すでに心は決まっていた

明智光秀の視点を主軸に置いた、本能寺の変に至るまでの経緯を描いた歴史小説です。

歴史を題材にした作品は、人によって描きたいものが大きく異なってくるのを強く感じます。

史実を忠実に書き記したり、独自の解釈で小さな戦に華を持たせたり、あるいは歴史に名を残さなかった人物の視点から時代の厳しさを伝えたり。

そんな様々な描きたいものの中で、私がこの作品に感じたのは逃れきれない人間模様。

大義のためや御家のため。拒否できない選択の中でもがき苦しむ人の世の複雑さが、とても丁寧に表現されていると感じました。

素直な意見を口に出せば、それだけで命の危機があった時代。致命的なまでかみ合わない思いやりは、ズレた歯車を余計に崩壊へと進める後押しをしてしまう。

すでに一番の選択を終えてしまった光秀を読み込める名作です。

ぜひ読んでみてください。