第11話


「惜しかったですな」


 ぱかぱかと馬の足音を聞きながら私──マリーは家臣からの慰めにため息をつく。


 駆け抜けてきた道を引き返す。丘を越え下り坂を進む。追っている時は必死で気づかなかったが、今日は少し風が強い。


 ひゅうひゅうと吹く風にブロンドの髪をなびかせながら顔を上げる。


「でも、こうしてアントと平日会えるのは」


 ──嬉しい、と言ってしまうと本末転倒の気がするので口にはしない。


 だって捕まえてゆっくり愛を語るのが本命なのだから。


「なんですか?」

「いや、何でもないですわ」


 口元を緩めた時、前方から可愛らしい声が聞こえた。


「姫様!」


 メルが笑顔で手を振っている。いつの間にかアントの家の近くまで来ていた。


「今日もだめでしたか?」


 駆け寄ってきたメルに苦笑する。


「ええ」

「そうですか······あっ!採れたての野菜で作ったジャムがあるんです!ちょっと家に寄っていきませんか?」


 私は思いっきり顔を輝かせた。


「それは是非!良いわよね、ブレース」

「グリースです、姫様」

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