第2話 乗り移った兄
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「くちっ…あぁ…寒い…」
ここの近くの街に用があり、長々と買い物していたのが悪かった。雪が降り積もり、毛布のような上着を着ていても、寒さで身震いするほどには寒かった。
鼻水をすすり、最短ルートを通るために森の中を通る。だが、森の中を通ったのも悪かった。木が生い茂るこの森は、複雑に木々が絡み合い、迷路のようになっている。途中に木々が燃えた跡があったため、燃やしてくれた人に感謝しながら真っ直ぐ進む。
ここの森の多くは日陰になっていて、さっきからときたま最低レベルの魔物が襲ってくるが光魔法で光を当てて穏便に殺す。大体の魔物は闇魔法を使うため、相性が良くない光魔法でも魔力差で無理やり倒すことができる。その分、体力と魔力も消耗するが。
そうこうやっている内に、なんとか森から抜け出すことができた。最近、歩いていないから歩けない距離じゃないし、と思い魔術を使ったほうが体力を温存できるほど歩いてしまった自分を憎む。
はぁとため息を吐き、仕方がないため魔法で帰ろうとする。だが、何度呪文を詠唱しても、何かによって妨げられてしまう。
近くに魔物がいると発動できない時があるため、剣を取り出し、後退りする。
すると、私の足に何かが当たった感覚がした。
声には出さなかったが、私の体は反射で大きく前に跳躍した。酷く動揺し、受け身を取るわけでもなく雪の中に埋もれる。馬鹿なことに、雪の中で息をしようとしたため、水と化した雪が肺の中に入り更に焦る。
魔法をぶっ放しなんとか脱出した私は、咳き込みながら足に当たった物の正体を見に行く。
そこには少年が倒れていて、その上に雪が降り積もっていた。私が当たったのは雪が偶々積もっていなかった手に当たったようだった。だが、不思議なことに顔だけは他の場所と違い、雪が当たっている気配すらなかった。
禍々しい雰囲気を感じ取った私は、見なかったことにしてその場を立ち去ろうとする。私はこの瞬間だけ慈悲を無くした。いつもは慈悲深い方だと自負している私でも、流石に禍々しい雰囲気を醸し出している死体とは向き合いたくなかった。
とりあえず離れようと考えた私は、回れ右をして死体から距離を取ろうとする。
だが、一歩踏み出した瞬間、心臓に鈍器で殴られたような衝撃を受け、その場に倒れる。
ひんやりとした感覚で目が覚めると、石造りの小さい部屋に入れられていた。
小柄な私でも座るだけで天井スレスレであった。
「こんにちは。お姉さんの名前はなんていうの?」
雪の中に埋もれていた少年が、感情など一切籠っていない声で聞いてくる。
こんな狭い空間では視線を逸らすことなど出来ず、ただただ質問に答えるしかなさそうだった。だが、私はこんな牢獄じみたところは嫌いだ。
「ごめん。私はこんなところには居たくない。ちょっと手荒になっちゃうけど我慢してね。」
今出せる魔術で最高威力の魔法を使うしなかさそうだ。少し可愛そうだけどここから脱するにはこれしか手段がなかった。
「光の精霊に感謝を。安らかに眠れ。
この攻撃を受けて倒せない魔物は今まで見てきたことがない。自分の体の負担を無視し、更には魔力もすべて消費するこの荒業。当然、体も無事では済まない。
重力が何倍にもなっているように感じる。座った状態のままで発動したため、腰の骨が折れそうになる。流石にそれはまずいので、重力に耐えながら屈む形に移行した瞬間に足から嫌な音がする。
痛みから涙目になるが、一本の太い光からを見て、勝利を確信する。だが、光が晴れた時、私は絶望した。
何事もなかったかのように綺麗に正座をする子供。そして壊したはずの床や壁は元に戻っている。目を見開き、『死』という単語に慄いていると、少年は徐ろに口を開く。
「別に僕は貴女と戦いたいわけじゃないです…ましては殺す気もないです…」
流れるように言葉を紡ぐ。
「ただ…僕の弟。いや、すみません。急にそんな事言われても分かりづらいですよね。」
ふふっ、とあどけない顔で笑う。先程の少年とは全く違う、感情という概念があった。
「君は…誰なんだ?先程の少年とは全く違う気配を感じる…」
「そうですね…僕は…」
一瞬考える素振りを見せ、続きを言った。
「僕は今倒れている子供の兄です。先程、親たちによって殺されてしまって…あ、僕の弟は魔力切れでここの空間には居ないです。あの光をすべて受け止めたので……そうだそうだ。言いたいことを忘れるところでした。」
笑顔で話し続けている彼に言われることは、どんなに恐ろしいことなのだろうか。
そう畏怖していると、思いがけない一言を言われる。
「どうか、弟を助けてください。お願いします。」
懇願するような言葉を聞いた瞬間、私の意識は再度途切れた。
また目覚めると、眼の前には雪があった。あの心臓の痛みは消えていて、心底安心した。
「悪い夢…見ていたのかな…?」
自分の身体の状態を忘れ、立ち上がろうとする。
「いっ…た!」
足に鈍い痛みが走り、また倒れ込む。足は上から押しつぶされたように複雑に曲がり、血も流れていた。
「夢じゃ…なかった…」
急に現実を突きつけられ、私は静かに涙した。
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