エピローグ
──エルキア王城、謁見の間。
一つしかない玉座に二人で座って、DSPでゲームする二人がいた。
黒髪の女性用の
白い肌と長い髪、男性用の王冠で髪をまとめた、赤い
何を隠そう──この国の王──空と、女王──
「だーからさぁ、裸縛りでやってんのに
「……効率、優先」
「効率なら裸縛りでやる意味ねーじゃん、ガチンコでやろうぜガチンコ!」
「……時間、かかるだけ、おもしろく、ない」
「ソレを言ったら終わりだろ……じゃあ別のゲームしようぜ?」
この世界に持ち込んだ大量のゲーム。
だがそれは
つまるところ退屈しのぎにもなるか怪しいわけだが。
そうして退屈しのぎをするには、理由があった。それは──
「き、着替えましたわ……」
聞こえてきた声に、二人共迷わずDSPをスリープにし、ケータイを取り出す。
現れたのは、気品を感じる顔立ち、赤い髪の美少女──ただし。
過剰ではない程度に──あざとすぎない程度に露出の多いメイド服を身に
ステファニー・ドーラ……先王の血筋にあり、元王族で──今は……。
顔を真っ赤にして現れたステフに、しかし
「ん? 顔を赤くするほどの露出か?」
「……下着、はかせて、ない……」
「わ、わざわざ言わないでくれますっ!?」
そう叫ぶステフ。
──そう。今二人の王は、十八禁の境目を模索しており。
『そのほうが、にぃ、喜ぶ』の一言で、
さながら愛の奴隷──いや、もはや二人のただのオモチャだろうと。
自虐気味に天井を仰いでいた。
「ああ、二次元画像である、明らかにはいてない演出か」
「……ん……でも、物足りない、ね」
「ですね監督。二次元みたいにストップモーションとは行かないですしそう都合よくは」
「……はだけさせ、る?」
「んー、ステフ。乳首とか具とか見えないように、適度にはだけられる?」
「具とか言うなああああああああああああっ!」
「……で、ポロリ」
「ノー。はいてないでそれはアウトです監督」
「……だい、じょーぶ……こんなことも、あろうかと──
「ぬ………ぬぅ……? い、いや……え? アウト、だと思うぞ?」
「……じゃ、面積の小さい、水着も……アウト?」
「──た、たしかに。ですが監督、それでは全裸でも絆創膏
「……む……全年齢、難しい」
──と、玉座に背中を預けて、
「しっかし思ったんだけど、いくらギリギリな格好させて動画とっても、実際ヌけないんじゃむしろ
だが耳ざとくそれを聞きとめた
「……しろ……気にしない、どうぞ」
「兄ちゃんな? 露出趣味はないんだわ」
「……見ない、から……大丈夫……家でも、そうしてた」
「ん? いや、待て待て、おまえが寝てるタイミングを見てしてたぞ?」
「……ゴソゴソしてれば……起きる」
「おっま──いつも起きてたのかッ!?」
顔を覆って真っ赤になる空。
「やだ──ッ アタシもうお嫁にいけない──ッ!」
「……しろが
その肩をぽんぽんと
「そ・れ・で──」
「嫁に行けないなら、こんな格好させられる
一方で肩を震わせてステフが叫び、そして続けてキレ気味に言う。
「というか、私一人に
「……しろ達、王様……王様…いい身分」
もっともな事を言う白に、さらりと空が続ける。
「三日徹夜なら
「そっちはゲームで、でしょう!?」
「そ、ゲーム。この世界の、王様の仕事」
「ぐっ……」
そう──ゲームで
ゲームに強いことは王の条件であり、それは鍛錬と呼ばれてもいいものだった。
「やー。ゲームしてるだけで仕事務まるとか、天国だよなここは」
「務まらないですわよ! ちゃんと内政もしなさいなっ!」
「ん……引継ぎ済ませたのか?」
「ええ、たったさっき、呼び出される前にっ!」
「それを待ってたんだよ。シヴィでも内政は一気にやりたいタイプなんでな」
言って
「じゃ──各大臣を呼んでくれる?」
■■■
大議堂に集められた各大臣を前に。
空と白が壇上に上がり──。
だがあらゆる報告を遮って、まず言う。
「最初に言っておくことがある」
全員の顔を見回して、空が──人類の王が、改めて言い含める。
「皆も知っての通り、今
広げた手を頭上に
注目する大臣たちに、高らかに言い放つ。
「
盟約に記された『絶対遵守』のルールを、八百長として逆手にとる。
──
「では皆、我々の双肩に人類の命運がかかっていることを肝に銘じ、ジャンケンを行おう──
──と、
「【
『──【
響く契約の言葉に、ジャンケンは行われ。
かくして──契約は交わされる。
「……ではまず農産大臣──報告を」
「は──我が国の食料は現在、極めて深刻な状況にあります」
農業形態、その管理法、税金などの分配の説明を受け。
「把握した……では今から伝えることを実践せよ」
「……は」
「農産に関しては──輪栽式農業を導入する」
「──と、言いますと?」
「
スラスラと、当たり前のことのように。
その場の
さらに──。
「なお、その
と、結果生じるであろう問題まで指摘する。
「よ、予算はどうしましょう」
「銀行に対して国債を発行して買わせる──が、その件については経済大臣に任せろ」
「──ぎょ、御意に」
「次、この政策による失業をカバーする必要がある。経済大臣、工業大臣、報告を──」
─────………。
そうして。
あらゆる問題を抜本改革する方法を、矢継ぎ早に提案していく王に。
たった四時間の会議が終わる
大臣達をして『人類史最高の賢王』と
……手元のタブレットPCを
「やー、クイズゲームの勉強用にバカみたいに専門書入れといて正解だったな」
タブPCの中には──四万冊を超える専門書が入っていた。
数学・化学・天文学・物理学・工学に医学、歴史書から戦術書。
某ウィキ先生の全データを抽出・保存したものまで──
「……にぃ、やっぱり、ズル……それ、チート」
いつもの半眼でそう指摘する
「魔法なんつー、公式チートがある世界で、多少異世界の技術を伝来させた程度でチーター呼ばわりはやめてくれません? それに内政の安定は急務だろ」
……とはいえ、あまり
正直『電気工学』は早いとこ伝来させたいところではあるのだが……。
「カメラやマイクが作れるだけで、いくらか魔法に対抗できるだろうしなぁ」
アンテナの立たないケータイ二つだけという現状はなんとも
やはりここは
──と、大議堂にはだけたメイド服のまましずしず現れるステフ。
つまり──白と空がさせて、放置したその格好のまま。
「………ソラ──じゃない。へ、陛下……お客様ですわ」
「───おまえ、そのカッコで接客したのか。勇者だな」
「……ステフ、すごい」
「着替えていいならいいって言いなさいなぁあっ! ウワァァァンっ!」
泣いて絶叫するステフの声に耳を
「あーはいはいごめん、じゃあ早く服を正せ。ったく、国の品性が問われるわ」
「問われるのはあなたの頭の中身ですわよ!」
が、ステフの案内を待つことなく、大議堂に声が響く。
「あはははは、中々楽しいことになってるみたいだね」
空と白、ステフ、そして大臣達が居揃った大議堂に。
コツ、コツ、と──歩いて、入ってくる少年。
その顔に、空と白は見覚えがあった。
あの時──パソコンから手を伸ばして──二人を、この世界に連れ込んだ──
「……よお、自称神様じゃん。どったの?」
「やだなぁ。自称じゃなくて、紛れも無く神様なんだけど」
たはは、と頭をかいて、少年が言う。
「そういや名乗ってなかったかな──」
「──『テト』……それが僕の名前。
よろしく『
ぞぅッ─────と。
神の御名が持つ影響力なのか。
大臣達は血の気が引いた顔で、ステフは今にもくずおれそうに体を震わせていた。
だが、そんな一同を気に留める様子もなく。
「どうかな、僕の世界。気に入ってくれたかな?」
「ああ、いいセンスしてるよ。うちの
「……こくこく」
そう、軽口を
その場の全員が心臓を握りつぶされるような気分を味わう。
──眼の前にいるのは唯一神──『テト』なのだ。
気まぐれ一つで世界を消し、作りなおす権限さえ持っているモノなのだ。
だが、当の
「それは何より。さて……とりあえず
「ああ、お望みどおりにな」
皆が、え? という顔をする。
「たまたま一番近くにあった街が、たまたま人類の最後の国で、たまたま国王決定戦を行ってた……なんて。まさか偶然なんて
そう不敵に言う空に、神は気分よく笑って言う。
「あはは……でも勘違いしないで。僕も基本傍観主義だよ、特定の種族に肩入れはしない──ただまあ、今回はちょっと、私情が入ったことは認めてもいいかな」
少年──
ふてくされたように、退屈そうに床を
「僕の言葉覚えてるかなぁ……〝全てがゲームで決まる世界〟──って」
──ああ、と。その言葉の意図を
「……なるほど。唯一神の座さえ、ゲームで決まるってことか」
「──なっ──」
──と、感心した様子の
そして唯一、テトは楽しそうに笑って、言う。
「正解♪ わざわざ【
ふと────
チェスの片側の持ちゴマは──十六個。つまり。
「……全種族を制覇するのが、おまえ──つまり『神への挑戦権』か」
機嫌よく笑って、テトが答える。
「いいねーその頭の回転。異世界から来たばかりとは思えない順応性だよ」
「そりゃどーも♪」
「その通り。でもせっかく『神の座を
楽しそうに、興味深そうに、空と白を見やって、神は言う。
「あらゆるゲームで必ず頂点をとる、都市伝説化すらしていたゲーマーの噂を、ね」
そう笑って言う神様に、空が不敵に言う。
「なあ神様さ、笑ってていいの?」
「うん?」
「
「うん、もちろん」
そして、不敵に笑い返して、神様は言う。
「だからこそ。君達はきっと──僕への挑戦権を獲得しに来る、と踏んだ」
その場の全員が凍りつく。
それは──世界最大の国──序列第七位の
序列第一位の、
それはもはや、世界征服などというレベルで収めて良い話ではなく───
「……なぁ、もう一度聞くぞ神様。笑ってていいの?」
「おまえ、一度俺らに負けてんの忘れてね?」
──そして今度こそ、その場の全員が耳を疑った。
───神が、負けた?
────ここにいる、ただの人間に?
だがテトは軽く笑い返す。
「ふふ、既に十分理解してるだろうけど、この世界における〝ゲーム〟は、君達の世界でのネットチェスと次元が違うよ? 確かに僕は、君等兄妹に『普通のチェス』では負けた──だからこそ、ここに呼んだ。だけど……次は負けないよ?」
と、
お互いに顔を見合って、笑った。
「──神様さ」
だが神様──親しげに答える。
「テトでいいよ。なぁに?」
「じゃあテトさ──おまえ、負けたことなかっただろ」
その一言に。
不敵に笑みを細めるテト。
「遊戯の神が──はじめて負けた。それが悔しくて、悔しくてたまらなくて。それで
「ふふ……面白いね。どうしてそう思う?」
表面上は笑みを崩さず、テトが問う。
「その気持ち、俺らにはよーくわかるからだよ。『
「……でも、勝ち逃げは、許さない」
「その結果、生粋の天才である妹はゲームそのものに特化」
「……にぃは、汚い手ばかり……うまく、なった」
「おい、汚い手って言うなよ。駆け引きだってゲームだろ」
「……イカサマは、
「バレなきゃいいんだよ! こっちの世界でもそうなってるだろ!?」
その兄妹のやり取りに。
気持よく大笑いするテトに、兄妹以外の全員が身をすくませる。
「あっははははは。うん、やっぱり君達を呼んで正解だった。そう勝ち逃げはさせない。次は僕が勝つ──君達を呼んだのは、そんな理由だよ。がっかりさせたかな?」
「いいや? むしろ人類を救え、とかご高尚な理由じゃなくて安心したくらいだ。それで、今日はそんなことを言いにわざわざご降臨されたのか、暇な神様は」
「いいや、礼を言おうと来たんだよ」
「君達が──
と──ご丁寧に情報提供してくれるテトに、
「特定の種族に肩入れしない、じゃなかったのか?」
「うん、だから、コレはお礼だよ。退屈だったこの世界に、熱を取り戻してくれたお礼に情報提供をする。コレが最初で最後だから、有意義に生かしてね」
そう笑って、振り返ること無く一歩、後ろに下がるテト。
「それじゃ、僕がいつまでもここにいると、皆、気が休まらないみたいだから、そろそろお
そういって立ち去ろうとする神様に、空と
「おいテト」
「うん?」
「生まれ直させてくれて感謝するぜ。確かに──ここが
「……ありがとう、かみさま」
そして、今度は三人、声を
「「「……また、近いうちに。──今度は、チェス盤で」」」
──そして、空気に溶けこむように、テトは消える。
ようやく呼吸を許された、とでも言うように一気に空気を吐き出す一同。
──こんな噂をきいたことがあるだろうか。
「ふぅ……おもしれー神様だこと」
「……また、ゲーム……したい」
──あらゆるゲームランキングに不倒の記録を打ち立て一位を総ナメにしたゲーマー。
──そのゲーマーは、ある日を境に、こつ然と姿を消し。
──加速した『都市伝説』は──やがて『神話』となった。
「あ、あ、あの方が──ゆ、ゆ、唯一神様、ですの!?」
「お、王よ! か、神を下されたというのはまことですか!」
「いや、それより東部連合が動き出すのはマズイ、今の我々には──」
「それよりエルヴン・ガルドだろう! 王と女王個人を狙われたら──」
──さて、その世界では途絶えて神話となったおはなし……。
──『ディスボード』と呼ばれる世界へと舞台を移した、その続きを。
「あーあーうるせぇぇ! 一斉に
「……にぃ」
「ああ、わかってるよ──」
居並ぶ全員に対して。
超然と壇上に上がり。
中央のテーブルに
──さしあたり、定型文であり。
──また様式美でもある、こんな書き出しではじめてみるとしよう。
──『昔々──』と。
「さぁ──ゲームをはじめよう。目標は、打倒神様ってとこで♪」
──さて、最も新しき神話を今、語るとしよう。
【完】
ノーゲーム・ノーライフ @YuuKamiya
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