第2話 カタツムリは可愛い(持論多め)

最近、私はカタツムリを飼い始めた。

超プリチーなミスジマイマイちゃんである。

子供の頃から生き物とゲームをこよなく愛してきた私は、当然ながらカタツムリも大好きである。


しかし、実のところカタツムリを飼ったことは一度もなかった。


小学校夏休みの粘土工作でカタツムリをチョイスするくらいにはカタツムリは好きであったが、しかし子供の私からすれば他にも興味深い生き物は沢山いて、お小遣い制ですらなく、親のご機嫌次第でたまに買ってもらえた数に限りある虫かごで飼育するには、生き物としてノロマで目立ったところもなく、殻を担いでヌメヌメしてるだけという印象しか無かったカタツムリをチョイスするというのは私にとって、ありえない選択肢であったのだ。


好きは好きでも程度というものがあり、その程度の中で割りかし下の方に位置していたのがカタツムリであった。


ところがだ。

年齢を重ねるとともに、カタツムリって良くね?という考えが強まっていく。

カタツムリの良さが分かってきた、というより好みが変わってきたとでも言おうか。

良く見れば見るほど可愛らしくも興味深く思えてくる。

特殊な形状の口で削り取るように餌を食べる姿なんていつまでも見ていられる。

実に可愛らしくも面白い摂食だなぁと。動画サイトで適当に検索をかけて貰えばすぐに見れると思うが、口の中に送り込まれる様は工場でベルトコンベアーに吸い込まれていく部品群を見ている気分になる。


ある程度大きくなり、色々な飼育器具を自分で揃えられるようになってからも頭の片隅にはカタツムリを飼いたいという気持ちは常にあった。


しかし、飼うことはなかった。

なぜならば成長とともにカタツムリへの興味以上に肥大化していく「衛生観念」がカタツムリ飼育の高いハードルとなっていったのだ。


私は神経質な人間である。


周りの人は私を潔癖症だと言うが、違うのだ。

気になることはとことん気になるたちゆえに手についたであろう雑菌が気になるのであって、さらに言えばその雑菌まみれの手であちこち触って雑菌をばら撒く行為がたまらなく嫌に感じるのであるがゆえの潔癖症みたいな行動を取らざるを得ないのだ。

普通の人は目に見えぬ物にそこまで注視はしないだろう。

しかし、私は見えぬからこそ人一倍気になってしまう。

幽霊みたいなものだ。多分。

汚れそのものへの忌避感は一般人なみである、と自分では思っている。

いつでも手を洗える環境ならば素手でゴキブリだって持てちゃう人である…もちろん持ちたいわけではない。


まあ、つまり私は雑菌とかそういうのを特に気にしてしまう性格であると言うことだ。


そしてカタツムリというのは自然下では鳥やネズミ、犬のフンなども食べるという。


私は思った。


「きちぃ」と。


カタツムリって雑菌まみれじゃないか?


と。


さらにはカタツムリをネット検索にかけるさい、「カタツムリ 危険」というワードが予測検索欄?に良く出るのをご存知だろうか。


何が危険かというと、カタツムリには広東住血線虫という寄生虫が存在し、それが体内に入ると死ぬことがあるとか。

しかもそれはカタツムリの粘液に含まれていることがあるとか、カタツムリやナメクジの粘液がついた野菜を食べて感染した事例もあるとか。

とかとか。

つまりカタツムリを不用意に触ってしまうと何かの拍子に寄生虫が体内に入るかもしれないということになる。

傷口からの経皮感染の例もあるというので手に傷が付いているのに気づかずに触れて仕舞えば感染する可能性が出てくる。

よくよく調べると実際の経験談は見かけず、粘液まじりの生野菜を口に入れるという割とありそうな原因の割には、患者数が少ない。

日本における症例数は2003年の8月までのデータしか見つからなかったが、その数54例。

そのうちの何例かは迷信的な治療法を信じての自ら生きたアフリカマイマイの丸呑みだったり、アシヒダナメクジの丸呑みだったりするらしい。

そうした自ら感染しに行くような事例を除けばさらに症例数は減る。

粘液から、となるならもっと居なくちゃおかしくない?

やたらと少ない点を踏まえてなお


私はまたも思った。

「だが、きちぃ」と。


それを初めて知ったのはだいぶ前だったと思う。


それから何年もの月日が経ち、たまにカタツムリへの飼育欲が湧き出ては時折、悪あがきもしてみた。

世界で見ても珍しい、最高級品種のエスカルゴを食用に養殖してる某日本企業に生きたエスカルゴが購入できないか連絡してみたりしたが、もちろん断られた。まあ、冷凍品しか販売してなかったし、ダメだったのは当然である。

養殖されたエスカルゴなら雑菌やら寄生虫やらの心配はいらないと思ったのだが…外来種問題が蔓延る今のご時世でもあるし、そういったコンプライアンス的な面もあったかもしれない。下手に一般人に渡してそれが自然下に放たれればと考えた時…色々なあれこれを考えれば、断られたのはさもありなん。当然だ。

であればどこかのペットショップならば飼育下で繁殖させた寄生虫フリー個体が手に入るかもと考えるもその辺にいるカタツムリをわざわざ繁殖させてまで売るショップはなく、基本は採集された個体そのまま。

オークションサイトはシンプルに詐欺が怖い。

そして、私はふと思ったのだ。


あれ?おかしくないか?と。


フンを食べるということに関してはこの際無視する。

大なり小なりフン由来の雑菌なんてのはその辺にいるもんだし、フンを食べる生き物なんて珍しくない。なんならフンを舐めたハエが洗濯物に着いたようなもんだ。

それはそれで実に不快ではあるが、私の神経質センサーがかろうじて無視できると囁いている。


なに、卵を取って自家繁殖させるまでの辛抱よ、と。

一応、気になって調べてみたところカタツムリの粘液や消化液には抗菌物質が含まれているというので下手な野生動物、それこそ野良猫よりも綺麗だろうと判断することに。

猫は自分のお尻を舐めた舌で全身を舐めて毛繕いするのだ。様々な雑菌まみれ、寄生虫まみれであろう野良猫よりはマシだろうと。

まあ、カタツムリに動物の糞由来のやばい病気があったらもっと昔からあれこれ言われていただろうし、ワクチンなしで生存した事例が3例しかない絶対人間殺すマンの狂犬病を媒介するせいか一切存在しない野良犬みたいにもっと駆除が盛んに行われていたはず。それがないのだから大丈夫だと判断し、無視した。

実際に日本には傷がなくとも皮膚を突き破って感染するやばい寄生虫(日本住血吸虫)を媒介するミヤイリガイという貝類がかつては存在していたが、今は人間の手による駆除が勧められた結果、ほぼ絶滅状態。

寄生虫そのものに至っては完全に絶滅しているらしい。

つまりその辺のカタツムリに触れるだけでやばい病原体があればもっと話題になっていたはずなのだから。


となると残るは寄生虫だが、コレに関しても同じだ。

その上でさらに私は疑問に思ったのだ。


寄生虫のくせに体外に出てくるのはおかしくないか?と。

上記の日本住血吸虫の例もあるが、広東住血吸虫にはそんな生態は確認されていないようだ。

基本は寄生虫を持つカタツムリが食べられることによる感染という形をとっている。

そんな寄生虫が体外に出るなんていう行動を取る必要があるのだろうか?


調べまくった。


調べに調べました。

結果、ネットで興味深い報告書のようなものを見つけたのだ。


1976年 10月。

題名は「軟体動物からの広東住血線虫の遊出について」

(忘れないうちに引用元、というか参考元は書いておく。

なに?引用元は末尾にだって?書くのが早い?

いやほら。論文ってわけじゃないし、ただのエッセイだしってことで、その辺はね?

記すのは、著作権は守らんとあかんという事で。

以下引用元。

引用元 沖縄県公憲衛星研究所報 10. 1976 衛生動物室 安里 龍二、岸本 高男)


沖縄県にあるらしい衛生研究所の報告書である。

今も存在してるのかなと検索してみるとそれらしき施設はあった。ちなみに私が見た時は商業施設でもないのにクチコミが一つだけあって⭐︎1だった。


研究所にもクチコミがつく時代になったのかぁ…なんて話はさておき以下に内容を簡単にまとめると



6日間飼育してみた限りでは粘液にも糞便中にも寄生虫はいない


メタアルデヒドという農薬で殺してみたら、ナメクジの場合はだいたい三時間後くらいの死亡した前後あたりの時間帯から体外に出てくる


沖縄で特に寄生されてる率が高いと言われてるアフリカマイマイの場合はメタアルデヒドで死亡しても体外には出てこない。

死亡したアフリカマイマイの体内では生きたまま保持され続ける。

気温が低い場合、死亡したマイマイの体内で10日以上は生きているとのこと

死亡後、腐り始めて組織が崩れて初めて体外にて寄生虫が確認される。腐敗の影響かこの段階では大部分の寄生虫が死んでいるらしい


アフリカマイマイの場合、外套膜(カタツムリの入り口付近を覆ってる肉で出来た膜みたいな物)や腸に傷をつけたら体外に出てくる



つまり基本的に粘液に寄生虫が混じることはないということである。



私は思った。

「ほほう」と。


カタツムリ飼って良くない?と。


この報告書の内容が確かであれば、私が考える仮説はこうだ。


ナメクジやカタツムリは割と天敵が多い。

その不味そうな見た目に反して、基本的に大体の肉食生物に食われる生き物である。

鳥類には卵を作るためのカルシウム源として、ネズミにはノロくて牙も毒もない手頃な獲物として、爬虫類や昆虫にはむしろカタツムリを積極的に狙う種だって存在する。

マイマイカブリという昆虫は成虫も幼虫もその名のとおり、マイマイ、つまりカタツムリを被るように殻口に頭を突っ込んで貪り食うし、一部の蛍の幼虫もまたカタツムリが獲物になる。

世界にはカタツムリしか食べない蛇などもいるというから驚きである。

身近にいるカマキリなんかは粘液をたくさん出して身を守ろうとしたナメクジだろうと、かまわずに食べることもある。

なんなら餌がない環境下ではナメクジ同士の共食いも確認されているとか。

さらになんならカタツムリの一部は「恋矢」という棘状の骨をお互いに刺し合い、交尾を行うという。この矢は種類によっては反対側に突き抜けることもあるとか。

この恋矢を持つらしいオキナワウスカワマイマイというオナジマイマイ科の一種にも寄生虫はいるらしく、交尾時の恋矢による傷から寄生虫が漏れ出したという可能性も…あるかもしれない。


粘液から寄生虫が出る、というのはそうした農薬を浴びて、天敵に襲われて、命からがら逃げ延びて、何かしらの理由で体に傷がついた状態限定というのが私の仮説である。

野菜についた粘液で感染、というのも傷ついた個体の粘液だったとすると説明がつく。

要は怪我してる個体には触れなければ良いのだ。

そもそも野菜に付着した粘液から感染したというのが胡散臭い。

どうやってそれを特定したのだ?と。

さらに言えば体外に出た寄生虫はそんなに長生きできず、水中にいる状態で約10日、気温ないしは水温が高いとさらに短くなるらしい。しかも粘液とて数時間で乾燥するだろう。

寄生虫は乾燥に弱いという話もネットでは散見される。まあ、実際に確かめたような研究などの記述は見つからなかったが、これが本当であれば生きている間に人間の口に入る確率はかなり低そう

それならば


農薬で死んだナメクジもしくは死骸から出てきた寄生虫混じりの粘液

他の生まれたての小さな個体が食べる(餌が足りないとナメクジであっても共食いすることは確認されてるらしい。ゆえに死骸ないしは粘液くらいは食べるだろう)

ナメクジが小さい(ナメクジの中では寄生率が高いと言われてるアシヒダナメクジの卵は約3ミリらしい。幼体もそのくらいの大きさだろう)ので気付かずに食べて感染した。農薬の成分ごと取り込んだ場合は寄生虫を抱えた死骸はそのまま野菜に混じっている


という流れの方が自然だ。

ついでに言うと寄生虫が感染した人は半分以上が沖縄在住の人らしい。

小さい島ゆえに収穫した野菜の出荷からの販売までやたらと早そう&寄生率が50パー越えらしいアフリカマイマイや寄生率が20パー越えのアシヒダナメクジがたくさんいるがゆえに寄生虫入り粘液の確率が高くて、乾燥し切る前に人の口に入る可能性が高いからとすればその割合にも説明がつく。


さらにさらに私は調べた。

調べたのは広東住血線虫の生態だ。


基本はカタツムリとネズミの間で行ったり来たり。

ネズミのフンを、ないしはフンから離脱した寄生虫の幼虫をカタツムリが食べたり、触れたりするとカタツムリが感染。

カタツムリ体内でしばらく成長しつづけ、ある程度成長した段階でネズミに食べられるとネズミの体内で成虫になってネズミのフンに混じって卵が産み落とされるという。


卵を産む成虫はネズミの体内にしかいない。

すなわちネズミが少ない地域では自然と寄生虫は少なくなる。


ネズミの数が違う都心と田舎では寄生率が違うそうな。


我が家の近くにはネズミなんて見かけない。

いたとしてもそう都合よくカタツムリに接触できそうではない。

さらに言うとカタツムリの体内に侵入しても種類によっては成長できない場合もあるという。


最後のまとめ。


その辺のカタツムリはまあ、安全な見込みが高い。


仮に寄生していたとしても、寄生虫が体外に出る可能性は低い。


繁殖の時だけ注意かな?



すなわち、触らないに越したことはないが、飼育を忌避するほどではない、が私の結論である。


そして、ここからが本題である。

本題といっても短く済むが、私はその考えのもと最近になって、ミスジマイマイというカタツムリの一種を飼うことにしたのだ。


そして飼ってみると意外な事実がいくつもわかる。


可愛らしさは言うまでもないことであるが、割と大食漢であることだ。

私の知る貝類は体の大きさの割に良く食べるのだが、その貝類の一種にミスジマイマイも加わった。


これがまあ、よく食べる。

体の大きさから、これくらいかな?と思った量より多めに与えた餌の食べ残しが出ても、後で掃除がてら撤去しようとプラケースを除くと綺麗さっぱりなくなっている。

足らないのか床材として敷いている湿らせたティッシュも食べているくらいだ。

昼も夜も変わらず動いているが、夜の方が食欲があるように思う。

餌の代わりに大量のフンが落ちているのだ。


そして糞だが、これがまたカタツムリの面白い点であり、カタツムリは食物に含まれる色素を分解、吸収できないらしい。

にんじんを与えると鮮やかなオレンジ色の糞をすると言うのはちょっと有名かもしれない。

私も小さい頃に買ってもらった図鑑で初めてそのことを知った時はワクワク感に近い、なんかすごいと言う思いを抱いたものだ。


さらには動物の中でもカタツムリには食物繊維を分解するセルラーゼと呼ばれる物質を直接分泌する能力がある。

普通の草食動物の場合、腸内に住む細菌によって消化しているため、これはかなり特異なな力である。

ゆえにティッシュなどの植物繊維だって分解できるせいか、ティッシュだって食べてしまう。

カタツムリのその食性を利用して、色紙を与えて様々な色の糞を出させることだって可能だ。

テレビでカタツムリの糞で虹を描く、なんてこともあったらしいのだから面白い。


糞そのものは色が残るという特徴を抜けば他の小動物達と比較して割と匂いは弱め。

雑菌が繁殖して匂いが出やすいであろう常に湿らせた環境の割にはだいぶ控えめな匂いである。

ティッシュ混じりの糞だからという部分も大きいかも。

ただまあ、無視できない程度にはある。


続けて、また糞についてなのだが、カタツムリは糞を出す時は動かない。

ミスジマイマイだけなのか、個体差があるかは分からないが、意外にもかなり行儀がいい。

出しながら動くかと思いきや、その場にとどまって、体の前部分で包み込むようにしながら畳んでからその場に置き去る。

畳終わるまで動かないのだ。

畳まずに垂れ流しにしたことは飼育してから一度も確認していない。

すごく上品だ。

軟体動物界の貴婦人と言っても過言ではあるまい。

いや、流石に過言か。


とまあまだ飼い始めてから日が浅いので1番に目につく糞の事ばかりの内容になってしまったが、ひとまずはコレくらいにしておこう。

次にカタツムリの事を書く時は卵を産んだ時だろう。

捕まえる前に交尾を済ませていれば産卵するだろうし、その時にまた語りたい。


次回は…そうだな。

ペット用カエルとしてコンスタントに販売されているツノガエルについて書きたいと思う。


お楽しみに






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生き物エッセイ集 百合之花 @Yurinohana

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