第2話 もう一人




「はァ? いったい何を言ってんの。

 あの頃、ここで遊んでたんは、俺とおまえと二人だっただろ。

 いやまぁ、たまー、に、他のやつも来たことあったけど。そゆことか?」

「いただろが。もう一人」


「…………あ~~。

 まぁな。たしかに、いた、っちゃあ、いたけどな。

 けどおまえ、あいつを入れて、もう一人、って」

「…………本気で、言ってんのか?」


「…………あのさぁ。ホントおまえ、どうしたん?

 はっきし言って、あんま感じよくないぞ?」

「……いや、気分わるくしたんなら、あやまるよ。

 覚えてたんよな、アイツのこと」


「まあな。

 まあ確かに、アイツも遊び仲間っちゃあそうだったよな、いちおうな」

「……………………」


「まあ、遊ぶ、ってもな。

 アイツ、むちゃくちゃバカだったからな」

「……………………」


「ボールなげて、キャッチしろ、っても、ぜんぜん動かんし。

 三回くらいどなりつけてよ、やっと、ボールなげたほうへ頭むけたりとか、いっつもそんな感じだったし」

「……………………」


「ほら、あそこ、池っつうか沼っつうか……いや、そんな大したもんじゃなかったか。

 水たまりがあったよな。

 たまにさぁ、ボールそれて、あの水たまりに落っこちることあったけど。

 そういうときにかぎってアイツ、なんでかな、ボールおっかけて水たまりに入るんだよなぁ」

「…………………………」


「しかもなぁ、やったらザブザブ、水、はねちらして。

 やめろこのバカ、って言ってもさぁ。

 ぜんっぜん、わかってねぇ顔で、ビショビショのままで、こっちまで近よってきてよ。

 ブルブル体ふるもんだから、あの水たまりのきったねぇ水。俺らのほうまで飛んできてよ」

「…………………………」


「てぇかさぁ。アイツ自体が汚いんよな。

 近くよるだけでクサくってさ。

 まともに体あらったこととか、一度もなかったんだろうな」

「…………………………」


「あんまり頭わるいからさ、何度かさ、頭ぶん殴ってやったこともあったよな。

 さすがに怒るか、って思ったら、あの野郎。えっ、ってツラするだけでよ。

 何がどうして何があったとか、まったくわかってないって感じで。

 あん時は笑ったわぁ」

「…………………………」


「……何だよ。

 おまえだってあの時はゲラゲラ笑ってたんじゃんよ」


「……………………ああ、そうだな。

 ところでさ、お前さあ。

 アイツがどうなったか覚えてるか?」

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