第4話

「バッカじゃねーか、オレ」


 オズワルドは自宅の庭の片隅で木の根元に腰を下ろし、良く晴れた午後の空を見上げ、タバコの煙を吐き出しながら独り言ちる。

 今日は散々忙しく動いたあとの休日だ。

 あの後、バタバタとことは動いてリアンは王太子と結ばれた。

 妊娠が発覚して公式行事は後回しとなったが、リアンは王太子の正妃となる。

 番ってしまったアルファとオメガの繋がりは深い。

 伯爵家では家柄が釣り合わない、とか、男オメガを未来の王妃にするには、とかいろいろと反対の声もあったが王太子が押し切った形だ。


(オメガだアルファだと理由をつけて、横からかっさらっていきやがって、あのクソ王太子)


 オズワルドに出来ることといったら、心の中で王太子を罵るくらいのものだった。

 リアンも王太子のことが好きなのであれば、オズワルドに反対できる余地などない。


 彼がどうしても嫌だというのなら攫って駆け落ちでもなんでもしたのだが、と思ったところでオズワルドは首を振った。


 彼らは出会ってしまった。

 もう引き離すことはできない。


 オズワルドには年の数だけチャンスがあったが、王太子は一晩でそれを掴んでリアンを手に入れた。

 世の中は不公平だと思う。

 せめて出世して一泡吹かせてやりたいと思っても、相手は王太子。

 奴には絶対、勝てぬのだ。


(こうなりゃ、謀反でも企てるしかないじゃないか)


 オズワルドは物騒なことを考えて一人嗤う。

 やさぐれて、くゆらすタバコの煙が目に染みる。


(オレって、随分と惨めなアルファだな……)


 自分を哀れみながら、オズワルドは煙草を口から離し、ふぅ~と煙を吐き出した。


 その時だ。


 オズワルドの鼻先を、爽やかなミントに柑橘類が混ざったような、まさに青春という香りがかすめていった。


「うきゃっ」

 

 甲高い知らない声と共に、木から何かが振ってきた。


「うわっ⁉」


 慌ててオズワルドが抱き留めれば、腕の中には、くるくる巻き毛の男の子。

 淡い茶色の髪に、金色に近い茶色の瞳、白い肌をしていて低い鼻の周りにはソバカスが散っていた。

 男の子からは、淡く爽やかな青春の香りが漂っていた。

 使用人たちが、この子を探し回っているような声が遠くから聞こえる。

 オズワルドは、腕の中に納まっている男の子から目が離せなかった。

 男の子もオレをジッと見つめている。


 この時オズワルドは、この男の子に十年もの長きにわたり待たされることになるとは、思いもしなかったのだった。


~おわり~

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可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない 天田れおぽん@初書籍発売中 @leoponpon

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