第4話 土に




「おぼれてたときよりも、白目、ギョロってむき出して。

 口もギャンギャンさけんでた時よりも、ずっとでっかく開けてさぁ。

 舌がやたら長く、ダラン、って伸びてたん」

「……………………………………………」


「あの頃からバカだったけどさ。

 さすがに一目でわかったわ。

 ……あぁ、死んだんだ、って」

「……………………………………………」


「そしたらさぁ。

 アイツがおぼれてんの見てた時よりもなぁ、ずっと怖くなったんだよ」

「……………………………………………」


「ザイアクカン、ってやつなんかな。

 それとも、死ぬのを見るのって、あんな怖いのが普通なんかな。

 …………いや、違うわ。

 俺が怖かったの、これが親とかセンセーとか、大人にバレることだったんよ、きっと」

「…………………………………………………」


「“トモダチを死なせた”んだ。

 怒られるなんてもんじゃねぇじゃん。

 どなられて、なぐられて、おまえなんかクズだとか、産まなきゃよかった、とかさんざん言われてさ、オモチャもマンガもぜんぶ捨てられて、家から追いだされるかも知れん」

「…………………………………………………」


「……こういうこと聞くのってさ、ひでぇコトだってわかってるけどさ。

 ……お前も、あのとき、そうだったんだろ?

 何よりもさぁ、バレるのが怖かったんだろ?」

「………………………………………………………」


「だからだよなぁ。

 二人で、何にもいわずにさ。ヒミツキチがわりにしてた、でっかい木の足もとの、でっかい穴になったとこへ、アイツを引きずってったんだよな」

「………………………………………………………」


「だまったままよぉ、二人でシャベルで土、掘って。

 アイツをの体がすっぽり入るくらいの穴ができたんだよ。

 そこにアイツを投げこんで。

 ほった土、あとからぜんぶ投げこんで」

「………………………………………………………」


「ヒミツキチにあった菓子のでっかい缶。アレも上から投げこんだよな。

 なんかで読んだんだと思うけど。

 もしココが掘りかえされても、コレが出てきたら、そこで掘るのやめるだろ、アイツを堀りおこすまではきっと、しねえだろ、って。

 ……ガキの小細工だったよなぁ」

「………………………………………………………」


「んでそれから、あたりのあちこち掘りかえして、もっともっと土、投げこんで。

 石もまぜて、土といっしょに上にのせて。

 最後には、落ち葉とか木切れとか、上からかぶせて。

 そこにアイツを埋めたって、わかんねぇように」

「………………………………………………………」


「結局さ。

 その頃にはよ、あたりすっかり暗くなっててさ。

 ホントに、埋めたのわかんなくなってるかなんて、それこそわからんかったけど」

「………………………………………………………」


「でもさ。確かめに行けなかったんよ。

 怖くてさ。すっげぇ怖くて。ここに来るなんて、ぜったい、どうしても無理だった」

「………………………………………………………」


「おまえも……確かめてないよな。

 ……そりゃそうだよな。あのあとすぐ、おまえんとこ、U市へ引っ越しちまったんだもんなぁ」

「………………………………………………………」


「だからさぁ。ここへ来るなんて、アレから、これが初めてなんだよ」

「………………………………………………………」



「…………なぁ?」

「………………………………………………………」



「…………バレてないよな?」

「……………………………………………………………」



「…………バレないって、思うか?」

「…………………………………………………………………」

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