【短編読み切り】どうせ夢なら好き勝手にさせていただきます!

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どうせ夢なら好き勝手にさせていただきます!


「こ、子供の姿に戻ってる……?!」


 その日の朝、私は大きな鏡に映る自分の姿に驚愕していた。


 昨日までの私は確かに16歳だったはずだ。それが今はひと回り小さな手にくりくりお目々の子供になっている。赤いルビーのようだと言われる瞳の輝きはそのままだが腰まであった自慢の金髪は肩までしかなく、あんなに毎日くるくるに巻いて必死の苦労の末ドリルヘアーにしていたのにサラサラストレートヘアに戻っているではないか。悪役令嬢みたいと言われつつも、頑張って癖づけていた私の3年間の努力の結晶がぁぁぁ!なんてこった!


 いや、と言うかそれどころじゃない!だって私は────。




「確かに、死んだはずなのに……」




 16歳の誕生日パーティーのあの夜。私は長年の婚約者に裏切られた上に不運にも階段から足を滑らせてそのまま死んでしまったはずだったのだ。……今となっては、不運だけで済ませていいものかは悩むところだが。


 だって今でもはっきりと覚えている。


 衝撃と共に手足の骨が砕けた音、肺が潰れて息が出来なくなって……その様子を階段の上からニヤニヤとした顔で見ている元婚約者とひとりの令嬢の顔を────。そしてその瞬間、ぞわっと背筋が寒くなったのを。


 さらに、どんなに苦しくても口から出るのは助けを求める声ではなく血を吐くだけでそのまま意識が途絶えたのだ。あれは現実に起こった事なのだと、“私”が訴えている。




「まさか……!」




 私は鏡の中の幼い自分の顔を見つめながら、はっ!と今の状況について閃いた。





 もしかしてこれって────夢なのでは?と。





 ほら、実は死んでなくて命だけは助かったけれど意識不明で植物人間的なアレになっているとか?私が哀れすぎて脳が幸せな時間を提供してくれているのかもしれないわ。


 まぁ、本当に死んでいる可能性もあるけれどね。それなら尚更だ。肋骨が折れたっぽいからその骨が肺に刺さっていればやっぱり死んでいる気がする。でもその方がいいかなー。別に婚約者の事を好きだったわけじゃないし未練はない。なにより浮気する男って嫌いなのよね。鳥肌立ちそう。


 そう言えば、死ぬ瞬間には走馬灯を見るってよく聞くもの。つまりこれは走馬灯……やっぱり夢の世界なのよ!だから子供の姿なんだわ!


「部屋の様子を見る限り……10歳くらいかしら?」


 私は伯爵令嬢なのだが、確か10歳の誕生日後から結構大変な目に遭うのだ。不幸の連鎖でそれはそれは酷い事になるのである。


 まず……大好きな侍女がとある事故のせいで片足を失い田舎に帰ってしまうのだが、その事故を起こしたのが裏切り者の婚約者であるこの国の第二王子だ。街中で暴走した馬が私に襲い掛かり侍女が庇ってくれたのだが、足を切断しなければいけないほどの大事故になってしまった。その馬が第二王子の愛馬だったのである。


 なんで街中で馬を野放しにするのか。馬に跨って街中を闊歩したかったらしいが、馬が人の多さに驚いて逃げてしまったって……アホか!?アホなのか!?と、あの時は心の中で真剣に突っ込んだっけ。


「仕方が無いから、キズモノにした責任を取って婚約者にしてやる」


 事故の翌日。謝罪に来たのかと思ったら、上から目線でそう言われた時は卒倒しそうだった。私は侍女のおかげで無傷なんで、まずは侍女に謝ってもらえますぅ?!


 ちなみに巷では、私が王子の馬の前に飛び出して不運にも蹴られてしまい人に見せられないような傷を負ったことになっていた。噂って怖い。そして心優しい第二王子が責任を取ってキズモノの私を婚約者にすると発表したと……。ついでに「大した怪我でもないくせに、第二王子を脅して婚約者になったとんでもない伯爵令嬢」とも言われてました☆まぁ、確かに私は無傷だけどね!


 いやいやいやいや、婚約者なんか望んでないし!というか、早く謝れや!私の大切な侍女をとんでもない目に遭わせやがって!


 しかし、たかが伯爵令嬢の訴えなど誰もマトモに聞いてはくれない。両親も婚約を断わりたいとは思ったらしいが、伯爵家が王家からの打診を断れるわけもなく……私は新たな誕生日を迎える前に第二王子の婚約者となってしまった。この時点でかなり詰んだと今ならわかる。


 余談だが、第二王子は未だに私の侍女に謝っていない。なんなら悪態をついている。その口を今すぐ縫ってやろうか。


 片足を失ってしまった侍女は、泣きながら田舎に帰って行った。伯爵家とはいえそんなに裕福でもなかった我が家が新しい人材探しに四苦八苦していると第二王子がドヤ顔で新しい侍女を派遣してくれたのだが……これまた嫌な奴!!顔はいいけど性格がね!


 伯爵令嬢のくせに第二王子の婚約者になるなど身の程知らず……と毎日のように私を馬鹿にして嫌がらせ三昧だ。どこかの男爵令嬢だったようだが、今から思えば第二王子の愛人だったと思われたわ。


 だって、第二王子の顔の好みがどうとか夜の「うふん」な癖はどうとかセクハラまがいの発言が多かったもの。婚約者になったとはいえ手すら握った事もない(握りたいとも思わないが)のに第二王子の性癖なんか知らんがな。こちとらまだ子供なんですけど?!と言うか、第二王子だってまだ13歳なのに……あ、あの男爵令嬢って確か周りから行き遅れとか言われていたから第二王子は年増が好きだったのかしら?!いや、私が死んだ時に肩を抱いていた令嬢は若かったし……きっとストライクゾーンが広かったのね。


 それでもなんとか過ごしていたら、伯爵家の携わっていた事業が大損害を起こしてしまいその責任を取るために借金のせいで没落寸前の危機に陥ってしまった。それでも使用人達とも協力してなんとか持ち直した矢先に……両親が病死してしまったのだ。


 色々とショックで弱っていた時に流行り病にかかってしまいしばらく寝込んでいたのだが、両親の命の燈火が消えた途端に治療薬が発見された。もう少し早くわかっていれば!と薬の作り方を調べはしたが……その時まだ12歳だった私は、それ以上はどうすればいいかわからずにいた。


 それから顔も知らない親戚が後継人になると名乗り出たんだったわ。父親の従兄弟の再従兄弟の義理の弟って、どうなの?顔も名前も知らない他人なんだけど!と疑問には思ったが、第二王子が派遣してくれた役人が手続きを進めたからか細かい事はわからなかったし教えてもくれなかった。ただ、その時は悲しくてひたすら泣いていたから追求する事すらできなかったのだ……。


 孤独になった私は心が空っぽになり第二王子に言われるがまま過ごしていた。なぜか第二王子に嫌われたら生きていけない……そんな気持ちになっていたのだ。もしや洗脳ってやつ?まぁ、だからこそ必死で第二王子が好きだと言った髪型……縦ドリルヘアーも嫌味な侍女のニヤニヤした嫌な笑みを鏡越しに見ながら必死に作っていたのに、最後に「髪型も性格もまるで物語の悪役令嬢みたいな女」「時代遅れのドリルヘアーだな。まさかあんな冗談を本気にしたとはとんだ道化だな」と笑われてしまった事はしっかり覚えているがな。


 そして、私の誕生日を盛大に祝うからと用意されたあの場で私は身に覚えのない罪で断罪されたのだ。第二王子に肩を抱かれたなんとかって言う子爵令嬢がニヤリと顔を歪めたけれど第二王子は私が醜い心を持っていると言って剣をちらつかせて追い詰めてきた。そして……逃げた先の階段はやたら足元がつるつると滑っていて────。






「────油でも、塗っていたのかしらね?」





 あからさまに私のことを嫌っていた第二王子に裏切られても今更心が痛むことは無いけれど、落ちる瞬間にニヤついた顔で「あの時の侍女の事故もお前の家の仕事の事も両親の病死も、俺が裏で糸を操っていたんだ。馬鹿なお前は気付かなかっただろう?キズモノのお前などを俺が本気で婚約者に望むとでも思ったのか!お前の価値はお前がいなくなった後に出てくるんだからな」と言われた時は殺意が湧いた。なんの恨みがあってそんなことを!……と。もしかしたら、その時の悔しい気持ちがこんな夢を見せているのかもしれないと思ったのだ。




「そっか……これが夢なら、何をしてもいいってことよね?だって私の夢だもの!」




 私は悲しい思い出のせいでじわりと滲む涙を袖で拭い、拳を作った。


 だってこれは、死ぬ瞬間に走馬灯で人生をやり直せる大チャンスなのだ。最後に素敵な思い出を作ってから死ねるなんて神様も粋なことをしてくれるものである。


 そう、きっと私は……この夢の世界をハッピーエンドにしてから死ぬために夢をみているのだ!




 それからの私の行動は決まっていた。


 まず、第二王子の愛馬が暴走する日はお出掛けの予定をやめて屋敷に徹底して引き籠もりすることにした。もちろん侍女にもしがみついて離さない。侍女には「お嬢様ってば、もう10歳になられたっていうのにまだまだ甘えん坊ですね」と笑われてしまったが全然平気だ。だって、あの事故からずっと暗い顔をしていた侍女が今は朗らかに笑っているのだから。


 それから数日は念の為に外出は控えていた。つまり私と侍女は事故に遭っていないのだ。しばらくしてから第二王子が自分の愛馬に蹴られて怪我をしたらしいが軽傷で済んだとか、その時に手当てをしてくれたどこかの令嬢と恋仲になって婚約したらしいと噂で聞いた。第二とはいえ、王子の婚約者をそんな簡単に決めていいのだろうか?と思わなくもなかったが。


 まぁ、私には関係のないことだ。だってここは私の夢だもの!私に関わってこないなら王子が誰とどうなろうとなんでもオッケーである。


 さらに伯爵家の携わる事業の失敗も先に解決しておくことにした。失敗の原因がわかっていれば阻止をするのは簡単だ。あの時は借金のせいもあるのだが従業員や使用人達にもかなりのダメージを負わせてしまったのだが、せめて私の夢の世界ではそんなダメージなんて感じさせたくなかったのだ。


 私がちょっとアドバイスして注意を促したらすぐにそれに気付いてくれて解決してくれたのはなんと老執事なのだ。もう感謝しかない。なぜ私がそんな事を言ってくるのかと多少眉を顰められたが、色々と下調べした結果を見て私の意見が正しいと認められたようだった。


 やっぱり夢とはいえ私が目立つのは避けたいので老執事には私がアドバイスした事は絶対に内緒だと指切りをしておくのも忘れない。なぜか泣いて感激されたけど……歳を取ると涙腺が脆くなるらしい。


 とりあえず私は目立ってチヤホヤされたいのではないのだ。ただ、穏やかで平和な夢を見たいだけなのである。これは私のワガママでもあるのだから老執事が喜ぶなら指切りくらいいくらでもするけどね!


 ついでに流行り病の治療薬についてもこっそりと広めておく事にした。あんなどこにでもある“アレ”がまさか治療薬の貴重な材料になるなんて誰も考えていなかったから、さらにその材料を先に買い占めて治療薬を作って置いてくれるようにも頼んでおいたのだ。事業が失敗しなかったおかげでその辺のツテが広まったみたいだった。それも全ては老執事の手腕によるものだろう。やっぱりめっちゃ頼りになる!嬉しくて抱きついたら、さらに感激されてしまった……どしたん?


 あぁ、でも……この夢の世界になる前は厳しいし見た目が怖いとか、第二王子以外には頼っちゃいけないとか変な感覚に捕らわれていたけれど……厳しかったのは私のためなのだと、あのヒゲは全然怖くなんかないとか……今なら全部わかるのに。実は頼りがいのある優しい老執事だと今更わかるなんて、なんてもったいないことをしていたんだろうと思った。


 そのおかげで両親はもちろん、街の人達もこの流行り病で死ぬ事はなかった。ちょっとした習慣の変化の効果とすでにある治療薬のある安心感……それだけで世界はすっかり変わったのである。さすが私の夢!夢ってご都合主義だものね!


 流行り病の治療薬に必要だってわかってからだときっと価値が上がって高くなるからと、安い間に集めておいたからこそ低価格で平民にも配ることが出来たのだ。王家の人間が悔しそうにしながら我が伯爵家を表彰してくれたのにはちょっと笑ってしまった。影では「手柄を独り占めにした」とか「貴族ならまず王家に差し出すべき」とか言われているようだが気にするだけ馬鹿馬鹿しいというものだ。だって王家に薬の存在を教えたら絶対に価格が高騰するに決まってるもの。王家が腹黒いのは知っている。私の夢でくらい阻止してみせるわ!


 そういえば、なぜか第二王子も顔を歪めて私を睨んでいたが……この世界では私と関係ないはずなのになんで?と首を傾げた。


 まぁいいか、だってこれは夢だもの。どうせ夢なら、街だって平和でなくちゃね!


 だがその後、意味が全くわからないのだが我が家は伯爵家から侯爵家に格上げされてしまった。なんで?


 なんでも世界を救う治療薬を真っ先に作り、ほとんど無償で配ったおかげで流行り病が他の国よりも格段に早く終焉を迎えた功績がどうのこうの……だったっけ?いや、そんな悔しそうな顔するなら功績なんて無視すればいいのに、なんて迷惑な!


 えっ、他の国ではかなりの死者が出ていたのか。だから注目されちゃったのね。


 私の夢だとは言え、なんだか心が痛んでしまった。てっきり夢だからこの国だけの事だと思っていたのだ。夢も広いのね……と思いながら他国にも格安で治療薬を売ることを両親にお願いしておいた。もちろん両親は反対なんかしない。それどころか私を褒めてくれたけど……私にとっては両親が生きている事がご褒美なのだ。


 私の夢がどこまで広がっているのかはわからないが、出来れば全ての世界が平和であって欲しいと思った。


 ……ん?そういえば最近、なんだか周りの雰囲気が今までと違う気がする。


 まさか侯爵家……に本当になったってことなの?冗談抜きで?やっぱり夢は突拍子もない展開になるのだなと妙に納得してしまった。だって現実では絶対になさそうだもの。爵位なんて、そんな簡単には変わらないものなんだから。


 ついでに言えば、さらに突拍子がなくなった。


 なぜか私が第二王子の婚約者候補になってしまったのだ。


 いや、ほんとになんで?!私の夢なんだからやめて欲しいんだけど!?


 以前に噂のあった令嬢とはただの口約束で本当に婚約したわけではなかったらしいのだが……いや、たかが口約束でその女の子の将来をめちゃくちゃにしてないか?!


 と言うか、私の実家が侯爵家になった事と治療薬の発見に貢献したからご褒美的なアレで婚約者候補になったとかなんとか……それ、ご褒美どころか迷惑でしかないですからぁ!!!あのワガママ王家ならあり得そうな展開だけど、夢の中でまではやめて欲しいんだけど!


 そのせいであっちこっちの令嬢達から嫌がらせの嵐が始まってしまった。その中には例の年増男爵令嬢(派遣侍女ではなかったけれど)もいて、これじゃ現実世界と同じじゃないかと頭を悩ませていた。


 そんな時、私は偶然にもひとりの騎士と出会ってしまった。


 元は王家の騎士見習いだったそうだが、第二王子の恋人(何人もいるうちのひとり)がこの騎士に一目惚れしたとかなんとかで追いかけ回された挙げ句に嫉妬して激怒した第二王子からクビにされてしまったのだとか。「困ったな……」と呟く彼を放ってはおけなかったのだ。なんでも、どうしても王宮に出入りしたい理由があるのだとか。


 その理由については教えてもらえなかったが……私は第二王子の被害者同士として親近感を覚え、この騎士を私の専属護衛騎士として雇うことにしたのだ。直感過ぎると言われても仕方が無いが、どうせ夢だしいいじゃないか!なぜかそうしなきゃいけない気がしたのだ。


 なんなら最初は拒まれたけど、それはもう必死に説得した。王宮に行きたいのなら、婚約者候補の私についてくれば王宮にも出入り出来るんじゃないかとちらつかせれば渋々納得してくれた時は嬉しくて仕方がなかった。


 訳ありだとは思っていたが、現実にはいなかったこの夢の世界の住人であろうその騎士に妙に親近感と言うか安心感を覚え……私はその騎士の事がいつの間にか好ましく思えていた。


 彼は第二王子の婚約者となることを断り続けているのに令嬢たちからの嫌がらせが続き辟易として私を影日向と支えてくれて、ささいな事からも全部守ってくれるような優秀な騎士だった。時には私を庇って怪我までしたのに笑顔で守ってくれるなんて……え、好きぃ!


 と言うか、実は見た目も性格も私の好みドンピシャだし!黒い髪と瞳に褐色の肌、少し筋肉質ながらも幼さを残す顔立ちなんてまるで物語の主人公のようだ。あんな生っ白い第二王子なんて足元にも及ばない格好良さなのだ!そんな私のドストライクな見た目の素敵な殿方が私を身を挺して守ってくれるなんて惚れないわけがない。やっぱり好きぃ!!



 夢の世界とはいえ、今更初恋とか……恥ずかし過ぎる!でも、夢だからこそアタックあるのみよね?!だってこれは私の夢……走馬灯の世界だもの。好き勝手しても問題無しでしょ!




 それから、なんやかんやあって私は第二王子の婚約者にはならずにすんだ。


 なんと私の専属護衛騎士が、第二王子のあれやこれやの悪事を暴いて王家に訴えてくれたのだが……。え、もう、ほんとに好きぃ!


 この事をバラされたくなければ私との婚約を諦めろと……。かなり渋ったらしいけれどなんとか説得出来たとかなんとか……と、護衛騎士は笑っていた。


 え、それって脅迫では?────いやまぁ、夢だからいいのか。うん、いいのだ。



 こうして私は無事に王家との関わりを断つことが出来た。そう言えば現実の第二王子はなんであんなに私にこだわっていたのかしら?わざわざ私を陥れるような事までして何を得ようとしていたのか……。謎は残るけれど、ここは私の夢の世界。


 この幸せのまま夢が終われば、私は幸せの記憶を持って死ねるのだからそれでいいか……。あぁ、

 どうせなら最後に護衛騎士に告白だけでもしておこうかしら?少し恥ずかしいけれど、夢とは言え未練は残さないようにしないとね!



 そして私は護衛騎士に気持ちを伝えた。考える時間が欲しいと言われ、それでも頬を染める護衛騎士の反応に大満足だった私は夢の終わりを覚悟して眠りについたのだが────。









 夢の世界は終わらなかった。




 その後、実はお母様が行方不明となっていた隣国の王女だったと判明したのだ。お父様とはお互い一目惚れして結婚を反対されたから駆け落ちしていたのだとか。いや、初耳です。


 と言うか、第二王子がなぜかそれを知っていて、私を陥れれば隣国の弱みを握れると思っていたらしいと白状したらしい。それに、私の婚約者の立場でいれば私が死んでも王配になれるはずだとかなんとか高笑いしていたらしいと後に聞いたがやっぱりアホだったのかもしれない。


 第二王子と婚約の噂があったどこかのなんとかっていう令嬢が「あたしはヒロインなのよ!こんなエンド知らない……!」とか「悪役令嬢は髪型から全然違うしどうなってるの?!」とか「こんなの設定と違う!せっかく修正しようと色々教えてあげたのに台無しにして……あんたのせいよ!あたしの逆ハーレムルートどうしてくれるのよ……!?」とか叫んで第二王子に襲いかかって牢屋にいれられたと聞いた。たぶん、現実のあの時の令嬢だと思うけれど……王子の悪行三昧のショックでおかしくなってしまったのだろうか。私の夢だからか妙にリアルだなと思った。


 それからあっという間に両親が隣国と和解して私が隣国の正式な王女として認められてしまい、王族になってしまった。いくら夢とは言え、なんで?


 しかも告白した護衛騎士が実はその隣国の王家の養子になる予定だった遠い血筋の貴族令息で、お母様の行方を探すためにとの名目でこの国の動向を探る為に見習い騎士としてもぐり込んでいたらしい。(実はこれまでも何度かスパイ的な人物は送りこんでいたらしいが、お母様の情報を手に入れられなかったので養子にはしなかったらしい。いや、養子候補にスパイさせちゃダメでしょ?!)


「正式に養子にする代わりに、行方不明の王女が生きているか……そして幸せに暮らしているかどうか必ず調べてこいと無茶苦茶な事を言われて、とりあえず王家に近付こうとしたらあんな目に遭いまして……。ですから、お嬢様の正体がわかった時にとても悩んだんです」


 そう言って護衛騎士……エリックは私の頬に唇を落とした。


「養子になるのはお断りしておきます。義理の親戚になるより……あなたの恋人になりたいので」


 そう言って、まさか私に愛を誓ってくれたなんて……。


 それからの私に待っていたのは死ではなく……エリックとの結婚や、エリックに溺愛される生活にさらには可愛い子供まで恵まれてしまった。いつまで経っても幸せが溢れかえっている。幸せ過ぎてくらくらして……これこそ夢のようだ。


 そんな夢みたいな日々をずっと過ごしているけれど、私の“夢”が覚めることは今のところないようである。






 終わり

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