夜道とレンガ
24万円の麻
第1話
闇バイトはあってはならないし、許されてはいけない。全て許されないが、特に私が危惧しているのは強盗殺人だ。
平和に暮らしている者の家に押し入り、住人を殺す。そして金品を奪っていく。
私からすれば金品などは命よりかはとても軽い。だが、「人を見つけたら殺せ」という指示を大前提にされているせいで、住人も金品を使っての命乞いができないのだ。
そんな残酷な犯罪を私は許すことができない。
だが、この犯罪を犯す者より比べ物にならないほどの悪人がいる。
それは闇バイトをしているものを庇う者たちだ。そんなことはあり得ないと思うかもしれないが、実際少し前から国が弱者を守る取り組みをしている。最近のものだと「多様性を認めよう」という主張が流行っている。
多様性を認めるだけならばよい取り組みだとは思う。多様性というのは無関心だと勝手に解釈している。人の深い部分について皆が無関心であればこの世の中は円滑に回るだろう。しかし周りの考えは異なるようで、弱者を弱者とみなしそれを配慮するというのが多様性らしい。この意見は私の認識とは違うが、許容はできる。だが、それが行き過ぎてしまって弱者を特段配慮すべきというのは違うと考えている。ハンディキャップが多い方が生きやすい世の中に私は疑問を感じている。
昔よく話していた友人にこんなことを言われたことがある。
「強盗のニュースを見たときどう思う?」と。
そりゃあ何も生まれないのに馬鹿なことをするよな。と思い、正直に返した。
「いや、そうじゃなくて。闇バイトとかで無理やりやらされてるから可哀想、とかさ」と言われた。
脳がこいつの言葉を容認しなかった。気が狂っている。このバケモノは時代が生んだのか、それとも生まれつきそうだったのか。もしも前者であれば国が責任をもって保護するべきだし、後者であれば国が直々に極刑に処すべきだ。
闇バイトでやらされているから可哀想という主張は百歩譲れば一理あるが、それにしても闇バイトを許容してしまえば普通の人が損をする。それに、弱者が独り身の老人という更なる弱者を攻撃するという可能性もあるのだ。彼自身の境遇と似ている弱者は保護し、さらなる弱者を保護しようとは思わないというのを彼の言葉から汲み取り、こいつとは二度と関わらないと決めたのだ。
それから数年後、時代は変わった。弱者をより特別扱いすべき、弱者がやったことは仕方がない、弱者は生まれつき迫害されていて罪を犯すのは普通の生まれじゃなかったからだ、という風潮が主流となっていった。彼の言っていたことは時代を先取りしていただけで、国を絶対的な善だと考えれば彼も善だったのだ。
昔のことを思い出していると、待ち合わせの時間に遅れそうなことに気が付いた。小走りで駅へと走る。
到着したころには、もう4人が集まっていた。私が最後だったようだ。全員のカバンが異様に膨れ上がっている。全員が集まったことを確認しあうと、スマホで送られてきた地図をもとに家へと歩く。
建物がぽつぽつとある知らない夜道を30分ほど歩いただろうか。外壁が汚れている古風な一軒家に到着した。
私たちは窓の方へ向かい、レンガを取り出した。悪いが、弱者に配慮しすぎたこの時代を恨んでくれ。そう思いながらレンガを振りかざした。
夜道とレンガ 24万円の麻 @240kyen
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