時計の音

天川裕司

時計の音

タイトル:時計の音


「あの時だけは、慌てたんだね。あの時だけは…」


いつも冷静沈着な彼。

私はおてんばで、いつもはしゃいでる方だったから

彼に叱られたりしながら、彼のもとで成長していた?

カップルって、大体こんなものかもしれない。


「急がなきゃ!遅れちゃうわ」

デートの時でも私はいつも彼にもらった時計を見、

あたふた支度しながら部屋を出て行き、

そのあともバスに遅れないように

電車に遅れないようになんかしたりして、

彼と待ち合わせの場所に直行していた。


彼「ハハ、そんなに慌てなくて良いのに」

いつもそう言ってくれた。

いつも私の事を大目に見てくれていた彼。


そんな彼は慌てることがなかった。

いつも時間に正確なのは、

その前にちゃんと準備をし、

遅れないように何事も早く片付けてたから。


そんな彼を見習わないとね、なんて思ってた私。


私が事故に遭った時、彼は慌てた。

病院に搬送されて治療を受けていた私のもとへ、

彼は大急ぎで駆けつけようとしてくれたんだろう。

雨の日だった。


治療をすれば、私の怪我は大した事なかったんだ。

私は彼にもらった時計をまた見ていた。

その日、彼が病室に来るなんてまだ思ってなかった私。

正直、助かったことに安堵して、

そこまで思う余裕がなかった。


そしてゆっくりまた彼のことを思い続けていた時、

彼が同じ病院に搬送されてきた事を聞かされた。

「え…?」

その時…カチ……何かが止まった気がした。


「うそ…うそよぉおぉ!!」

これが8年前のこと。


今、私は新しい彼と出会い、

新しい将来を夢見て、一緒に過ごしてる。

今の彼も優しくて、私のことを1番に想ってくれた。


ある日、嬉しいことがあって、

その彼と部屋の中で抱き合って喜んだ。

私たちに新しい命が生まれたんだ。


でもその時…カチ…何か音が聞こえた。

何かが動いたような、始まったような、そんな音?


今の彼が居ない時、

私は自分の部屋に行って、

長らくしまっておいたあの時計を見つめた。

すると…

「え?…動いてる…」


8年もそのままで、電池も換えてないのに、

動き出すなんてそんなこと…あるの?


そしてその夜。

「急がなきゃ、遅れちゃう!」

私はまた青春の時が蘇ったように活気づき、

部屋の中であたふたしながら支度をして、

急いで部屋を飛び出して行った。


バスも電車も乗り遅れないようにして

彼と落ち合う場所に直行した私。


彼が居た。懐かしい笑顔。

落ち着いてて、優しくて、あの時の…

でも彼は…

「僕に出来なかったこと、君は出来るようになった。愛する人が変わっても、その愛する気持ちは変わらない」

「え…?」

「時計は動くよ、また。気にしないで…」

そう言ってフッと消えたんだ。


私は夜中に起きた。

横には今の彼がスヤスヤ眠ってる。

私は今のその彼に隠れて1つだけ裏切りをした。

大量の眠剤。これだけ飲んでも助かったなんて…


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=0PR-eX7rVVs

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

時計の音 天川裕司 @tenkawayuji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ