1-16.調査は続く
次の日になった。今日はいくつか試したいことがある。
重要なのは中途半端だった指輪の能力確認だ。どういったことが出来るか、実感を持つために経験しておかなくてはならない。弱い俺にとって、修練もなく使える力は本当にありがたい。
それと同様に重要なのがフィエに寄って来そうな奴らを知ることだ。昨晩フィエに、街の情勢が気になるからそういう事情をよく知っている人と話したいと言った。ララさんが詳しいから聞いてくるといいと言われた。
『俺が自分の意志で勝手に』追い払う奴ら。それをフィエから直接聞き出すというのは無しだ。それじゃフィエにお伺いを立てて動いているみたいだ。『わたしの都合で動く人になんてならないで』とフィエは言っていた。ならば第三者から事情を聞いてそのリストを作った方がいい。そういう場所に連れてくるのもできないので今日は珍しくフィエとは別行動となった。
最近のフィエは俺から離れることはないからちょうど良い機会だった。ララさんの家に行った帰りにでもこっそり、能力の性能確認をすることが出来る。フィエには正直でいたいが、こんな訳の分からない力を軽率に見せていいのか未だによく分かっていない。少なくとも俺が実際に確認してからだ。
「こんにちは。お話したいことがあるんですが、今日お時間大丈夫でしょうか」
自宅に直撃アポイントとか、ノーマナーで好きじゃないが他に方法がない。
「いいよ、何だい話って? フィエとのノロケ話?」
家の前で何やら家事をしていたララさんはこちらに向き直って言った。
「それもありますね」
恋人に寄ってくるハエのリスト作成だから、ノロケ話から入った方が上手く導入できるかもしれない。唐突に本題に入っても相手は面食らうかもしれないのだ。
「おー、ノロケかよ。……いいよ、聞いてやんよ。茶を出すから中にどうぞ」
そういえばララさんは若い女性だし独り暮らしだ。今になって気付いたが、正直これはどうなんだろう。二人きりでの話か。フィエに浮気判定されたりは……大丈夫か。フィエとは仲のいい近所のお姉さんみたいだし、フィエ当人が話をするよう勧めてくれたんから。
ララさんの家に入る。村長の家よりはだいぶ小さなダイニングに案内され、お茶とお茶請けを出して貰った。
「どーなのコバタくん、フィエとはもう最後までいってるの」
ララさんは茶の香りを楽しみながらいきなり聞いてくる。
「それはまぁ、雰囲気で察して貰いたいですね」
こんなこと言う時点でバレバレだが、あまり露骨な言い方はしたくない。フィエにとってのプライバシーでもあるんだし軽々しく話せない。
「ほー、私のアドバイスが的確だったからかね」
「…………?!」
あ、フィエとララさんってそういう話するんだ。……フィエにとってララさんは経験多そうなお姉さんということか。結構親しいみたいだし、そりゃそうか。
「えっと、ちなみにララさんはどんなアドバイスを?」
最初の目的からズレるが、フィエがあんなに積極的だった理由がララさんにあるのかもと知れば、気になってしょうがない。
「どこまでいったか、ハッキリ言え。でなければ帰ることだな、ハハハ」
ララさんはテコでも動かないだろう。不敵な笑みを浮かべてこちらの回答を待っている。ちょっと躊躇ったが、フィエがあのケープの着方をしている時点でどうせバレバレなんだ、答えよう。
「最後までです。……これ言ったのフィエに内緒にしてくださいね」
「おぉーぅ。やるねぇ。具合どうだったよ」
クッソ露骨な下ネタは俺、苦手。そんなん言えるか。スルーだスルー。
「まずはララさんがしたアドバイスの話聞きたいですねー」
「んー? ……村長の孫娘にあんま変なこと教えるわけにもいかんからさ、不自然でない程度にボディタッチして反応見ろとか、アピールをちゃんとしろとかそんくらいだよ」
「……え、それだけ?」
いきなりの温泉デートとか、ベッドの上での積極的な行動はララさんの仕込みではなかったのか。……え、あれってフィエの独断なの?
「なになに? もっと色々テクニック的なことも教えてた方が良かった?」
ララさんの雰囲気からして、本当にかなり初歩のアドバイスしかしていないようだ。そんなのアドバイスと言えるのか。
「え、なになに。キミはどんなことして貰ったわけ?
……すっごく顔赤くなってるけど、どんなことしたのあの娘?」
「そんなことより魔法の話をしましょう、サメの話でもいいですよ」
「教えてよー、広めないからさー」
教えない、こればっかりは教えるわけにはいかない。もう面倒くさいから本題に入っちまえ。
「そう言えば、フィエってなんかいろいろアプローチ受けてるみたいですね。
フィエの恋人として重要なことなので知っておきたいんですが」
あぁこれが本題か、とララさんも切り替えてくれた。この辺の察しの良さはララさんはしっかりしている人のようだ。これなら前フリの話題など出さず最初から本題でもよかったかも知れない……。
「……街の話かぁ、たしかに私に聞きに来たならそれが聞きたそうだね」
「ララさんが知ってる範囲で、しつこい奴だけでも教えてくれませんか」
「知ってる範囲と言っても、私も街から離れて長いからね。昔話しかできないよ。活きた情報じゃなく思い出話でしかない。細かな最近の事情までは分からない。
……フィエ本人に詳細まで聞いてないところを見ると、やっぱあの娘としても話し辛い内容だったからかな? まぁ楽しいモテ方じゃないからねぇ。
しつこく催促を受けてるのは、いわゆる政略結婚だからねぇ」
ララさんの昔話にも興味はあるが、どれだけ時間がかかるか分からない以上、優先順位は低い。今日は予定はこれだけではない。
「そういう奴、かなり多いんですか」
「まー昔を含めればそこそこね。フィエが小さい頃から続いてるから。
フィエが街で劇を見て喜んだりしたら、それの劇冊子やら小道具やらを贈って機嫌を取ろうとしたり、興味を示しそうなもの送って来たりしたらしいよ。
フィエも最初は不思議がりつつも喜んだりしたらしいけど……。
フィエの風評が広まって、利用できると思った奴が増えちゃってからは良くなかったみたいだね。競争が激しくなるとマナー悪い奴も出てきてさ、一部の勘違いした奴が『プレゼントを送ってやったのに良い返事がない』ってフィエと親御さんが街に行ったときに押しかけて来たりで」
……なんだそれ。最初はまぁ善意の行動とも言えるだろうが、後半はただの押し付けで迷惑行為だ。
「フィエは、それが怖かったんでしょうね」
「私も直接見てないんだけどね。そういう騒動があったって言うのは聞いてる。
まだ小さかったフィエには訳が分からなくてすごく怖かった、って言ってたよ」
「今はそういうのはないんですか」
「村長やらが苦言を呈してガッツリ牽制してからは、かなり減った。勘違いした奴とか木っ端みたいな奴はその時にしっかり『お断り』されたよ。
今残っている奴は、ちょーっと権力強くてお断りし辛いレベルの3人だけ。
ただねぇ……フィエは可愛い。政治とか関係なしに欲しい、諦めていない奴だっているよ。そーゆーのからはキミがちゃんと守ってやんなよ」
「そいつらは、フィエのケープの着方を見ても帰ってはくれなさそうですか」
「あれは、それで引き下がる良識を持った相手にしか通じないよ。
そもそもさぁ、ケープの色合いでの意思表示がなくたって、フィエがキミにベタベタしてるの見てれば村人ならなんとなく察するじゃない?
アレって言ってみれば村外婚ためのものなんだよね。
ほら、外からこの村を訪れた奴がパートナーがいる相手に手を出しちゃったらイザコザになるでしょ? それを防ぐための目印でしかないし。
まぁ、着方が示すのは『アプローチ可能な立場かどうか』の意味合いだから、その気ナシなら未婚や後家さんでも『実り』側の着方をする人もいる。そんで、それを気にしない強引な奴も当然いるってわけよ。略奪愛上等な奴とか自惚れ屋とか。
キミが来る前のフィエは、対外的な理由で『アプローチ可』の着方をしなくちゃならなかった。フィエ本人は全然乗り気じゃなかったけど、明白に拒絶するのも角が立つしね。元はと言えば両親が売り込んだわけだし。
村長もその辺フィエの内心を尊重してて、まだ花嫁修業が未熟でとか理由付けては先延ばしにしてた。フィエはもう年頃だからそれもそろそろ限界だったわけ。成り立てとはいえ、もう成人しちゃってるんだから。
今のフィエはキミとの愛が相互だって確認が取れたから『他は声かけて来るな』って意思表示している。フィエ本人の決意表明だね」
まぁ法的な拘束力があるとかではないのだろう。それにしても、強引にフィエを連れていきそうな奴がいるというのにムカムカする。
「フィエは街の事情は緊迫していて、求婚が激しくなりそうと聞きましたが」
「……それはちょい違うかな。政治的なところでの緊迫はいつだってしてるさ。やっぱり重要なのはフィエがもう年頃になっちゃった点の方だと思うよ。先延ばしされているのが向こうからするとナメられている感があるんだろ。
だから今までより答えを急かされている……というかフィエとしてはもう答え出しちゃってるか」
街からの催促が増加していることへの解釈はフィエとララさんで異なるようだ。どっちが正しいかは分からないが、いずれにせよ差し迫っている。
「強引な手段を取られたら返り討ちにしたいです。俺はそんなの許せない」
俺は少し語気を強めて言った。ララさんは少し目をパチクリさせたが、それを落ち着いた表情に戻して言った。
「コバタくんの決意は評価するよ。
でもね……厳しいことを言うようだけどさ、キミが強くならないと今の言葉は話にもならないし、口だけでしかない。
それにさ、恋を巡っての決闘で仮に勝てたとしても、殺したら禍根になる。怒る気持ちは分かるけどさ、それは問題を大きくするかもしれないんだよ。
一番いいのはビビらせて諦めさせることなんだけど……ただ、今でも残ってる3人がなぁ……実力者なんだわ。簡単にはビビってくれない」
決闘か……。俺としては問題を大きくするのは望まない。さすがに相手を殺してまではやるつもりはない。だが逆に俺が殺される危険がありそうだ。相手側からすれば俺は殺してもあまり問題のない人間、禍根が残りにくい存在だ。
「まぁ、そいつら実力者については対応が難しいんだけど、木っ端みたいのだったら私が追い払ってもいいさ。フィエは私にとっても可愛い友人だからね。あの娘の望まないようにはさせたくない。
私……っていうか『魔法使い』は強いよ。魔法ってのは上手に使えば、魔法が使えない奴を一方的にいたぶれる程度にはヤバいからね」
俺に預けられた『太陽の矢』の力でもそれはできるのだろうか、魔法で殺さない程度に威力調整……魔法を使った戦い方のこととかは知っておきたい。
「前にもお話しましたけど、魔法というものが俺のいた世界にはなかったので常識部分が分かりません。まずそこからお聞きしたいです」
「魔法でも学ぶ気? まぁ相手の3人が魔法使いだし知っておいて損はないか。
いいよ。一度では多分理解できないと思うし、長いけど話すよ。3人の詳細はいったん後回しだ。こっちから聞いた方が分かりやすいと思う。
そうだね。一度、私が思いつくままに話すから聞き流してみてくれ。おそらくはパッと理解できるようなものじゃない」
分かりました、と話を促すと、ララさんは長い話を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます