ロキの冒険⑥



ロキは黒い炎を纏いながら、仮面の魔族に向かって疾走した。目の前に立ちはだかる相手は、自分が想像していた以上に強力で、まるで底知れない圧力を放っている。だが、それでもロキの中には妙な覚悟があった。


「俺は…こんなところでくじけるわけにはいかない!」


黒い炎がロキの全身を覆い、彼の力は限界を超えようとしていた。しかし、仮面の魔族は微動だにせず、淡々とした口調で彼を見下ろした。


「哀れだな、ロキ。人間と魔族の狭間で生きようとするなど、愚か者のすることだ」


仮面の男は冷笑を浮かべると、手をかざして闇の魔力を纏わせた巨大な槍を生成した。その槍は黒光りし、どこか禍々しい雰囲気を醸し出している。


「お前は自分の存在を捨て、俺たちのもとに戻るか、それともこの世から消えるか…それだけだ」


その言葉にロキは強く睨み返し、口元に険しい笑みを浮かべた。「俺を消すって?そんな簡単にいくかどうか、試してみろよ!」


ロキが挑発すると、仮面の魔族は槍を勢いよく突き出してきた。その槍はまるで暗闇を裂くように迫り、ロキは寸前で身をかわした。しかし、一瞬の油断が仇となり、槍が彼の肩を掠める。その傷からは熱い血が滴り落ちたが、ロキは痛みを感じる間もなく反撃に出た。


「喰らえ、俺の全力を!」


ロキは全身から黒い炎を一気に放出し、仮面の魔族に向けて投げつけた。その炎はまるで生き物のように渦を巻き、相手を飲み込もうと襲いかかる。仮面の男も一瞬たじろいだが、冷静さを失わず、槍を振りかざして炎を弾き飛ばした。


「その程度の力で俺に勝てると思うなよ」


ロキは息を荒げながらも、自分に言い聞かせた。「まだ…俺は負けてない。ここで終わるわけにはいかないんだ!」


ふとその時、遠くで村人たちの悲鳴が聞こえた。振り返ると、エリンたちが敵の魔族に追われているのが目に入った。彼女は必死に村人を守ろうとしているが、彼女もまた無力な人間でしかない。ロキは彼女たちを守るため、目の前の仮面の魔族に背を向け、急いで駆け出した。


「逃げろ、エリン!」


叫びながら、ロキは村人たちの元へと駆け寄った。しかし、その背後から仮面の魔族の冷たい声が響く。「逃がすと思うな。お前も、村人も、皆まとめて消し去ってやる!」


ロキは振り返りざまに、全力で黒炎を放出し、エリンたちとの間に障壁を作った。そして、彼の内で沸き上がるのは、怒りと絶望と、どこか掻き消せない人間としての愛情だった。魔族としての力は目覚めつつあるが、その一方で、彼はこの村や人々を心から守りたいと願っていた。


「俺は…人間も魔族も、どっちも捨てない!」


ロキの叫びと共に、その体から一層の強大な魔力が溢れ出た。それは、彼自身が人間として守りたいという意志と、魔族としての力の両方を融合させた、独自の力だった。


その力を目の当たりにした仮面の魔族は、ようやく驚きの表情を見せた。「まさか…お前の中にそんな力が…!」


ロキはその隙を逃さず、敵に向かって再び黒炎を放った。今回はただの攻撃ではなく、彼の思いが込められた一撃であった。その炎は一気に仮面の魔族を飲み込み、燃え盛るように光を放った。


「これで…終わりにしてやる!」


ロキは最後の一撃を叩き込むと、仮面の魔族は悲鳴を上げながらその場に崩れ落ちた。静寂が訪れる中、ロキは荒い息をつきながら立ち尽くしていた。彼の中で、再び村を守るために戦った自分への誇りと、魔族としての力を使わざるを得なかった葛藤が入り混じっていた。


エリンが駆け寄り、ロキを支えながら呟いた。「ありがとう、ロキ…あなたがいてくれて本当によかった」


ロキは微笑み、力なく頷いた。彼は自分の選んだ道が正しかったのか分からないまま、ただ村を守れたことに安堵し、エリンに支えられてその場を後にした。





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処刑された最強勇者、転生して王国に復讐を決意する @ikkyu33

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