第3話 問題児
❖
「エリーゼの野郎…何処で道草を食ってるんだ…?」
団長がピリピリしている。まぁ…最近あいつがトラブルを起こしまくってたからな…
この前なんか隣町の商人に値下げを交渉して断られたからって、魔法を使って商人の店を更地にしやがったからな。何が慈悲深いと自負しているだ。やっていることは悪魔の所業だわ!
結局その後、団長と副団長がエリーゼに無理やり頭を下げさせて、靴を舐めそうな勢いで土下座したから隣町から出禁にされることは回避しただけであって…実際、エリーゼ自体には厳重注意されているからな。
面倒事にだけは巻き込まれたくないため、殺伐とした雰囲気のリビングから忍び足で抜け出そうとする。だが、そんな俺を見逃すわけもなく、
「ロイド…行け。」
冷徹な、だが、怒りで震えているような声が俺の耳に入ってくる。いつもなら、「えー」で誤魔化して逃げるのだが、今の団長にそんな舐めた口を利くと殺されかねないため、不満を胸の中で押し殺し、黙って支度をする。
この中で唯一の探索魔法を持っている俺は、こういう時に駆り出されることがよくある。ここには、
最近
トボトボと外に出て、呪文を詠唱する。
「我にどんな物も見通せる目を与えよ。『
ぽっ、と光る影があった。だが、その光の形が少しばかりおかしかった。
「なんか…倒れてねぇか?気のせい?」
一旦、別の方向を見て再度向き直す。だが、光の形は変わらず、そこで確信する。
一撃の破壊力なら団でトップレベルのエリーゼが何者かによって倒されている。
「やべぇ事態かもしんねぇな…あいつが死んでなきゃ良いが…」
魔法の硬直時間が解けた瞬間、俺は団長のもとに走った。
❖
「うっ…くうっ…!」
足が使い物にならないため、匍匐前進で這いずりながら進む。
腕を前に出すごとに激痛が足を襲う。途中で何度もめげそうになるが、この子を助けてあげないと何か呪いがかかってしまうような気がして、止まるのを自ら許さなかった。
三分ぐらい掛かってしまったが、なんとか少年のもとに辿り着く。
腕で雪を払うが、上からどんどん雪崩のように落ちてきてきりがない。
どうしようかと頭を抱えていると、一つのアイディアを思いつく。
だが、この方法は体に負担がかかるし、なによりこの子にも危害が加わってしまう可能性がある。
悶々と考えた後、一番危害が加わらないものを選ぶ。
「光の母よ…施しを与え給え…『
ただでさえ魔力が無い中で出した魔術だったため、私は血を吐いてしまう。体から力が抜けて行くが、なんとか気力だけで堪える。
魔法で雪の中から脱した少年は、徐ろに私の前に落とされる。幸いなことに、この魔術による外傷はないようだった。
安心して彼に触ると、とてつもなく冷えていた。死んでいないか慌てて脈を確認する。
「よかったぁ…」
少し反応が小さいが、脈があるのは確かだ。彼が冷えてしまわないように、私が着ていた上着を上から布団のように被せる。
先程まで苦しそうな息をしていたのが、段々と落ち着いてきて、そのうち規則正しい寝息を立てる。
「ふぅ…一件落着…」
「どこがだよ馬鹿野郎。」
聞き慣れた声がこちらに飛んでくる。体を捻り、上体だけ起こすと、ロイドがこちらを睨みつけていた。
「別に何にも暴れたりとかはしてないけど。」
はぁ。とロイドがため息を吐く。もうこれ以上話しても意味がないということだろう。
「とりあえず応急処置するからこっち来い。全く…お前が倒れていたから強大な敵がいるもんだと思って、団長を呼んできちまったよ。」
「ゑ」
後ろにはニッコリ顔の団長が立っていた。あー、ヤバいかもしれない…
この笑顔は商人と揉めた時以来だ。
「エリーゼ?私達のグループには
「だってぇ…仕方ないじゃん…」
「何がですか?」
「この少年に私の『浄化の光』を全部吸収されたんだもん。」
団長は信じられないという顔をしたが、事実なのでしょうがない。
「嘘ですよね。貴女の浄化の光はA級魔物でも木っ端微塵にできるレベルの魔法ですよね?」
嘘じゃないんだけどなぁ…私だって普通に倒せると思ったから。
「ええ。どうして吸収されたのか…これからは憶測になるけど、彼は意識がないまま、私の魂を彼の精神内に入れた。そして、その精神内で私は浄化の光を撃った。この本体の方の魂は浄化の光をすべて吸収して魔力切れになった。だけど、彼はもう一つの魂を精神内に宿していた。姿形がほとんど一緒のね。」
ハハッと乾いた笑いを発する。この少年の中身は謎が多すぎる。
「つまり、双子…いや、双子でこんな魔力を持っているなんて聞いたことがないぞ…?」
団長が考え込む。よし。この隙に…
「団長、この子を一回保護してみてはどうですか?」
有無を言わせない笑顔で聞いた。
片割れ闇魔法使い、二人で行く。 むぅ @mulu0809
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