第6話 記憶




「あれ、三年のときだったか。

 俺とおまえが初めてここ来て、遊ぼうって言ってたとき、あのノラ犬がフラフラやってきたんだよ」


「え……。

 いや、それこそおかしいって!

 俺、おぼえてるぜ。ちゃんとアイツは……」


「……ならよ。

 アイツは一体、どんな服、着てたってんだ」

「そ、そりゃ……ハッキリとは覚えてねぇけど、でも、黒っぽいモン着てたぜ!」


「ああ、たしかにアイツ、うす汚れてたんか、元からの色か、黒っぽい毛ぇしてたよ。

 じゃあ、アイツの靴、どんなモンか覚えてるか?」

「…………………………………………………………」


「そうだ。アイツ、ランドセルしょってたか?

 いや、だいたいだ、おまえ、アイツの顔ってハッキリ覚えてんのか?」

「……………………………………………………………………………いや」


「アイツは何年何組だった?

 それだけじゃねぇよ。おまえ、アイツを学校で見たか?

 このあたりのガキだったら、小学校はあそこしかねぇ」

「………………………………………………………………」





「俺らがここで遊ぶたびにな、ここに住みついてたあのバカ犬が、フラフラ混ざってきてたんだよ。

 犬だからってボールくらい取れるだろ、って思ったら、あのバカ、ぜんぜん取れんのよな。

 こんなバカじゃ、そりゃノラ犬になるわな、って。

 っつーかむしろ、よくノラ犬で生きてられるな、って、お前も笑ってただろうが!」

「………………………………………………」


「あの野郎が寝ぐらにしてた木の根もとの穴のなか、掘りさげて、そこに埋めてやっただろ。

 まあ、埋めてやったっつうか、大人にバレるの怖くって、隠したのは確かだけどな」

「………………………………………………」




「……その、罪悪感、ってヤツだろうな。

 あんなバカ犬だからって、目の前でおぼれちまったら後味わりぃし。

 まぁ、おまえの言ったとおりな、俺だってあのときはめっちゃ怖かったし、腰ぬかしそうになってたわ」

「………………………………………………」


「おまえさぁ、そのショックであの犬を、頭んなかで人間にしちまったんだよ。

 カワイソウ、とか、悪かった、って思いがさ……無意識、っつうか? アイツを人間の遊び仲間に、格上げしちまったんだよたぶん」

「………………………………………………」


「……思い出せよ。

 そりゃあ、俺もそれなりにアイツのことはキライじゃあなかったしよ。

 カワイソウだったとは思うし…………まあ、俺らにも責任があるのかも知らんけどさ。

 ヒトが死んだわけじゃねぇんだ。

 そんなに、七年? ビクビクしてきただなんて、正直、思ってなかったよ」

「………………………………………………」




「だからさぁ、そこまで気にすることねぇんだよ。

 やめようぜ? 今さらあんなガキのころの遊び場へ、こんなハヤシ通ってさぁ。

 帰ってさぁ、ウチへでも……」

「………………………………………………本当か?」

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