3図書館で調べもの
図書館に使い魔と入るには最初に受付で申請許可が必要になる。「少しだけ大人しくしててくれよ」とエミールの肩に居座るルガーをライアンはひょいっと持ち上げ受付の人の前に出す。
ウィッチャー専門の独特な質問を複数答えてるライアンの背中をぼんやり見つめていればルガーの申請は案外すんなり通ったのかまたこちらまで歩いてきてエミールの足元で止まった。
周りをきょろきょろ見渡し、首輪からまた柔らかな光線が飛び出す。それは地面に伸びていて……確か、地下にあるのは歴史書がたくさんある本が多かったか。
その場でぐるぐる回り出すルガーは行き方がわからないのかもしれない。
そっと両手で抱え肩に乗せ「先に地下に向かってるよ」とライアンに残して歩き出す。
「え⁉︎ 待ってくれないの⁉︎」
「ルガーが待ちきれないんだと」
「エミールぅ〜」
もう背を向けていたからわからないが、きっと不貞腐れた顔をしているのだろう。そんなライアンに受付の人がクスクス笑って「勉強熱心な使い魔さんですね」と宥めているのも聞こえる。使い魔が自ら何かを学ぶのは珍しいのかもしれない。
階段を降りて地下に辿り着く。地上の明るい場所とは違い、さらに静かで薄暗く重々しい雰囲気がある。専門書が多いためその場にいる人数が少ないこともありエミールが歩くだけで大きな音になる。出来るだけ静かに歩くよう心がけながら、淡い光線が示す位置まで向かっていく。
しばらく進んでいればある本に光線が当たっているのが見えた。近づいて手に取れば『コスモスが誕生するまで』というタイトルだった。この国が出来上がる前も、当然国はあったのだろう。でもそれはエミールが通ってきた学校ではほとんど学んで来なかった。それこそ専門家だけが知ってるような過去なのだろう。
「これが気になるのかい、ルガー」
興味津々だというように短い首が伸びている。「わかったよ」と返事をし、地下にもある共有スペースに座り本を開く。
『今でこそそれぞれの小さな地方が統率され大きな国になったコスモスだが、発祥前はここまで発展してない素朴な小さな国だった(以前の国の名はケイオスと呼ばれていた)。あの悲劇——カタストロフィ——が訪れるまでは……』
『今生きている人々には教科書でしか見ないであろうカタストロフィ。今ほど発展はしていなかったが貧しくもなく、平和に暮らしていた世界に突如現れた。何故そのようなものが誕生したのかは当時は何もわからなかった。
ただ、天気が悪天候になるように、自然災害に意思が宿ったかのように全ての天災が詰め込まれた状態で人々を襲っていった。
今まで敵国に襲われることもなかった故、ウィッチャーたちもいたが戦闘力に特化したものはいなかった。世界がどんどん破滅していく中、立ち上がったのが当時まだ何者でもなかったソレイユ王だった』
『国のどこかに眠っているという、勇者の血筋がある者でないと引き抜けないという〝聖なる剣〟を抜き、カタストロフィを倒した。これを【ソレイユの封印】と皆呼ぶようになった』
『カタストロフィを討伐したソレイユ王は人々に勇者様と拝められた。この混乱で城も攻められ、当時の王も既に亡くなっていたことから次期当主にソレイユが成り上がるのも当然のことだったのかもしれない』
『ソレイユ王になってから現在の国——コスモスという名がつけられた。またいつ敵が現れても対策が取れるように国を守るガーディアン部隊が専属でつくようになった。結果的にコスモスはケイオス時代よりも発展し、人々が暮らしやすい世界になった。近代化が益々進み、年老いた者に関してはケイオスの方が穏やかで時間がゆっくり動いていて過ごしやすかったと言う者も多いが。だが、時代とともに人々も変わっていく』
『〝秩序〟で〝調和〟して〝平和〟をもたらす……そんな国を目指して。国だけでなく、世界も。出来たら、もっと先の宇宙まで。誰かの欲のために、誰かが不幸にならないように。そのようなユートピアを願ってコスモスという名前がつけられた』
『暫くはソレイユ王が国を率いていた(大きな改革を起こしていたのは国を復興させるための百年ほど。後は基本城の中におり国民を見守っていた)が、三百年ほど経った頃に独裁国家とならぬように元老院が作られた。それからの二百年は、ソレイユ王と元老院の意見が合わないことが多く反りが合わないと言われているが──』
ここまで読み、ページを捲ろうとしたらポン、と閉じられた。見上げれば少し拗ねているようなライアン。
「やっとお出ましか」
「この図書館広いんだから! さっきルガーに首輪つけておいて良かったよ。おかげで歩き彷徨うこともなかった。……で、何を読んでいるの?」
「ああ、この国が誕生するまでの本だ。ルガーは文字が読めるのか、興味津々に読んでいたぞ」
「へぇ〜?」
ライアンは軽く受け流し再び本を開いてはパラパラとページを捲る。さほど興味は無いようだ。
それとは対照的に続きが読みたいのか、テーブルに置いてあった本を取り上げられてルガーは抗議するように鳴き声を発する。
「そんなに読みたいの。借りてく?」
「確かに。ずっとここで読み続けるのも大変か。特にライアンがもう駄目そうだ」
「わかってるじゃん」
「他に何か、読みたい本はあるかい、ルガー」
尋ねれば、辺りをキョロキョロ見渡し……もう無いというようにエミールの肩によじ登った。
「一応俺の使い魔設定なんだけど。じゃあ借りてくか〜。滞在時間十分。じゃあ外で待ってて」
「ああ」
転移魔法を使って公共施設の場から家に戻る、もしくはその逆をするのは義務ではないがマナーとして禁止されている。建物の中にいる人間とぶつかってしまう可能性や、万引きを防ぐ為である。
転移魔法すれば魔法陣が描かれその場に少し残り続けるので、警察に通報されれば身元が割れるのでウィッチャーでもそんなことをする人間は早々いないが。
基本は他の人を驚かせたり事故にならないようにと、専門の【ゲート】があるので建物から出た先の門の前で魔法を使う。ちゃんと召喚される場所と、転移するために使うゲートは二つあるので事故になることもない。
再びライアンに受付を頼み、ルガーを肩に乗せたエミールはひと足先に図書館の外に出る。目の前にはゲートが二つあり先ほどから人が消えたり召喚されている。便利な魔法だよな……とぼんやり思いながら、何処からか漂う鼻を擽る良い匂い。
「ああ……すぐそこでキッチンカーがあるのか」
今日は朝から城に招かれたり、図書館に向かったりと色々出向いていたからお腹は減っている。
勝手にいなくなればまたライアンから苦情が来る……とは思ったがルガーの首輪で場所がわかるなら良いかと、列が出来てる方向に歩いていく。
──と、突然。背後から爆発音がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます