第6話 温泉にて(2)

 温泉から上がった私達は、昼ご飯を食べに行った。

 サクラはこう言った。

「ねえ!カラオケがあるよ!」

 ミサキはこう返した。

「はいはい、後でね」

 2人が親子に見えた気がした。


「おいしい、これが霧野牛ステーキ……」

 リョウがステーキを食べていると、カナはこう言った。

「前世の私達の生きた証がこんな感じになっているのは、嬉しいかも」

 確かに、この温泉は私達が魔王を倒した場所だ。

 観光地になっているのは少し複雑だが、楽しんで貰えているのはいい事だ。


「食べ終わったら自由時間ね!」

 そうミサキが言うと、サクラはユウとカラオケに行っていた。

 露天風呂でサクラはユウに色々性的な事を聞いていたので、ちょっと心配ではある。

 まあユウの事だから大丈夫だろうと思い、私はゲームコーナーへ向かった。

 旅館によくあるレトロゲームが並んでいるコーナーで私はレースゲームをする。


「そういえば、カナはどこに行ったんだろう」

 そう思っていたが、隣の本コーナーにいた。

「何読んでるの?」

 私がそう聞くと、カナはこう答えた。

「歴史本。私達のいない時代の歴史を読んでるの」

 歴史。私の苦手分野だと思いながら話を聞いた。

「私達がいない時代には、アルディナ教が広がっていたからね。アルディナ教の預言者を騙った詐欺師とかも居たみたいよ」

「そうなの?というか、アルディナ教って勇者パーティーを祀っているから、私達が祀られてるみたいでなんか複雑だわ」

 すると、カナはこう言った。

「私達は、もう勇者パーティーじゃないから。そんなこと気にしないで生きていけばいいのよ。」

 確かにそうだ。勇者パーティーの大聖女セレフィーネから記憶と魔力が引き継がれただけで、私はアヤという一人の人間なのだ。

「まあ、呪いだけは気になるからそれだけ終わらせないとだけど」

 そう言うと、カナは他の本を読み始めていた。


「そういえば、魔王の魔力を少し感じるのだけど」

 アヤはそう言った。

「えっ!?ってことは、あの女性がいるかもってこと!?」

 私がこう聞くと、カナはこう答えた。

「魔王城の跡地だから少し残っているだけかもしれないけどね」

「なるほど?私は感じないわ。魔王の魔力」

 結局、夕食まで私達は話をしていた。

 魔王の話以外にも、学校の事とか、日々の事とかを。


「はーい、夕食はバイキングですよー!」

 ミサキは夕食の準備をしている。

「あっ、カレーだ!何杯おかわりできるかな?」

 サクラはそう言ってカレーを取りに行く。

「野菜も食べないとね」

 ユウはサラダを取りに行った。

「私は、アジフライとか食べよ」

 リョウは魚介類を見に行った。

「私は……、ハンバーグ!」

 昼食がステーキだったので連続して肉系だが、まあたまには良いかと思いハンバーグを取る。

「アヤって結構肉食……?」

 そうカナは呟いていた。


 夜、2回目の風呂に入る。

「やっぱりユウはお胸が~」

 サクラはユウの胸の話を再びしている。やっぱり変態なのかもしれない。

 前世でリィラだった時は、清楚系な感じだったのだが。

「はあ、暖まるわぁ」

 リョウはすっかりこの温泉がお気に入りになっているようだ。

「あっつ!準備ミスしたかなぁ……」

 さっきは準備で居なかったミサキは、意外と熱めの風呂が苦手なようだった。

「アヤ、ここのお湯は気持ちいいわね」

 カナは私にばかり話をしてきている気がする。

 まあ、悪い事ではないので大丈夫だけど。

「うん、気持ちいいね。あったかい」

 カナはこう言った。

「前世は温泉なんて王都以外に無かったからね」

 そう考えると、前世の時代は不衛生だなと思った。


「ばっしゃーん!」

 サクラが突然私達にお湯をかけてきた。

 ただし、お湯は届かなかったが。

「お風呂で遊んではいけませんよ。サクラ」

 ミサキはやはりサクラのお母さんみたいだ。


「それじゃあ、そろそろ上がりましょうか」

 ユウがそう言うと、みんなは風呂から上がっていった。

「私もそろそろ、上がりましょうか」

 私が上がろうとすると、サクラはこう言った。

「アヤは、アルディナ……。カナの事が今も好きなの?」

 突然で驚いたが、私はこう返した。

「ま、まあ。夢に出てきたけれど?」

 すると、サクラはこう言った。

「やっぱり好きなんじゃん!」

 好き。なのかもしれない。


 その日の夜、寝る前に私は寝室で考え事をしていた。

 カナの事だ。

 前世では結婚直前まで行った関係ではあるが、現世ではただの友人。

 それも、前世での関係があってこその友人関係である。

 しかし、夢で結婚式の事が出てくるくらいだ。

 やっぱり、カナの事が好きなのかもしれない。


 そう考えていると、ノックがされる。

「はーい」

 そう言って私がドアを開けると、みんなが寝ている中カナがやって来た。

「カナ?どうしたの」

 するとカナは部屋に入り、少し照れながらこう言った。


「私、アヤと前世ではあんなに近い存在だったのに、今はただの友人である事は変な感じだと思うんだ」


 カナの言葉は、私の考えていた事を突き付けてくるようだった。


「私は、あなたの事が気になっている。だけど、無理に好きにならなくてもいい。前世の事なんだから」

 カナも前世での事を思い出す度に、私の事が気になっていたようだ。

 カナは少し冷たくそう言ったが、真剣な眼差しで感情が映っていた。


 私は、思い切ってこう言った。

「私は、カナの事が好き。前世の事もそうだけど、今のカナが好きになっちゃったのもあるかも」

 現世で出会ってから数週間だ。少し大げさに言い過ぎたかもしれないが、私の心の中にあった詰まった感じはなくなった。

 カナは、少し目を逸らしながら、いつもより少し低い声で言った。


「なら、私はあなたと一緒に居たい。なるべく長い時間を、なるべくアヤと一緒に……!」


 そう言って、私をベッドへ押し倒す。

「えっ……!?」

 私は頬を真っ赤にして驚く。


「普段の一緒にいる延長でいいよ。だから、今日は一緒に寝よ」

 そう言ったカナは、少し照れくさそうにしていた。

 私は少し考えた後頷いた。

「分かった、一緒に寝よ」


 夜は深まり、私はカナと同じベッドで横になっていた。

 カナは少しづつ私に近づいてきて、手を繋ぐ。

「私達、これからどうなるかな」

 そう聞くと、カナはこう返した。

「一緒にいることが大事だと思うよ。今を楽しまないと、後悔してしまうでしょ」

 カナの言葉は、温かさを感じた。

 カナと一緒にいるだけで、未来が希望に満ち溢れているように感じた。

「うん。そうだね」

 私は頷いて、カナの手をしっかりと握り返した。

「私達が一緒に居たら、少しづつ何か変わっていくかもしれない」

 カナは顔を赤らめながら、さらに私に近づいた。

「アヤ、この人生でも一緒に居よう。友達じゃなくて、特別な存在として私は居たいの」

 そう言われると、私は胸が高鳴っていた。

「私も、カナの特別な存在になりたい……!」

 そう言うとカナは私の元へさらに近づき、私を抱きかかえた。

 鼓動はかなり速くなり、カナの鼓動も聞こえるようになる。

「今夜は、特別な夜にしたいから」

 目が合うと私はドキドキしながらも、この時が続いてほしいと思った。


 その瞬間、カナは私に優しくキスをした。

 甘い、柔らかい感触が伝わってきて、驚きながらも幸せな気持ちに満たされた。


「これ、夢じゃないよね?」

 私は思わず言った。

「もちろん、これは現実だよ。これから、よろしくね」

 カナは微笑みながら言った。


 私はその言葉に安心し、落ち着いて眠りについた。

 この先のどんな出来事も、カナとなら一緒に乗り越えられると思った。

 私は、カナと手を繋いだまま目を閉じていた。

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記憶蘇生の勇者パーティー @higashiike_naga

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