第13話


「メルちゃんの作るジャムはお紅茶にとっても合うのよね〜」


 ご機嫌で私たちの家に入っていく姫を見ながら、私──メルは馬の手綱を木の柱に縛っている髭面に近づく。


「今日もギリギリだった??」

「そうだね」


 グリースこと私たちのお祖父ちゃんはニコニコとした顔を私に見せた。


「ごめんね。いつもこんな茶番をやってもらって」

「可愛い孫に会うためならこれくらい」


 あと、と姫様が入っていった家の方を見ながらお祖父ちゃんは口の端を上げる。


「たぶん、この時間が三人とも楽しいんだと思うよ」

「お祖父ちゃんも?」

「もちろん」


 笑顔の祖父を見ながら、私は姫様に心の中で謝る。


 私はまだお兄ちゃんと一緒に暮らしたい。もう少しだけ。だからもうちょっと待って欲しい。


 クシャッとした顔の私を察したお祖父ちゃんは私の肩に手を置いて口を開く。


「そんなに罪悪感を持つことはない。私も共犯なのだから。それに····」

「それに?」

「さっきも言ったが姫様もこの時間が楽しみなのだ」

「ほんと?」

「ああ。本当だとも」


 髭が多くてもハッキリと分かるくらい笑窪が出来上がった祖父の顔を見て、ほっ、と一息つく。


「でも、お祖父ちゃんが『私たちのお祖父ちゃん』だってまだお兄ちゃんに言わなくていいの?」

「まだいいかのぉ。知ってしまうと何だか気を使われそうだし」


 それに、とお祖父ちゃんは少年のようにニヤっと笑う。


「驚いた孫の顔を見るのはもっといいタイミングがありそうだしな」

「もぉ〜。お祖父ちゃんったら」


 クスクス笑い合っていると家の中から声が飛んできた。


「メルちゃん!タリース!早く!」

「「グリースです姫様」」


 終

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マリー、アントを永遠《とわ》に網《ねっと》で!〜逃げられるのなら捕らえておけばいいじゃない〜 浦がるむ @uragarumu

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