剣之旅
@powerStockVii
一話 夜の語り
全てを吸い込む程に暗い夜空の下、その男達は語り合った。
「…それで…お前は何で旅をするんだ?」
名も無き旅人は訊いた。
少し考えた上でもう一人の男が返した。
「こいつを返しに行くんだ。」
そしてこの男、土蔵は白く光る宝石の様なものを取り出した。
「驚いた、コイツは恐らく魔石じゃねぇか?」
魔石とは、この世界に存在する特殊な宝石の事である。
魔石を鍛冶屋に持っていき魔石で指輪を作ってもらい、その指輪を付けていると特殊な効果を得ることが出来る。
魔石には攻撃系魔法の赤、防御系魔法の青、回復系魔法の緑、能力強化の黄、特殊魔法の紫、呪術の黒等があるが、土蔵が持っている白の魔石の存在は魔石の存在が確認されてからまだ一度も確認されたことは無い。
「この石が本当に魔石とは言いきれねぇが、少なくとも50万円…いや、下手したら100万円程度の価値があると思うぜ。」
確かにこの男の言う通り、仮に魔石だとしたら100万円、そうでなくても50万の値打ちはある。
「確かにそうかもな。
だが俺は金には興味が無い。」
「そうか、所でお前はこいつを返しに行くってたよな?」
土蔵は焚き火で焼いた魚を食べながら頷いた。
「一体何処の誰に返すつもりなんだ?」
「王都に住んでいる王女に返す。」
「は?」
突然の話に男はついていけていないが、土蔵は構わず続ける。
「元々俺は王都付近の街、イダヤに住んでいた。」
「そしてある日とある女がイダヤに訪れ、歩き回っていたんだ。」
「ほう、その女はもしかしなくても…」
「ああ、その当時は全く分からなかったが、どうも調べてみると王女だったらしい。」
「王女サマが来るって事は余程重要な事があったんだろうな。」
「さあな、俺は用までは知らない。」
「話を戻すと王女が歩き回っているうちに王女が石につまづいて転んだ。」
「王女も不用心だな?」
「その時、王女のポケットから白い石が落ち、転がって王女から離れてしまった。」
「俺は王女が落とした白い石を探して、拾って返そうとしたがその時にはもう王都に帰っていた。」
「白い石を返そうと情報を集めているうちにその人が王女だった事を俺は知った。」
「王都に向かおうと思ったが、そのタイミングで運悪く俺は事故にあった。」
「事故ってどんな事故だ?」
「今俺達がいるスラムから抜け出した人間と勘違いされ、ここに連れてこられてしまったんだ。」
「それが1週間前の話だ。」
「だからどうりでスラムで迷子になってるわけか、しかし警察は無能か?」
「ああ、先程も迷子だったからな。」
「おっと、助けて貰ったお礼を忘れていた。」
土蔵は袋から1000円を取り出すと男に渡した。
「手持ちがこれしかないものでな。
申し訳ない。」
そう言うと土蔵は白い石を見つめて言った。「さて、そろそろ俺は行くよ。」
男は驚いた様子で訊いた。
それもそうだろう、このスラムから王都までは分かりやすく言うなら沖縄から北海道まで程度の距離がある。
その為急いだ所で到着するのは対して変わらない。
「い、今からか?」
「まだ十二時だぞ?」
「のんびりしていたら返すのも遅くなってしまうからな。」
「また会った時には焚き火の下で語ろう。」
そう言うと土蔵は一礼して、闇の中に歩みを進めていった。
剣之旅 @powerStockVii
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