教室内で愛の言葉を叫んだら、隣のクラスからツンデレ幼馴染が猛ダッシュしてきた!!

@JULIA_JULIA

第1話

 ・・・もう、中学三年生だ。七月の中旬だ。流石にそろそろ、ハッキリさせないとダメだろうな・・・。いや、でも・・・。




 俺は三年一組の教室内で悩んでいた。自分の席に座りながら悩んでいた。好きなコに告白するべきかを悩んでいた。


 俺の意中の相手は、同じクラスの唐沢からさわ 希美のぞみ。彼女に惚れたのは、小学五年生のとき。そこから一途に想い続け、今に至る。俺と唐沢は、特に仲が良いワケではなく、顔見知りという程度の関係。単なる知り合いに過ぎないのだ。


 よって、会話をする機会も殆どなく、俺は遠目に彼女を見ているだけ。それだけでも幸せな気分になれるのだが、しかしこの先はそうもいかないだろう。なぜならあと一年も経たないうちに、唐沢の姿を見ることは叶わなくなるかもしれないからだ。そう、同じ高校に通わない限り、唐沢に会えなくなってしまうのだ。


 だから俺は、意を決した。告白をしよう、と。






「あ、あのさ・・・、ちょっとイイかな?」


「え?」


 昼休みを迎え、唐沢の席の前に赴いた俺は、申し訳なさそうに尋ねた。そんな俺の顔を見て、唐沢は少し驚いている。それもその筈。これまでに俺が彼女に話し掛けたことなんて、片手で数えられる程しか、なかったのだから。


「実は、話があって・・・」


「なに?」


「いや、あの・・・。ここでは、ちょっと・・・」


 流石に教室内で告白をするのは、気が引ける。というか、無理である。引くとしたら、それは唐沢の方だろう。なんで、こんなところで───と、引いてしまうだろう。なんとか連れ出さなければ。


「でも今から、お弁当、食べるし・・・」


 唐沢の机の上には、小さめの弁当箱。既に蓋は開かれていて、中身があらわになっている。プチトマトや玉子焼きが現れている。可愛い唐沢と同様に、弁当の中身も可愛い。


「えっと、すぐ済むから・・・」


 果たして本当に、すぐ済むだろうか。告白を受け入れてもらえれば、そのあと少しくらいはイチャイチャとするのではないだろうか。そんな妄想を頭の隅に置きながら、俺は唐沢の目をジッと見つめた。


 ・・・あれ? もしかして今の俺、気持ち悪いかな?


「あ、うん。それじゃあ・・・」


 渋々といった感じで腰を上げる唐沢。その様子に、俺は不安になる。どうやら彼女は乗り気ではない。となると、俺の想いが成就する可能性は低そうだ。告白はやめておいた方がイイかもしれない。しかし今更、なんと言ったらイイのだろう。わざわざ連れ出そうとしているのに、『やっぱナシ』とは言い出しづらい。そうこう考えているうちに、唐沢は席を立っていた。


「どうしたの? 行かないの?」


 不審そうな顔をしている唐沢。そして、不振に終わりそうな俺の告白。さて、どうしたものか。すると近くにいる一人の女子が呟く。


「玉砕覚悟だねぇ~」


 おい、やめろ! まだ玉砕するかは分からないだろ!


 小さく呟いたあと、メロンパンに噛りついた女子。その顔は、なんとも幸せそう。そんな顔を、俺は強く睨んだ。


「じゃ、じゃあ、行こうか・・・」


 そう言って、先導する俺。程なくして、教室前側のドアへと差し掛かる。なんとかエスコートしようと振る舞ったものの、行き先は決めていない。どこで告白しようかと悩んでいると、教室の最後列中央に陣取っている男子グループが威勢のイイ声を上げる。


「おっ! なんだなんだ? 告白か?」


「頑張れよ!」


「ヒュー、ヒュー!」


 やめろ、バカ! 冷やかすな!


 そうは思ったものの、先程とは異なり、発言者を睨みつけたりはしない。いや、出来ない。彼らは、少々ガラが悪い。だから睨むことなど出来る筈がない。ここは無視して、早く教室から出るとしよう。しかし、唐沢が立ち止まってしまう。


「・・・え? 告白?」


 男子グループからの冷やかしにより、俺の思惑を知った唐沢。すると彼女は戸惑いを見せた。


 あぁ、クソッ! どうしたらイイんだ!


大塚おおつかくん・・・。えっとね、ワタシ・・・」


 思い詰めるような表情で俯いた唐沢。その様子から、彼女の言い掛けていることが推測できた。


 なんてことだ! まだ告白していないのに、振られそうだ!


 そんな危機感から、俺はパニックに陥った。


「す、す、好きだぁっ!!!!!」


 よりにもよって、教室内で愛の言葉を叫んでしまった。大衆の面前で告白をしてしまった。伝説級の所業をなしてしまった。唐沢の答えが、イエスであろうとノーであろうと、これは軽く死ねる。自分の叫び声が教室内に轟く中、俺の体はワナワナと震えていた。


 あぁ、ショック死しそうだ・・・。


 手足が震える中、俺の耳に軽快な音が届く。


 タタタタタッ!


 廊下を走る足音。それも、かなり急いでいる足音。そんな音のあとに現れたのは、なんとも厄介な存在。俺の幼馴染である女子───前島まえしま 翔子しょうこだ。彼女は、この一組の隣のクラス───つまりは、二組に所属している。


「ちょ、ちょっと! こんなところで、やめてよね! 恥ずかしい! アタシはアンタのことなんて、好きじゃないんだからね!」


 オマエに言ったんじゃねぇよ。


 腕組みをしながら言い終わったあと、肩で激しく息をしている翔子。なんとも鼻息が荒い。猛ダッシュをしたせいだろう。そんな彼女の頬は膨らみ、目は閉じられ、顔は横を向いている。どういう演出だか分からないが、役になりきっているようだ。


「でも、まぁ・・・。『どうしても』って言うなら、付き合ってあげてもイイけど・・・」


 だから、オマエに言ったんじゃねぇから。



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