昼まで

千世 護民

ブラックボックス

 平然と朝が来る。

にわとりが朝を告げ、朝露に濡れた牧草を牛や羊らが食う。私もにわとりが産んだ卵をひとつ持ってきて熱いフライパンにそれを割って落とす。カトラリーなんてガラじゃないけどフォークを持って食べ、今日の仕事に臨む。

牛は乳を出し、羊は毛を刈り、にわとりは卵を。

ヤギには放牧地の草刈りをさせて乳をもらおう。


 また朝。

にわとりが朝を告げ、霜があった牧草を牛や羊らが食う。ヤギも一緒に放してやり、冬になる前にたらふく食って太らしておこう。

 犬が吠えている。きっとオオカミが出たんだ。退治しに行かなければ。にわとりや牛や羊らがみんな食われてしまう。


 朝。

にわとりが朝を告げ、花が香りを撒き散らす。

にわとりの卵をひとつ持ってきて、熱いフライパンにそれを割って落とす。相変わらずカトラリーなんてガラじゃないけどフォークを持って味わう。

カラスが一羽。最近ここに住み着いている。あいつは賢い。牛や羊らのエサは食べると人間に追い払われるとわかっているから、花に寄せられた小虫をついばんでいる。たまに羊の毛についたハエもぱくり。


 起きた。

…朝からカラスが一羽。窓にいてくちばしでコンコンつついている。犬も吠えていて黒い影。またおっぱらわなきゃ。にわとりや牛や羊らがみんな食われてしまう。


 …。

にわとりが朝を告げ、霜があった牧草を牛や羊らが食う。ヤギも一緒に放してやり、冬になる前にたらふく食って太らしておこう。

 犬が吠えている。きっとオオカミが出たんだ。退治しに行かなければ。にわとりや牛や羊らがみんな食われてしまう。

……いいや、犬が尻尾を振っている。車だ。あれは誰だろう。



「ねえ。そろそろ出てきて。お願い」




 ああ。そうさ。本当は誰もいない。にわとりなんていないし牛や羊らなんていない。暗い部屋でただうずくまって同じことをしているだけ。毎日ドアをノックする音。それだけ。

朝日なんて入ってこない、僕を心配する人なんて誰もいない。

相談なんてする人いないし、どう相談していいか…わかんないよ。

毎日同じゲームをして過ごしてる。それが牧場のゲーム。

ゲームだけは裏切らない。ちゃんと最後まで答えをくれる。

リアルじゃそんなの無くて、僕が僕の道を探さなきゃいけなくて。


…こわいんだ。やるせなくてチカラが出なくなった。

気づいたんだ。別に自分がいなくてもいいんだって。誰も困らないしミスも起きなくて平和だって。

こんなちっぽけなことで悩んで、こんなこと相談できなくて。居場所がなくて。でも、新しいこと…なんて余裕なくて。

…今のままじゃダメなのはわかってるけど辛いよ。苦しいよ。

他人と違うのなんて当たり前だけど、自分には何もないから『自分じゃなくてもいい』って閉じこもってさ?馬鹿みたいじゃない?どうせ無駄だってやってもやらなくても後悔するんだよ。それが嫌なんだよ!



 だれも見てない、聞いてないところで全部吐き捨てたいよ。



__俺だけしかできない何かがほしい。代わりの効かないなにかが。

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昼まで 千世 護民 @Comin3

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