絡む陰キャちゃん(初コラボだ!)

「えー、視聴者たちが困惑しているかと思いますので、私たちの馴れ初めを公開したいと思います。良いよね?」

『私はいいよー!』『隠してほしいことでも無いですし、良いですよ』


 2人の許可も貰ったので(事前に許可を貰っとけという話だが)、私達の馴れ初めを視聴者に語り始めた。



「あ、この下ゲームのファンサーバーあるんだ……攻略サイトの情報量ゼロだったから、私ぐらいしかやってる人いないと思ってたわ……」


 そう言いながらそのサーバーに入室してみる。まずは自己紹介とどれぐらい稼働してるかだな……。


「うわ、思ったより稼働してる……物好きもいるもんだなぁ」


 カチカチとログを確認していくと、どうやら全知全能レベルで全ての質問に返信している謎のユーザーがいた。


「あーいるいる、こういう過疎ゲーの猛者。なんでそんなの知ってんだよ!ってぐらい入れ込んでるよな、普通に尊敬」


 飽きっぽい性格なので皮肉でもなんでも無く、ただただ尊敬を抱いていた。もちろん、その人のログが丁寧なものだったからで、これが横暴な言葉遣いだったらそんなことはなかったと思う。


「……せっかくだし質問すっか」


 ざっとログを見返した私は、カタカタカタと文字を入力していく。まだされていない質問を。


 質問されていない理由は至極簡単で、私が序盤で挫折したわけではない。むしろ逆に進みすぎているのだ。おそらくこの人なら答えてくれるはず……という淡い期待を胸に質問を投下する。


『第7ステージのこの〇〇が✕✕で………』


「平日のこの時間に返信は来ねーだろ。今のうちに別作業すっか」


 この時の私はゲーム実況の配信をしようと計画していて、まだ環境を整える段階だった。一応ボイスチャットとかはしたことがあったので、音声環境は悪くないのだが、それ以外の配信機材はお察し。


 配信も有識者に質問すればいいのに、私は「そういう集まりって底辺っぽくて嫌なんだよなぁ」とか言い訳して、相手を見下していた。今もそう大差無い気もするけど。


『ピポンッ』


「えっ、返信?早くね?」


 通知アイコンを見ると、やはり勘違いなどではなく先程入室したばかりのサーバーからだった。しかも文章が打ち込まれている。


「なになに……『そこは未だに私も苦戦している場所です!実は〇〇は△△が――』……って、そりゃ苦戦するわ」


 説明された内容をひと言で表すなら『地獄の代わりにイバラの道を通れ』というものだった。どちらにせよキツいわ。クソゲーかよ。


「ありがとうございます、一回試して見ます!……っと」


 しかしやり方は教えてもらったわけだ。少しはマシになった。ならばやらない理由なんてものは無い!


「っしゃ、今日中にマスターしてやらァ!」



「ってのが導入でー」

『長い長い、もうちょっと要点を掻い摘んで言ってくれ。そもそもゲームとか配信者に対する悪口酷すぎるだろ』

「一気に言わないでもらえますぅ〜?うちの視聴者そんな耳良くないんですよー」

『視聴者まで愚弄しやがった……!』


 コラボ配信は初めてだが、それでもうちの視聴者はいつも通り『耳悪いのはお前定期』『頭も悪いから会話が理解できてないんやろ』『今の話いる?』などなど失礼極まりない。せめてもう少しコラボ相手に触れてやれ。


「んじゃあ端折るけどさぁ。その一週間後ぐらいにサンちゃんが止まってる場所まで追いついちゃってね、そっから一緒に攻略しよう!ってことで仲良くなっていったって感じ」

『へぇ、詳しくは聞いたこと無かったな』

『話さなかったもんね、私もツッキーも。まぁそこから私が個人用のサーバーに誘って、そこでツッキーとあすてりちゃんが会ったんだよね』


 私よりも、あすてりの方がサンちゃんとの付き合いが長いということに耐えきれずよく喧嘩したのを覚えてる。もちろん本気で、っていうわけじゃなかったけど。


「てことで、この長ーい過去話で稼いだ時間でたくさんの質問が届きました〜。じゃあ読んでいきましょう!」

『それが狙……いじゃないよな、うん。とってつけた理由だよなそれ』


 あすてりを無視してお便りを読む。


「『こんばんわ、初めて配信を観させていただいております!普段とは違うサンドラさんを観られて凄く嬉しいです!ありがとうございます!』……なるほど。私しか知らない方が全世界デビューしちゃったかぁ」

『ちなみに私の方にもお便り来てるよ。『ツキコが迷惑かけてないでしょうか?』だってさ。まぁ普段のお前からして当たり前の反応だな』

「誰だこんなのをコイツに送りやがった馬鹿は!」


 むしろ私の方がコイツに迷惑かけられてるっつーの!


『まぁまぁ二人とも。あっ、私の方にも『三人で歌って欲しい!』とか『ホラゲー実況してー!』とか来てるよ〜』

「ホラゲーはまだしも、歌はいいかもな」

『私は歌えねぇぞ?ツキコは?』

「歌えねー」

『なんだ、おそろいじゃないか』

『「HAHAHA」』

『それじゃ三人で歌えないじゃん!練習してよ!』

「えーでもなぁ」


 その後もごね続け、コラボする代わりにサンちゃんはホラゲー配信することになった。怖がるサンちゃんが見られるなんて、楽しみだぜ!


 ちなみにあすてりにはなんの要求もしていない。要求を通したとして、こちら側が無傷でいられるとは思えない。


「えっと……今後も定期的にコラボしてくれますか?」

『もちろんもちろん!むしろ私の方においでってぐらいだよ!』

『生声でいいなら出てやるよ。そっちの視聴者も奪ってやる』

「二人ともありがとね」


 なんとか押し殺しはしたが、ちゃんと普通の声になってたのかな。ちょっとうるっときてしまった。


 改めて、二人とも私の大切な友人だと感じられた。どういう形であれ、根っこの部分で繋がってるって思える。


「じゃあ今日の配信はおしまい!みんな、また次の配信でお会いしましょーーーー!!」


 配信を閉じ、通話で軽く「ごめん、今日は寝る」と伝え、ベッドにダイブする。衝撃で舞ったほこりのせいで、ちょっと煙たい。


 実感はわかないし、でも幸せだし、夢みたいだけど夢じゃないし。


「10万人、って感じだな」


 私は、そうとしか言い表せなかった。

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陰キャ配信者ツキコちゃん 十七夜 蒼 @SPUR514

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