【警告】最後まで問題を解けなかった人はペナルティ付きです。



あれから何年経っただろう。生まれて初めて「死」というものを意識したあの日から。当時中学生だった私たちの世代、いわゆるZ世代の次に、α世代が現れ、最近では次なるものとしてβ世代が登場した。

社会人になって、一介の営業マンになって、学習したことがある。「大人だってイジメをする」ことだ。嫌な話だけどいじめっ子の気がある人はどこに行ってもいるし、この世から根絶するなんて不可能だと思った。


大久保健太先生、本当に大好きだった。それは幼少期に交通事故で父を亡くし、シングルマザーとなった実母からストレスの捌け口のために虐待まがいのことをされていたからっていうのもある。頼りがいのある、安心感のある大人の男の人。大好きな父の魂が乗り移ったような人、そんな印象だった。

少し怒りっぽいところもあるけど私は、そのような所も亡き父と重ね合わせていたのかもしれない。人情みに溢れる、不器用だけど他人思いな人だった。

大久保先生は部員が私一人だけの写真部の顧問も務めてくれた。彼は大学時代に写真にハマっていたこともあって私に写真撮影のノウハウや奥深さ、魅力を余すことなく教えてくれた。そんなこともあってか、中学時代は学生生活を送る傍ら、一眼レフ片手に大好きな写真にのめり込むことができた。今はそんなことできないけどね。

愛する想いが強い分、2年2組の及川をはじめとしたアイツらに強い憎しみを感じた。何も力になれず、葬儀にも行けなかったのが本当に辛かった。教師たちだって、許せない。校長や教頭は面倒ごとを避けたいがために、及川先生の訴えを無視した。それだけじゃない。当てつけともいえる業務の押し付けや、理不尽な嫌がらせも行なっていたそうじゃないか。私に力があれば………どうにかできたはずなのに。己が秀才ぶりに心酔して、粋がっているバカな男子に何もできないなんて、面倒臭がりで人間性が欠落した無能教師たちにも一泡吹かせられないなんて。

教育委員会も警察も自殺の原因を念入りに調査は行わなかった。ニュース記事に書いていたことは嘘じゃないか。頼みの綱の無力さに私は落胆した。元から信じてはいなかったんだけどね。


数ヶ月後、新任の女性教師がやってきた。しかも私と同じ、「すみれ」って名前。そのことからよくその先生は私に話しかけてきた。そして私は彼女の口から驚くべき告白をされるのだった。

大久保という苗字だったので、もしかしてとは思っていたが、私の勘はどうやら当たった。新任教師の大久保すみれ先生は、大久保健太先生の実妹だったのだ。兄の自殺の真相を探るためにこの学校にやってきたようで、私は躊躇いもなく受け持っている2年2組の生徒、それから教師陣からのいじめや嫌がらせが原因だと告げた。

夏休みに入って、すみれ先生は2年2組の生徒らの自宅に小テストを郵送で送った。最初は5教科の簡単な小問題が淡々と並んでいるが、後半は大久保先生のいじめについて、はっきり言及している。最後の問題には皆、どのような解答をしたのだろうか。


「刑事ドラマの取り調べみたいに個別面談で話を聞くよりも、こうした間接的なやり方の方が答えてくれると思ってさ。」


すみれ先生の思惑通り、2年2組の過半数の生徒が、文面で素直に告白をしてくれた。


「及川たちが怖くて何もできませんでした。本当にごめんなさい。」

「面倒ごとが嫌で同調したとはいえ、ぼくも同じ悪者です。すみませんでした。」


意外にも主犯格ではない生徒らの解答には、謝罪の言葉が添えられていることが多く、これにはすみれ先生も驚いていた。そして皆が口を揃えていうのが、やはり及川と彼の周囲にいる生徒数名のことだった。

及川は学業成績がとても良く、全国模試でも上位の方にいた。しかしその一方、頭の良さに託けて大久保先生を始めとした、教師らに対して反逆的な態度を取っていた。彼の問題行為を注意をしようとする教師には必ずと言っていいほど、


「それハラスメントですから。令和でそんなのありえませんから。」


と生徒である立場を逆手に取って、反論をしている。2年2組の他の生徒らは下手に逆らうと面倒臭い上、最悪の場合は陰湿ないじめにまで発展するので、嫌々彼の仲間を装って同調していた。

結局、小テストは回収された後、及川の訴えにより、このことが校長らの耳に届いてしまった。「いち教師としては問題行動ではないか」と咎められたことによって厳しい叱責された後、すみれ先生は赴任して、数ヶ月も経たないうちに学校を去った。

それから数年経った現在、あの時のテストの解答用紙が私の元に届いている。加えて、すみれ先生からのメッセージカードも添えられていたので読んでみる。


「これをどうするかは菫ちゃんにお任せします。私がやりたいことはやったから。自分から始めたこととはいえ、この解答用紙を見るとどうしても兄を思い出しちゃってね。捨ててもいいし、預かっててもいいから………か。」


その時、私は自分の顔筋が緩んだのを感じた。鏡がないので分からないけど、私は今はにかんだ表情をしているのかもしれない。

このテストには大久保先生を自殺に追い込んだ犯人たちのことが書かれている。もう一度、よく読み直そう。

すみれ先生は素敵なプレゼントを送ってくれた。そしてもう一つ、思い出したことがある。私はカレンダーを見ながらまた、ニヤリと笑ってつぶやいた。

そういえば、一ヶ月後に小菩中学校の同窓会があったんだった。


「また、みんなと会えるの楽しみだなぁ。大久保先生を殺したゴミクズどもにも会えるし。」


何だか、中学時代にすみれ先生と二人だけで練ったこの計画を実行するのが楽しみになってきた。







《完》

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

問題集 佐藤莉生 @riosato241015

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画