彩食祭-3
ゼナイドが美味しそうな匂いにつられて入った店で、『匂いの正体である新作! 開発中! モルガのタマゴと特製ソース! とろけるオムレツ 〜感想をぜひ教えてください〜』を注文し、楽しみに商品が来るのを待っていた。
ゼナイド以外の客で既に食べている者が多くいて、所々からとろけ具合に感動している声が上がっている。
「んめぇな〜! 今年の『さいしょくさい』はコレで決まりかぁ」
「まだ改善の余地はあると思うので、是非感想を…!」
「いや、もう俺にとっちゃ完璧だよ?」
「ありがとうございます!」
町を歩いている時にもちらほら耳にした『さいしょくさい』。テーラウム独自の催事なのだろうとあまり気にはしていなかったが、どうやら料理に関係したものらしい。美味しい料理対決といったところか。
そう考えている内に、ゼナイドの元にもオムレツがやってきた。「お待たせいたしました」
優しく置かれた振動でもぷるりと揺れるオムレツ。
黄身の色が真っ黄色で、表面はつやつや。ソースの匂いが甘辛風の香ばしさを抱えて鼻腔をかすめる。
間違いなく美味しい。後でエクトルに教えてあげようと決めた。
「美味しそうですね」
「ありがとうございます」
「…あの、『さいしょくさい』、って一体?」
「お客様、テーラウムは初めてなのですね。ご説明いたします」
5年前から町長になった男――ゴルド町長が始めた『
町長はテーラウムと付近の町に『料亭ゴルド』を出店し、経営している。6年前に、北部の大都市レッハルトの近くのガナンという都市に出店した。
大都市圏内に店を出すことは容易では無いようで、テーラウムは大盛り上がり。旅人の中には本場の味を求めてやって来るものもいるという。
彩食祭ではゴルド町長とその夫人、それと毎年誰か別に一人もしくは数人が審査員となって、テーラウムの料理自慢――それは、テーラウムの町民であれば店だろうが個人だろうが構わない――に自慢の一品を作ってもらう。
審査の末に優勝した一品は、翌年の火〜風の期間、料亭ゴルドのメニューとして採用されるというのだ。
「ゴルド町長が、テーラウムの活性化を図るために始めた企画でもあるんですよ」
この彩食祭の効果は凄まじく、大都市ガナン支店でも大盛り上がり。大都市圏の方から、今年の彩食祭メニュー考案者を訪ねてきたという者もいるそうだ。
「我々も毎年出場していまして。よろしければ、お祭りの雰囲気もお楽しみくださいね」
「ありがとうございます。だから感想を、と書いていたのか…なるほど。では、いただきます」
「はい、ごゆっくり。ご感想もお待ちしています」
物腰柔らかな店員が去って、ゼナイドはオムレツを早速味わうことにした。
「とろける…!」
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