第7話(途中)

 翌朝目を覚ますと、いつも通り少女が窓際に椅子を置き、外を眺めていた。テオの視線に気付くと振り向いてにっこり笑う。

「おはよう、テオ」

「おはよう」

 誰かとおはようを言い合うのも久しぶりだとテオは気づいた。父さんが亡くなってから初めてのことだろう。少女の居候も最初は渋々だったが、こういうやり取りができるのは悪くない。もっとも、本当であればそれは二日前に知ることができたのだが。昨日はテオが切羽詰まっていて、一昨日は少女の勢いに圧されて、テオは朝のあいさつをすっかり忘れていた。

 テオは珈琲を淹れて、マグカップを少女にも渡す。礼を言ってマグカップを受け取った少女は、また嬉しそうに外に目を向けた。

テオも少女の見ている景色を見やった。どんよりとした雲が空一面を覆っている。半分以上が分厚く黒い雲で、いつ雨が降り出してもおかしくない天気だ。

 そんな空模様に反して、彼女は満面の笑みだ。どこかわくわくとした高揚感さえ伺える。

「いつも外を見てるね。そんなに楽しい?」

尋ねると少女は頷いた。

「もちろんよ。空の下から見る景色は初めてのものばかりよ。空からの眺めも大好きだったけど、地上から見える世界も美しいわ。ねぇ、今日はどこに行くの?」

 きらきらと金の瞳を輝かせる少女に、テオは「雨が降りそうなんだけど……」という言葉を吞み込んだ。

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流れ星の願い 春風 @s0v0p

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