第20話
火の手が上がったのは、安武が水嶌の屋敷に滞在して二日目のことだった。
報せが届くなり、冬正は成貞達を連れて竹林へ急行する。安武もまた、馬を駆って彼らを追った。
屋敷に残った椿は男達の無事を祈る。
「奥方様、ご案じ召されますな。殿は私より強うございます。狐如きに遅れは取りませぬよ」
重勝の励ましに笑みを返しはしたものの、椿の心は落ち着かない。彼女の気持ちがうつったかのように、朱丸が騒ぎ出した。
「大丈夫よ、朱丸」
朱丸を抱きかかえて、椿は外を見る。
遠方に煙が立ち昇っていた。おそらくその下に、件の竹林があるのであろう。
「民達に怪我がなければよいのですが」
「あらかじめ対策を取っておりますゆえ、ご懸念には及びませぬ」
そんな会話をしていると、朱丸が一際甲高く声を上げた。翼を広げて椿の腕の中で暴れ出す。
「朱丸? 落ち着きなさい」
椿が朱丸に気を取られている間に、重勝が太刀を引き寄せ周囲を窺う。
朱丸が暴れるのは主人に危機が迫っている時だと、彼は認識していた。
対象が椿なのか冬正なのか判別できないのは歯がゆいけれど、重勝が護れるのは目の前にいる椿だけだ。迷いはない。
女中達も重勝の動きを見て、椿を護ろうと彼女の近くに集まる。
「見つけたぞ」
「誰だ!?」
どこからともなく聞こえてきた女の声。重勝が鋭く誰何した。
しかし声は答えない。代わりにくすくすと哂う。
椿は朱丸を抱き寄せて周囲を見回しながら、屋敷の者達は無事だろうかと考えた。
彼女がいる部屋は、屋敷の奥に位置する。
ここまで末姫が入り込んできたのなら、屋敷にいた者達はどうしているのか。
そう案じた所で、ぞっと寒気が背中を這い上がってきた。椿は奥歯を食いしばり、不安を呑み込む。
「なんじゃ? 主君の奥方の顔を忘れるとは、不届き者よのう」
御簾が一気に青く燃え上がり、人影が姿を現す。
現れた女を目にした女中達が、警戒を含んだ驚きの声を上げた。
「末姫様!?」
金糸や銀糸を用いた豪華な御所解模様の打掛を纏うのは、かつて水嶌の屋敷に住んでいたこともある末姫だ。
けれど当時と違い、彼女の頭には狐の耳が生えていた。
末姫は金の扇で口元を隠し、くすくすと楽しげに笑う。
椿はぐっと腹に力を込めると、末姫を睨み付ける。
「この者達の主は水嶌冬正。そして冬正の妻は、私のみ。あなた様は、蒲野様の奥方様でございましょう? お間違えなさりますな」
武家の嫁として――冬正の妻として、椿は末姫の言葉を聞き流すわけにはいかなかった。
否定された末姫が眦を吊り上げる。
「ええい! 黙りゃい! 妾に意見するなど、身の程を知れ!」
末姫の叫びに呼応して、至る所から火の手が上がった。青い炎が一気に燃え上がり、部屋を包む。
「奥方様、逃げましょう」
お鯨達が叫び、椿を逃がそうと動き出す。だが部屋はすでに火で囲まれて逃げ場はなかった。
若いお鯛が意を決して、炎の壁に飛び込んだ。しかし庭に抜けることなく、悲鳴を上げて戻って来る。
「お鯛!?」
小袖に火が移ったお鯛は、床の上を転げ回った。女中達はお鯛に着いた火を消そうと、己の小袖を脱いで火を叩く。
「無様よのう。自ら火に入るとは、羽虫のようじゃ」
きゃらきゃらと哂う末姫を、椿は睨み付けた。
胸の内が焼けるように熱く感じる。彼女はこれほどの怒りを今まで覚えたことがなかった。
それでも怒りに任せて動けば皆を巻き込んでしまうだろうと、冷静に状況を考える。
一歩前に出た椿は、重勝のすぐ後ろから小声で囁く。
「重勝殿、あの者の狙いは私のようです。私が動きますから、その隙に」
「なりませぬ」
重勝が焦った声で制止するが、椿は身を翻して駆け出した。末姫が立つ位置とは反対側の、更に奥へ向かう御簾に向けて。
「奥方様!?」
女中達が悲鳴を上げる。けれど椿は止まらない。
朱丸を抱いたまま、すでに焼け落ちていた御簾の上を駆け抜けていく。
お鯛と違い、彼女の小袖には火が燃え移らなかった。
運がよかったのか、それとも赤烏の加護があるからか。椿に分かろうはずもない。考えている暇もなかった。
「逃がすものか!」
末姫が叫び追いかける。
椿しか目に入っていない末姫を、重勝が太刀を抜き放ち様、切り上げた。
「なっ!?」
重勝の口から驚愕の声が漏れる。
彼が放った刃は、たしかに末姫を捉えていた。だというのに、末姫は斃れることなく駆け抜けていったのだ。
そして重勝の愛刀は、どろりと飴のように溶けていた。
「奥方様! お逃げください!」
重勝の叫び声を聞き、椿は彼が末姫を仕留め損なったのだと知る。だから、ただひたすらに走った。
「ごめんなさい、朱丸。あなたを巻き込んでしまって」
腕の中に抱えたままだった朱丸に謝ると、朱丸から、ぴいっと元気な声が返ってくる。
まるで気にするなと言ってくれているようで、椿の強張る気持ちが微かに和む。
屋敷から庭へと出た椿は、そのまま庭伝いに玄関のほうへ逃げようと考える。けれど足は止まってしまった。
庭が、燃えていたのだ。
冬正が丹精込めて育ててくれた寒つばきも、朱丸が気に入っていた桐の木も。全て、全て、燃えていた。
木だけではない。何もなかったはずの場所まで、土から噴き上がるように青い炎が覆っている。
振り返れば、屋敷も青い炎に包まれていた。
「そんな……」
愕然と立ち尽くす椿の後ろから、末姫が迫ってくる。
けれど、もう逃げ場はなかった。どちらを見ても火の海で、選べる道は残されていない。
「逃げ足だけは速いのう。まるで鼠のようじゃ」
くつり、くつりと、末姫が哂う。
「どうしてくれようかのう? 焼いてやろうと思うていたが、どうやら冬正は、女の顔が焼かれても気にせぬ様子。ならば、手足をもいでやろうか?」
にまりと、扇子の下の口が弧を描く。
椿の足が、一歩、一歩と後退る。その背に青い炎の熱が触れた。
逃げるためには飛び込むしかない。だがそうすれば、火の海で溺れて焼け落ちるだろう。
「冬正様」
我知らず、椿の口からその名が零れ落ちる。
その直後だった。
「椿!」
椿は自分の名を呼ぶ声に顔を向ける。すると炎の中から韋駄天丸に跨いだ冬正が飛び出してきた。
「冬正様!?」
「椿、手を!」
驚きも束の間。差し出された手に、反射的に手を伸ばす。
しかし触れれば冬正の命を危険に晒してしまう。椿はすぐに引き戻そうとした。
けれど先に冬正が椿の腕を掴む。
朱丸を抱えた椿を韋駄天丸の背に引き上げると、冬正は馬首を返して青い炎の中に駆け戻る。
「おのれ、冬正! 許すまじ!」
末姫の怒声が響き、青い炎が勢いを増していく。
だが韋駄天丸が進む先は、海原が割れるようにして道が現れた。
その道を、冬正は手綱を緩めることなく駆けていく。
脱出を目指す椿達は、青い炎の中を奥へと馬を駆る安武と擦れ違った。
「冬正様! 蒲野様が!」
「言うな。しっかり捕まっておれ」
「はい」
ここで馬を止めれば、椿のみならず冬正と朱丸まで青い炎に焼かれてしまう。今は冬正を信じて彼に身を任せるしかないと、椿は冬正の胸にしがみ付く。
冬正が手綱を振るうと同時に声を発すると、韋駄天丸が跳躍した。
炎の垣根を飛び越えて、燃える屋敷からの脱出に成功する。
「殿! 奥方様! ご無事でございますか!?」
駆け寄ってきた成貞が韋駄天丸の手綱を掴んだ所で、冬正の体がぐらりと揺れた。
「冬正様!?」
「殿!」
寸での所で成貞が支え地面にゆっくりと下ろしたが、冬正の意識はない。
椿の脳裏に、童の言葉が蘇る。
――次に冬正が椿に触れたら、冬正は死んじゃうかも。
「冬正様!」
椿の悲鳴が上がった。
うだるような夏が過ぎ、秋虫達が涼やかな音色を奏で始めた。
末姫が水嶌の屋敷を襲った事件では、幸いにも死者はなく、数名の者が火傷を負った程度で済んだ。
最も深手を負ったのはお鯛だが、腕に火傷の痕が残ったものの、すでに女中の仕事に復帰している。
焼け落ちた屋敷は現在再建中だ。住めるようになるには、まだ時が掛かるだろう。それまでの間、水嶌家の者達は仮の住まいに居を移した。
椿が炎の中で見かけた蒲野安武は、水嶌の屋敷が燃えた翌日に領地である松浜へ戻っている。
後日になって、過分な程の見舞い金が澄久と安武から届いた。
安武からの見舞いには、手助けできることがあれば遠慮なく申し出てほしいとの書状まで添えられていた。
末姫の生死ははっきりしていない。
けれど最後に椿が彼女を見た奥庭から、焼け焦げた狐らしき躯が見つかっている。それが末姫のなれの果てなのだろうと判断された。
こうして狐の妖に対する人々の恐怖は取り除かれたのだ。
そして椿のもとには、あちらこちらから竹に花が咲いたと報せが届けられていた。
夜半にふと目覚めた椿は身を起こし、明るい夜空に目を向ける。濃藍の空には、丸い月が浮かんでいた。
月には蛙と兎が住み、不老不死の妙薬を作っているという。
「その薬があれば、冬正様はお戻りくださるでしょうか?」
丸い月を眺めながら、椿はぽつりと呟く。
屋敷が燃えた日。彼女はかつての白い肌を取り戻した。生え始めた髪は一気に伸びて、すでに肩程まで達している。
けれど、彼女に喜びはない。
「私は、焼け爛れたままでもよかったのです」
なぜあの時、手を伸ばしてしまったのか。
椿は悔やみ続けた。
どんなに悔やんでも時を巻き戻すことはできない。分かっていても、胸の奥から湧き出てくる後悔の念は止められずにいる。
甘やかな鳴き声が聞こえて、椿は月から視線を下げた。
椿の隣には冬正が横たわる。
韋駄天丸の上で意識を失ってから、一度も目覚めていない。
時が止まったかのように眠り続ける冬正は、僧医の見立てによると、なぜ生きているのか不思議な状態だという。
そんな冬正の枕元には、丸くなった朱丸が眠っていた。冬正が眠りに就いてからというもの、朱丸は一時たりとて彼から離れない。
無理に小屋へ戻そうとすれば、相手が椿であっても暴れて啄んでくる。
「冬正様をお守りしてくれているのかしら?」
椿は優しく朱丸の背を撫でた。
枯れ果てたと思う程に流した涙は、まだ残っていたらしい。
ぽたりと落ちて、膝を濡らす。
「どうか、どうかお戻りください、冬正様。お願いでございますから」
縋るように泣く彼女はしかし、決して冬正の体に触れなかった。
竹の実が収穫できたと報告があったのは、山が赤く色づき始めた頃のこと。
「奥方様、竹の実が届きました」
「ありがとう」
収穫したばかりの竹の実が、籠に入れて届けられた。
「けれど、これをどうすればよいのかしら?」
夢の童からは、竹の実を集めるようにとしか告げられていない。
皆で首を捻り思案する。
すると珍しく、朱丸が冬正から離れ椿のもとへやって来た。そして皆の視線が集まる中、竹の実を啄ばみ始める。
「朱丸。いけませんよ」
椿がたしなめるけれど、朱丸は一心不乱に竹の実を啄ばむ。
なおも止めようと椿が手を出すと、抗議の声を上げた。更には羽を広げて威嚇し、腹の下に竹の実を隠してしう。
穏やかだった朱丸の豹変ぶりに、椿達は困惑する。
「奥方様、まだありますから」
見かねた成貞が、控えめに口を挟んだ。
それならばと、椿達は朱丸を見守ることにした。
もう奪われないと理解した朱丸が、身を起こして再び竹の実を啄ばんでいく。
あまりに夢中になって食べる朱丸を見て、それほど美味いのだろうかと、椿達も興味が湧いてきた。しかし関心は、すぐに彼の食欲とは別の所へ移る。
「朱丸の体が、大きうなっておりませぬか?」
烏より一回り程大きかった朱丸が、いつの間にか成長していた。
当惑する椿達の気持ちなど、どこ吹く風。朱丸は成貞が持ってきた竹の実を平らげるなり、ぴいっとお替りを求めるように鳴く。
「成貞殿、まだありますか?」
「すぐに持って参ります」
成貞が部屋を飛び出してから、椿達は改めて朱丸の様子を窺う。
「朱丸様は、食が細うございましたから。たくさん食べて成長したのでしょうか?」
「こんなに急にですか?」
「竹の実ですから」
竹は成長が早い。一日で見違える程伸びることもある。
だからといって、筍を食べた者が急激に背を伸ばすことはない。
答えが出ぬうちに、成貞が竹の実を持って戻った。朱丸の前に差し出せば、先程と同じく夢中になって啄ばむ。
朱丸はみるみると育っていき、雉程の大きさにまでなった。
「奥方様、尾をご覧ください」
重勝に言われて椿が視線を下げると、今度は朱丸の尾まで伸びている。大きな鱗が列なり、藤を模した髪飾りを思わせる不思議な形をしていた。
その内に、立派な冠羽まで現れたではないか。
ここまでくれば椿達も、朱丸がただの鳥ではないと認めざるを得ない。
追加で運ばせた竹の実まで食べて、ようやく満足したのか、朱丸が顔を上げる。
何が起こるのかと椿達が息を呑んで見守る中、朱丸はちょんちょんと跳ねて庭に下りた。
椿達も追いかけて庭へ出る。
日の光を浴びた朱丸の鱗が、きらきらと煌めく。
元々赤味を帯びた色合いをしていたけれど、ほとんど黒に近かった朱丸の羽。
それが夜が明けて朝を迎えるように、赤く輝いていく。広げた翼には紅玉の鱗が並び、赤い炎のように揺らめいた。
羽ばたいた朱丸が、ふわりと宙へ浮かぶ。
宝玉で作られた細工物さえ見劣りする程の美しい尾羽が、空中を揺蕩った。
そのまま椿達を越えて部屋に戻った朱丸は、眠る冬正の上空を、ゆっくりと旋回する。
光り輝く金粉が、朱丸の翼から冬正の体に降り注ぐ。積もることなく冬正の体に吸い込まれていくと、彼の体が金色に輝き始めた。
その人智を超えた現象を、椿達は言葉もなく見つめることしかできない。
冬正の全身が金色の光で包まれると、朱丸は彼の上で飛ぶのをやめて外へ出る。そして屋敷の上空をゆっくりと旋回した。
輝く金粉が舞い降りてくる。
満天の星空よりも美しく、舞う蛍よりも幻想的な光景。
人々は思わず、光る鱗羽に向けて手を伸ばした。
「私の腕が!」
突然、お鯛が驚愕に満ちた声を上げる。
椿達が目を向けると、金粉に手を伸ばし袖からはみ出た彼女の腕が淡く輝いていた。光が収まるにしたがって、火傷で赤くなっていた肌が白く戻っていく。
彼女だけではない。
重勝も、足の古傷が輝き癒えていく。
人間達が驚愕していると、朱丸が下りてきた。椿の前で空中に留まり、嘴の先を軽く彼女の額に当てる。
「もう大丈夫だよ、椿。育ててくれてありがとう」
笑うように目を細めた朱丸が、椿から離れた。
そして、太陽に向かって飛び去っていく。
美しく輝く鳥の姿を、椿達は夢でも見ているような気分で見送る。
「もしや、朱丸様が赤烏様だったのでしょうか?」
呆然と見送っていた人々の中から、重勝がぽつりと零す。
椿ははっとして、懐に手を添えた。
水嶌家を出て尼寺に向かう際に、朱丸がくれた羽根。椿は守り袋に入れて、常に身に付けている。
尼寺でお壼の方に追い詰められた時。飛び来る火の玉は椿を避け、一つも当たらなかった。
末姫が屋敷を襲った際も、炎が椿を焼くことはなかった。
「朱丸が護ってくれていたのね」
遠ざかっていく朱丸の姿に、椿達は自然と手を合わせて感謝を捧げる。
「赤烏様、ありがとうございます」
とはいえ、彼らが遠く離れていく朱丸を眺めていたのは、ほんの短い間のことだった。部屋の中から、呻き声が聞こえてきたから。
反射的に振り返った椿達の目に、薄らと目蓋を開けて彼女達を見る、冬正の姿が映る。
「冬正様!」
「殿!」
椿達は急ぎ庭から部屋の中へ駆け戻った。
冬正は優しく細めた目で、愛しい妻の顔を見る。微かに目を瞠った後、嬉しそうに笑み崩れた。
「椿、癒えたのだな?」
意識も戻らない重体だったのは冬正のほうだというのに。彼が気に掛けることは、いつも変わらない。
愛する妻の幸せ。
それが何より大切なのだ。
椿は呆れ交じりに苦笑しかけるが、目に熱いものを感じで下唇を噛んだ。零れそうになる涙を呑み込むと、改めて口を開く。
「冬正様と、朱丸のお陰でございます」
「朱丸の?」
眠っていて事情を知らぬ冬正は、不思議そうに眉をひそめる。
起き上がろうと身を動かすが、長く眠っていたせいで思うように動かなかったのだろう。よろめいた。
すぐに成貞が手を差し伸べて、冬正を支える。
「よく分からぬが、椿が無事ならそれでいい。……触れてもいいか?」
「……はい」
微かにためらいを見せた椿だけれども、朱丸の言葉を信じて頷いた。
冬正の大きな手が、彼女の頬を包む。
温かくて。懐かしくて。誰よりも愛しい人の手が。
椿の目から溢れる涙が、冬正の手を濡らしていく。
彼女の頬に触れた冬正は、一瞬だけ驚いた顔をした後、これでもかとばかりに表情を蕩けさせる。
愛する妻に触れた掌から伝わってくるのは、柔らかくて温かな、心地よい肌触り。彼の手を焼くことはなかった。
「もう、我慢しなくてもよいのだな」
冬正はもう一方の手も伸ばして、椿の頬を包み込む。
涙に濡れた椿の瞳と、彼女を熱く見つめる冬正の瞳が重なった。
「これからも、私の傍にいてくれるだろか?」
「無論にございます」
二人は額を合わせ、互いの吐息を感じながら愛しい人の姿を瞳に映す。
「椿」
「はい」
「愛している」
「私も、冬正様を愛しております」
椿の頬を包んでいた冬正の手が彼女の背中に回り、抱き寄せた。
<了>
椿燃ゆる しろ卯 @siro-u
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