主人公たちを応援せずにいられない、とても素敵な恋愛小説です。
何と言っても、この作品は心情の機微の描き方がとても巧いのです。そのために、没入せずにいられない魅力に満ちています。
まずは冒頭。主人公である若月くんが、園田さんという清廉で美しい同級生に恋心を抱きます。その心情描写があまりにもリアルで、「たしかに、恋をするってこんな感じかも」と、強く引きこまれました。
美しくて性格のいい人を目にし、憧れを持つこと。それは幸せな時間でもありますが、同時に「自分自身とは釣り合うだろうか?」なんて考えてしまい、相手の魅力に臆してしまうことも。
「デートの時に相手が遅刻するのがわかると、相手は自分を好きではないのではないか、と不安になってしまう」
「告白されて付き合うことを決めるけど、本当に自分が相手を好きかは自信が持てない。でも、とりあえず踏み込んでみる」
恋愛というのは基本あやふやなもので、好きなら100%好きだったり、付き合い始めたら完全に幸せな状態になれるとか、そういう単純なものではありません。揺れ動く心情と心情が交錯して、それでどうにかバランスを取っているような、非常に危うい側面を持っている。
そういう「楽しいばっかりじゃない恋愛」の機微を描いている点が、序盤から強い共感を抱かされ、若月くんたちに激しく感情移入させられることになりました。
そして、中盤で二人の間には『とても大きな事件』が起こってしまいます。
もう、ハラハラするどころではなく、痛みまで伝わってくるようでした。
「人を好きになる」ということは単純でもないし簡単でもない。外見的な美しさだとか、性格の優しさなど、「ある側面」だけを好きだっただけかもしれない。
では、それが途中で失われたら? その時には、もう好きという感情は持ち続けられないものなのか。
作中ではそんな問いが突きつけられているようでもありました。若月くんと園田さんはそんな状況で激しい葛藤を強いられるようになります。
二人の心情描写がとても繊細で、かつ強く共感させられるものであるため、二人が幸せな結末を迎えられるのか、他人事ではないレベルで心配になります。
二人があまりに一生懸命で、しっかり相手を思いやっているから、応援せずにいられません。
この素晴らしい作品を読まずにいるのは非常にもったいないことです。是非とも、手に取ってみてください。