第4話
大都会と言っても、一度通りを隔てれば、ちがった空気が肌を舞う。金融街、風俗街、オフィス街、住宅街、畑、田園、茅葺き屋根。つい1時間前まで最先端を感じていたのに、ここまで景色は変わるものなのか、と少し驚いてしまった。それだけ車が速くて便利なものだと思ったと同時に、この村が中心地と同じくらい発展することはこの先あるのだろうか、とも思い、資本主義社会の現実を改めて感じてしまった。仕事上、それを感じることが多く、仕方なかったが、今、この休日だけでも忘れていたかった。
「こういう景色、いいですよね。ばあちゃん家を思い出します」
充が言った。
「あっちはめちゃくちゃ発展してても、こういうのは残しておいた方がなんだかいい気がします」
私は少し考えた。
「彼らがここに住む理由ってなんなんだ」
ヤナちゃんが言った。
「面倒くさいとか、動きたくないって感じだと思うけど、たぶん」
私が答えた。つづけて
「たぶん、そんなに大層な理由じゃないだろうな。単純に動けない、面倒くさいっていう人もいるだろうが、ここでも十分生活できるから動かないって人がほとんどだろ。必要最低限の生活は望まないんだろう。しかも、自分の意思で」
「それって楽しいんですかね。俺はできるもん全部やって死にたいかな」と充が言った。
はっ、となった。これまで、自分は山に行くことができるのに行かなかった。弔うことができるのに、しなかった。山に登り始めてから5年前のことまで、忘れていなかったのに、自分の意思で、何もしなかった。
そんな自分に責任を感じた。批判的なことを言っておいて自分ができていないのは、少し恥ずかしく、もどかしい。
ラジオから音楽が流れてきた。気持ちを晴らすには全力で歌うしかない。
窓を開けた。サンルーフも。ヤナちゃんがギョッとして、こっちを見たが気にしない。
息を吸い、アクセルをベタ踏みした。
「♪何度でも何度でも何度でも立ち上がり呼ぶよ きみの名前 声が涸れるまで」
あの鬱陶しい気持ちが流されていく。風に乗ってどこまでも走っていけるくらい肩が軽い。
いつのまにか二人も一緒に歌っていた。車内は裏道のクラブ同然に盛り上がってしまった。
40分くらいして町に出た。あたりは田んぼとまばらな家、遠くには少しビルが見える。
あと2、3時間かかるが、そう急ぐことじゃない。まだ、7時半だ。
「なあ、晴人。朝食どこで食うつもりだ」
ヤナちゃんが言った。
確かに。さっきまでの気持ちでそんなことまったく頭になかった。しかし、全力で歌ったせいなのか、腹が減った。近くにある店屋は朝早くからやってなさそうだ。
「少し先にサービスエリアがあるから、そこで食べよう」
アクセルを踏み、スピードが出る。排気音でお腹の音がかき消された。
埋浄悔記 イトウ @itou08
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