみ第二試験を受けられる


 総合入隊試験を受ける訓練生は計三十名。二人一組なので十五組に振り分けられた。


 そして現在いま、三組目のグループが第一試験を受けようと会場内へ足を踏み入れたところだ。ジックは第十一グループでキールと一緒である。


「なあジック…」

「ん?」

「この試験さ……不合格=死とかじゃないよな」

「いやお前、フラグ立てるようなこと言うなって……」


 誰もが聞きたくなかったであろう発言に冷や汗をかく。暫くすると順番が徐々にまわってきた。


「第十一グループ、そろそろ準備しろ」


 試験監督の教官に促されて会場の入口へ向かう。そこでは一つ前の第十グループが、ちょうど会場内へ入ったところだった。


 そして約三分後


「よし。第十一グループ、中へ入れ」

「えっ…。随分早くありませんか?」

「かまわん。さっさと入れ」

「は、はい……」


 四の五の言う暇もなく会場内に入れられると、中は少し暗くて壁以外何も無い空間が広がっていた。

 そして…少しばかり寒い。


『これより試験を開始する。早速だが、この中には無数のゾンビが潜んでいる。道中のゾンビをRBで鎮静・鎮圧し、出口から脱出しろ。以上だ。分かったら、先へ進め』


 無機質な無線がブツリと切れる。血の気が多いキールがRBを構えて先へ進もうとした時、グイッと肩を掴んで引き止めた。


「うわっ!? 何だよジック…」

「そのまま行くのは多分危険だ。僕に考えがある」


【数分後】


「カ”ア”ア”ア”ア”ア”ウ”!!」

「…ふう、これで五〜六体くらいか?」

「うん。拾った地図的に、出口はもう少し先だと思う」

「分かった。サンキュ」


 ジックが提案した方法、それはお互いの背中が向き合うようにしてゾンビに隙を見せないようにするものだった。

 この方法はかなりの有効打で、背後から襲いかかってきたゾンビの鎮静に明確な差をもたらした。


 べチャリ…


「…!? おい…」

「鉄臭い…。まさか、血…?」

「…今は先へ進もう。止まってる場合じゃねぇ」


【本部 モニター室】


「ふむ...背中を預け合うとは賢い判断だ」

「中々良い連携ですね、この二人」

「ああ…」

「ーー、どうかなさいました?」

「…いや、なんでも無い。あとは頼む」

「はい。『我々は自由なりウィーアー・フリーダムズ』」


 謎の人物はバサッと絹織の白いマントをひるがえすと、そのヒールを高らかに鳴らしてどこかへ去ってしまった。





「おい見ろ! 出口だ!!」

「ふぅ…一歩前進ってとこだね」


EXIT出口」と書かれた扉を押し開くと、そこには試験を突破した他の訓練生達と教官の姿があった。


「おい! ジックとキールだ!」

「おーい! こっちこっち!」

「二人が無事で良かったぜ」


 訓練生達が二人を呼ぶ中、横で待機していた教官がジックとキールに近づいた。


「第十一グループ、合格だ」

「ありがとうございます」


 教官に一声かけると、二人は仲間の元へ向かった。……しかし、最初に比べて人数が少ない。


「なぁ…なんか少なくないか?」

「それは俺達も思ってた」

…? 一体どういう事だよ」


 キールが問い詰めると、第三グループに割り振られていた二人が話し始めた。


「先に第一グループと第二グループが入っていったろ? その後に俺達が入ってここに出たら、誰もいなくてさ…。行方を探そうとして戻ろうとしたんだけど教官に止められて……」


 その言葉に俺も私もと続いた。ここにいる全員が、同じ経験をしたようだ。

 後に出口から出てきたのは第十三グループと第十五グループの二組だけだった。


「これにて第一試験は終了だ。ここにいる計二十名は第二試験会場へ向かってもらう」


 第一試験で十名も脱落したと悟った訓練生の何人かは、ショックを受けて膝をついたり呆然と出口のほうを見たりした。


(三十人のうち突破したのは二十名…。第一試験で鎮圧させたゾンビが本物だとすれば、あの血は……)


「ジック!! 早く行こうぜ」

「あ、ああ…」

「お前どうしたんだ?」

「ちょっと考え事してただけだ。大丈夫」


 ジック達は手配された車両に乗り込むと、次の第二試験が行われる会場へ移動した。



【第二試験会場】


「これより第二試験を開始する。試験について説明するからよく聞け」


 第二試験会場は地下駐車場を模したようなフィールドのようだった。

 内容としては地下駐車場内に取り残された生存者をゾンビから守りながら救助する、いわゆる人命救助の試験であるという。


 この試験では「生存者を一人残さず発見できるか」、「」という思考力・判断力が問われている。

 そのため試験の中で、座学で学んだ知識を応用する必要もあった。


 ここでも先程と同じようにグループ別に分かれる。今回ジックはキールとは別の訓練生と一緒になった。名はフランという。


「私はフラン。よろしくね」

「ジックだ。こちらこそよろしく」


 軽く挨拶を交わしていると次々に順番が回り、ジック達のグループが呼ばれた。


「第八グループ。そろそろ時間だ、準備しろ」

「「はい」」


 教官に呼ばれて試験会場の入口へ向かう。始める前に、二人にRBが支給された。


「では第二試験を開始する。中へ入れ」


 第一試験の時と同じように思いコンクリートの扉が開かれると、その先は本物と言われても分からない程綿密に設計された地下駐車場だった。


『これより第二試験を開始する。要救助者全員をゾンビから守り、脱出させろ』


 あいも変わらず似たようなアナウンスが流れる。二人が気を引き締めて進もうとした時だった。


『ひとつ助言だ。


 それを最後にアナウンスはまたブツリと切れた。


「『確認を怠るな』? どういう事なの」

「分からない…。一先ず先へ行こう」


 二人はゾンビに警戒しながらも、中に取り残されている要救助者を捜索した。


「誰かいませんか!?」

「声が聞こえたら、近くにあるものを使って返事をしてください!!」


 物音を出せ。というのは実際に災害などで身動きが取れない時にも使える方法である。大声を出すと身体に疲労が蓄積し、体力の消耗が激しくなるという理由からテレビ等でも紹介されたりしているのだ。

 話を作品に戻そう。分かれていた二人は一度合流し、耳をすませた。遠くの方からコンクリートを叩く音が聞こえてくる。


「あっちだ。行こう、フラン」

「うん!」


 音がした方向へ向かうと、腰を抜かしたのか地面に座り込んで動けずにいる要救助者を発見した。


「大丈夫ですか? 立てますか?」

「あ…助かった…」

「我々が必ず外へ連れていきます。さぁ、こちらへ」

「お兄さん、後ろ…!」

「!? まずい…!」


「こっちよ!!」

「グアアアアア!!」


 背後のゾンビに気づかず絶体絶命の時だった。フランの咄嗟の判断が功を奏し、危うく死なずに済んだ。


 その後しばらくしてさらに四人の要救助者を発見した。救助者達は全員知り合いだったようで、これで全員だということが判明した。


「あとはこの五人を連れて出口へ向かうだけだね」

「そうだな……」


 ジックはこの救助者の中で一つ思い当たる事があった。アナウンスで言われた「確認を怠るな」という助言の事が特に。


 とりあえずと、迫り来るゾンビを鎮圧させながら出口へ向かった。


「…やっと出られる〜!」

「お兄さん達、ありがとうございました」

「いいよいいよ!」


 フランと救助者の一人の女性が話している中、ジックはやはり違和感に気づいた。


「…あの、ちょっとよろしいでしょうか」

「? はい……」


 ジックが声をかけたのは、紫のマフラーを巻いている女性だった。逃げる際にも、ずっとマフラーを掴んで首元を気にしていたのだ。


「そのマフラーの下、少しだけ見せてもらえませんかね?」

「え…。なんで…?」

「ジック、どういうことよ?」


 その場にいる全員が動揺していた。別にマフラーをする事が悪い訳では無い。だがジックは、ある仮説を立てていた。


「貴方をこのまま出す訳にはいきません」

「えっ!? なんでよ!」

「貴方は先程から、そのマフラーを随分と気にされていました。特に理由が無ければマフラーを外しても問題ありませんが、貴方は外すことを拒んだ……。首元、見せたくないんでしょう?」

「っ…!」


 女性は明らかに動揺していた。フランはもういいだろうと反発したが、女性はしばらくして自らマフラーを外した。


「!?」

「これは…!」

「やっぱり……」


 女性の首元には、座学の時に見たような彼岸花模様の痣があった。それもかなり濃くなっている。


「このまま時期にゾンビ化する可能性が高い。この女性は置いていこう」

「そんな…邪鎮薬は無いの!?」

「渡されたのはRBだけ。これは試験なんだよ!」

「っ……」


 ジックは小さく「ゴメン」と呟いてフランと他の救助者と共に外へ出る。背後からは人間のものとは思えない雄叫びが聞こえた気がした。

 外へ出ると、そこには無事試験を切り抜けた仲間の姿があり、その中にはキールもいた。


「第八グループだな。合格だ」


 待機していた教官の判定に安堵したジックは、ふぅとため息をついた。


「ジック! やっぱりお前もに気づいたか」

「まぁね。結構分かりやすかったよ」


 皆その話で持ちきりだった。

 その後出てきた第九グループを最後に第二試験が終了。この時点で総勢十二名とかなり少なくなっていた。


「次に行う第三試験はかなり過酷だ。そのため一晩休憩をとる。明日の朝にはここに集合しておけ、解散!!」


 教官の指示で各々が休憩に入る。ジックとキールは配給された携帯食をもくもくと頬張っていた。


「うーん、ほほはひははへはひはこの味は慣れないな

まはひょこへーほはひなはへはひはほまだチョコレート味なだけマシだろほふーは、ふひにひへははははへふなというか、口に入れたまま喋るな

ほはへほはお前もな


 周囲から見れば何と言っているかさっぱり分からない状況だが、そんな他愛も無い会話が何よりのひとときだった。


 就寝はもはや野宿に近かった。幸いにも気候が穏やかで過ごしやすかったため、底冷えしたりする事はなかったようだ。


 〜続く〜

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ゾンビ浄化の「ジャック・F」 白玉ヤコ @Siratama85

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