第12話


 ギャラリーがゾロゾロと解散していく中、俺──アントの前に体躯のいい大男が目の前に立っていた。


「お前も毎朝大変だな」

「あっ、社長。おはようございます」


 地べたに座ったままペコリと頭を下げる。

 社長はボリボリと頭をかきながら俺に不思議そうな顔を向ける。


「しかし、なんでこうもいつも回りくどいやり方何だ?」

「あー。門限があるみたいでして。平日7時から17時しか城の外に出られないみたいでして」

「アントがほぼ仕事してる時間だな。休日は?」

「それが王女としての仕事があるみたいでして」


 ほぉー、と長い髭を触りながら社長は続ける。


「じゃあ何で網で捕まえようとしてるんだ?」

「それは····」


 近くにいた門兵二人も気になっていたらしい。興味津々の顔でいる。


「······捕まえた感が出て興奮するそうです」

「·····それは変わった性癖だな」

「そうですね」


 よいしょ、っと立ち上がりズボンを叩き土ぼこりを落とす。


「でもアントもまんざらでもないんだろ?」

「大人しく捕まれば良いじゃないか」


 門兵二人が長槍を持ったまま尋ねてくる。


 俺はあー、と続ける。


「昔約束したんですよ。マリーに城以外の家に住みたいって言われて、俺が『じゃあ俺が造った家で住もう』って。それで」

「それで俺の会社で技術を学ぼうと思ったわけか?」


 続きの言葉を奪われた俺はコクリと頷く。


「一人前にはほど遠いから、まだ捕まってしまうわけにはいかないんですよ」

「けど、ここ毎日のように逃げられて可哀想だろ。1回くらい捕まってあげたらどうだ?」

「いいですけど無断欠勤になりますが、大丈夫ですか?」

「それは駄目だな」


 真顔で頷く社長を他所に門兵二人は笑っている。


「にしても、いつもギリギリで捕まらないよなぁ〜」

「たしかに。なんでだい?」

「さあ?いつも懸命にここを目指して走るだけだからな」


 それは俺にもわからない。

 けど、そんな事はどうだっていいかもしれない。


 平日の短い時間、少し──いやかなり特殊だがマリーに会えるのだ。

 少しの時間でも会えるだけでも俺は嬉しいと思ってしまっている。


 ニカニカ笑っている社長の大きな手がばしっ、と俺の背中を叩いた。


「さあ、今日も働け若人よ」

「うっす」


 右腕をクルクル回しながら俺は元気良く応える。 


 さあ、今日も張り切っていこうか。

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