第31話 エピローグ いずれ親の背中を超えていく。
ハイネから呼びだしを受けて俺は庭に向かう。
道中にこれまでの出来事を振り返る。
ディズモン伯爵の脅威は去った。
貴族同士の争いごとに発展したが奴はいくつもの罪を犯していた。
俺の正当性は証明されるだろう。
魔人もいまのところ現れる気配はない。
いつまた襲ってくるか不明だが撃退したときの様子からして、ミラを相当警戒しているように思える。
可能ならあそこで一体倒しておきたかったのが本音だ。
だが、覚醒したばかりのミラにはまだ荷が重いだろう。
無事だっただけで御の字だ。
まさか、あの場面でミラが覚醒したのは予想外だった。
これは嬉しい誤算だ。
魔人に対抗する手段がひとつ増えた。
だが、根本的な解決にはまだほど遠い。
だからこそ、どれだけシナリオが乖離しようともハイネの覚醒は必須。
……しかし、どうもハイネの様子をみるに状況は芳しくない。
勇者に必要なのは強い意志だ。
だれかを守りたいという信念だ。
だけど、残念ながらハイネからそれらを感じ取れない。
強いチート武器を持たせれば、綺麗な美少女がある日とつぜん現れたら、きっと息子は変わってくれるんじゃないかと想像していた。
けれど、それは間違っていた。
そんな都合の良いものだけで人の心は簡単に成長しない。
強い願望を持ち、努力と体験を積み重ねて、初めて勇者としての成長がある。
俺だって生まれ持ってヴァリアンツ家としての誇りを持っていたわけではない。
父上に厳しく指導されて培ってきたものだ。
なのに、俺は勇者としての勇気や責務を、なにも知らないハイネに無理矢理おしつけようとしていた。
それをあいつは感じ取っているのだろう。
ここ最近はずっと元気がない。
落ち込んだように顔を伏せて、いつも俺のそばに張り付いていたのに、近頃は顔を合わせるだけで避けられてしまう。
あの子は努力が出来る子だ。
祝福の儀で無属性と宣告されたら、普通は心に深い傷を負い、下手したら一生立ち直れずに腐ってもおかしくない。
それなのに、あの子は無属性と宣告された翌日には、文官になると宣言して立ち上がった。
それも、悔しい、見返したい、とかじゃなくて、俺や領民のためにどうすれば無能な自分が役にたてるかという献身的な気持ちで。
普通そんなこと中々できやしない。
でもあの子はそれをやってのけた。
立派な息子だ。
だから、俺はあの子を責めるのではなく、褒めてあげるべきだったのだ。
領主としてではなく、前世の記憶を持ちシナリオを知る転生者としてでもない。
あの子の父親として「よくやった」と褒めるべきだった。
親が子供に事情を押し付けて自由を奪うなんて一番やってはいけないことだ。
子供の幸せを願うのが俺の役目だった。
いつも元気だったあの子の暗い顔をみるのが辛い。
でも、あの子には世界を救ってもらわなばいけない。
そのためには自信を取り戻してもらわないといけない。
どうすればいいのだ。
分からない。
父として、領主として、どんな言葉を掛ければいいのか、なにも思い浮かばない。
最低だ。
悩み苦しむ子供に手を差し伸べれやれない。
俺は……父親失格だ。
◇ side ハイネ
魔人の脅威が去ったあの日以来、私の心は暗く曇ってた。
目を瞑れば、あの時の光景を思い出してしまう。
負傷した父上を置いて逃げた自分。
負傷した父上に駆け付けるミラの後ろ姿。
それが脳裏に焼き付いて離れなかった。
『無属性の自分が戦ってもどうせ勝てない』
あの時の選択は絶対に間違ってなかった。
そう何度も己に言い訳した。
けれどそれは、ディズモン伯爵と一騎打ちをした父上も、魔人に立ち向かったミラにも同じことが言える。
父上は強いが、それでも魔人の力を手に入れたディズモン伯爵に勝つ見込みは低かった。
ミラだって偶然に聖女へ覚醒して力を得ただけだ。
そんなものがなくとも彼女は迷いなく父上のもとに駆け付けていただろう。
特別な力がなくとも二人は強大な力に立ち向かった。
逃げ出した後も言い訳ばかりしている自分とは違う。
その時の光景が、もやもやとした暗い感情が、消えない。
ずっと心の真ん中に居座り続けている。
「こんな場所に呼びだしてどうした?」
庭に父上が現れる。
私はどうしても、頭の中にあるこの靄を晴らしたかった。
そして、その答えは見つけ出すには、こうするしかないと思った。
二本の木刀のうち一本を父上に渡す。
「父上、私と一騎打ちをしてください。もちろん、手加減なしの本気で」
「どういうつもりだ?」
「それは……私にも分かりません。ただ、これが一番正しいと思ったのです」
ミラのように、そして父上のように。
勝てる見込みのない相手に本気で挑む。
それが答えにたどり着く一番の近道に思えた。
私の真剣な気持ちを受け取ったのか、父上がたたずまいを直す。
「覚悟はあるようだな。手加減はしないぞ」
「はい」
父上が木刀に雷撃を纏わせる。
チリチリと音が鳴り、木刀から焦げ付いた香りが立ちのぼる。
勝負はほんの一瞬だった。
父上の放った苛烈な一太刀は、容赦なく私の木刀を叩き折り、その勢いのまま肩に一撃を叩きこんできた。
「ぐっ」
おもわず肩を抑えてあっさりと体が崩れ落ちてしまう。
強い。
たったの一撃。
抵抗すら出来なかった。
仰向けに倒れて、ズキズキとする肩の痛みに耐えながら、雲が流れる大空を見上げる。
無力だ。
あまりに無力だった。
魔法もつかえない。
全力で立ち向かっても、父上と一合も斬り結べない。
これでは誰も救うことができない。
大切な人を置いて逃げることしかできない。
そんな自分が情けなかった。
瞳から熱い涙が次から次へと溢れ出してくる。
「……うっ」
こんな姿を父上に見られたくない。
「……っう……くっ」
腕で必死に涙を隠すが、嗚咽がとまらない。
あまりにも無力で、弱い自分が悔しくて、涙が止まらない。
「うわあああああああああ!!」
どうして私は無属性になってしまったんだッ!
守られるだけの弱い存在になりたくないっ。
大切な人を守れる力が欲しいっ。
「……う……くっ……ち゛父上、ワダシでも、剣を学べばづよくなれますか」
無属性になった自分が憎たらしかった。
父上の隣で戦えない自分を恥じた。
どんな敵にでも立ち向かえる勇気が欲しい。
強くなりたい。
だれよりも前に立って、立ち向かえる心の強さが。
庭に風が吹く。
花壇の花が揺れる。
父上はしばらくなにも答えずに大空をじっと眺める。
晴れているはずなのに、父上の足元にぽつりと小さな雨粒が落ちた。
「ああッ、なれるさ。お前ならきっと、だれよりも強い戦士に!」
父上は最後まで顔を下げずに力強くそう言ってくれた。
「……くっ、はいっ!」
倒れたまま、斬り結んで半ばで折れてしまった木刀を空に掲げる。
ここからだ。
弱くたっていい。
ここから始めるんだ。
無属性がどうした。
自分への言い訳は聞き飽きた。
さあ立ち上がろう。
だって、もう教わったじゃないか。
―――何度剣が折られようとも
―――何度心が折られようとも
―――ヴァリアンツの誇りと魂は、決して折れないのだと。
いつか最強の戦士になる。
皆を私が守るのだ。
そのために生きよう。
努力しよう。
頑張ろう。
誰よりも勇気ある者に私はなるのだ。
第一部完。
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とりあえず完結です!
ここで読んでくださりありがとうございました!
本当はカクヨムコンに応募したいと思って書き上げた本編ですが、カクヨムコンのルールを理解してなくて、コンテスト開始前に投稿しちゃってました。
それでも、楽しんでもらえたなら何よりです!
記念に★で評価してくださると幸いですw
そして、今日から別でカクヨムコンように急遽執筆してる小説を投稿します!
それがこちら!
キャッチコピー
助けた少女に付き纏われて困ってます。
タイトル
お世話好きの委員長さんが退学したい不良の俺(人生2週目)を通学させようとする話
https://kakuyomu.jp/works/16818093090165813206
悪役パパが楽しめてもらえたなら、絶対に面白いと思える作品です!
是非見に来てください!
また、その他にも期間中に10万文字程度で、複数作品を投稿する予定です!
作者フォローで追って頂けると嬉しいです。
では、またお会いしましょう!
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる 街風 @aseror-t
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