告白

@sunnyclock

第1話


『性別なんてくくりだけで、相手の恋愛対象に入れてもらえない。辛いなあ』

 動画サイトに投稿された、ラブソングに対するコメントのひとつを読んで

(まったくそのとおり)

 と、心の中で呟き、スマホをかばんにしまう。そして必要な物が確かに入っていることを自分の目で確認し、かばんの口を閉じてから、親友の家の前で深呼吸をひとつ。

 傍から見れば不審な男にしか見えないだろうが、こんな状態なのにはそれなりの訳がある。これから職場の同僚であり幼なじみでもある親友に告白するために来たのだが、実行しようと思えるまでが長かった。親友には彼女がいるし、俺はどうしたって男だし、親友はなんだかんだ言っても彼女が大好きだから、おそらく結果は分かりきっている。それでも親友の口から直接聞いて、悩むのを終わりにしたいと思った。ただ、欲しい言葉をもらえなかった時にはあいつと親友でいられないし、今後まともに生きていけないだろうとも思う。そんな理由で悩み続け、早数年が経ってしまった。今やっと、一歩踏み出そうというところなのだ。

(大丈夫。結果がどうなっても後悔しない。考え抜いた上で、俺が決めたことだ)

 心の中で自分に言い聞かせながらインターフォンを押すと、親友が出迎えてくれた。


「そりゃたしかにこっちも悪かったけど、それでも……聞いてる?」

「ああ、聞いてるよ。今に始まったことじゃないけど大変だな」

 あれから数十分。俺は今、親友の愚痴に相槌を打っている。彼女ともう何回目か分からない喧嘩中らしい。

 なので、こんなことを言ってみる。

「もう振ってしまったらどうだ?喧嘩ばっかりしてたらお互いに気力と時間の無駄だと思うぞ」 

 すると

「んー、でもただでさえ出会いがないのにそれは……」

 との返事。それを聞いてホッとしながら、でもそれを態度に出さないようにしながら軽くからかう。

「大好きなんだな。美奈ちゃん(彼女)のこと」

「……いきなり何?」

 少し目を泳がせた後、ふてくされたように問われる。いくつになっても素直じゃないな。と思いながら質問返し。

「好きだから付き合ってるんだよな?」

「……まあ、せっかく告白してくれたから」

 この返答には内心落ち込みながら早く終わらせてしまいたいと思い、いよいよ本題を切り出す。俺の今後の人生をかけた告白を。

「なら俺じゃ駄目か?俺、男だから一生そういう目では見られないだろうけど、俺がいちばん、お前を大事にする。こんなにお前を好きな奴はいないよ」

 口を挟む間を与えずに言い切って返答を待つ。数時間にも思える沈黙の後、親友は口を開いた。

「ごめん。気持ちは嬉しいけど、私は……。小学生の時から知ってるでしょ?」

 それが理由か。でもまだ……と、涙をこらえながら最後の賭けとして問いかける。

「そうだな、知ってる。打ち明けてくれた時は本当に嬉しかったし。なあ、俺が女だったら今OKしたか?」

 どうか、どうか……と必死で祈る俺に向けられた言葉は

「うん。多分」

 だった。

「そっか。ありがとうな。今のでやっと覚悟ができた」

 涙で熱い両目でしっかりと相手の顔を見つめながらお礼を述べ、手探りでかばんを開ける。そして。

取り出した包丁を、目の前の女の胸に力いっぱい突き刺した。


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「なんっでっ……」

 それだけ言って驚きの表情を浮かべたまま動かなくなった女に向かって、まだ胸に刺さっている包丁の柄を握りしめながら、吐き捨てる。

「なんでって、こっちの台詞だ。本当になんで……」

 俺はビアンと親友になんかなったんだろう。

 なんで親友と同じ人に恋をしちゃったんだろう。

 なんで男だから振り向いてもらえないだろうと分かってるくせに親友の彼女ビアンに片想いし続けたんだろう。なんで、なんで……

「なんで言ってくれなかったんだ?『そりゃ好きだよ』って……『あんたは美奈じゃないから駄目』って。そう言ってくれたら思い留まれたのに」

 分かってる。こんなのは八つ当たりだってことも、こいつは素直じゃないだけで彼女への愛情はしっかりあることも、意地っ張りで謝るのが苦手なだけだってことも。それでも「好き」を伝えようとしないこいつをどうしても許せない。

「確かに親友だったのに。女の子が好きだって打ち明けてくれて嬉しかったのは本当なのにな……」

 まだまだ溢れてくる涙を拭ってスマホを取り出し、1、1、0と受話器のマークに指を置いた。





いかがでしたか?楽しんでいただけたなら幸いです。お時間があれば最初から「そういうこと」だと思って読み返して見てください。

感想や改善点など、いつでもお待ちしてます。

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